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気になる女

 ほのかのスマホから、あやめのコスプレ写真を全削除した後。


 恭は夜になっても、ほのかの奇行が気になっていた。


 そこで弟は珍しく自分から姉の部屋を訪ねて、ほのかについて質問した。


「お前がよく家に連れて来る眼鏡の友だちって、どんな人?」

「なんだ? お前が女の子のことを聞くなんて珍しい。もしかして、ほーちゃんが気になるのか?」

「まぁ、ある意味では」


 相手は一応あやめの親友だ。『なんかヤベーヤツなんじゃねぇのか』とは言えないので、恭は曖昧に濁した。


 弟の返事に、姉は目を丸くすると少し寂しげに口を開く。


「……ほーちゃん、ちょっと変わってるけど、いい子だぞ。向こうもお前に興味あるみたいだし、今度デートにでも誘ってみたら?」

「は? なんの話?」


 眉をひそめる恭に、あやめも困惑顔で問い返す。


「なんの話って。ほーちゃんが気になるんだろ?」


 不名誉な誤解をされた恭はイラッとしながら訂正する。


「女として気になってるわけじゃねぇよ。お前に害が無いか気になってんだよ」

「私に害が無いかって? ほーちゃんは中学からの付き合いで、いちばんの親友だぞ。私に近づいて来る女は大抵お前目当てだが、ほーちゃんは私を好いてくれてるしな」


 今では八神姉弟に異常な関心を向けているほのかだが、はじまりは普通のオタク友だちだった。


 しかし異常な面しか知らない恭は、こんな懸念を抱いた。


「その好きが異常って言うか……前に話した時『お前の可愛さについて語りたい』とか、異常なテンションで迫って来て、なんかヤバい人なのかと」

「え~? 確かにほーちゃんはよく私を可愛いって褒めてくれるけど、そんな異常なほどの愛情は感じたことないけどな」

「体を触られたりとか裸を見たがったりとかしない?」


 弟からの予想外すぎる質問に、あやめは呆気に取られながら答える。


「ガチで心配してるじゃん。ほーちゃんはそんな百合っ子じゃないから大丈夫だぞ。むしろセクハラなら私がしてる」


 それは恭を安心させるための、ほんの冗談だった。


「するな。あんな危ない女に」


 ところが弟が尚も親友を危険視するので、


「お前はほーちゃんを分かってない! ほーちゃんはすごいんだぞ! 大人しそうな顔をしてHカップもあるんだ! お尻も太もももムチムチなのに腰はくびれてるし! 文字どおりのえちえちボディなんだよ!」


 『どちらかと言えば危険なのは、ほのかのほうだ』と、あやめは強く訴えた。


 あやめもあやめで、ほのかの容姿を『ハーレムものに出て来る典型的な巨乳眼鏡っ娘みてぇ』と、よからぬ目で見ている。


 親友の性的魅力について熱弁する姉に、弟はゴミを見る目で言う。


「親友に劣情を向けんの流行ってんのか」

「私はほーちゃんに劣情を抱いてるけど、向こうはそうじゃないから大丈夫」


 どこまでもふざけるあやめに、恭は説得を諦めて注意だけする。


「とにかく女同士だからって、あんまりベタベタするなよ」


 恭としては当然の忠告だったが、あやめはギャンと吠える。


「同性との戯れまで禁じられたら、私は何と戯れればいいんだ!? ほーちゃんがダメなら、お前が胸を触らせろよ!」


 姉の不可解すぎる要求に、弟は眉を寄せて問う。


「男の胸なんて触って、どうすんだよ?」

「触るって言うか顔を埋めてぇ。大きな胸に抱かれて、おぎゃりてぇ」


 下卑た笑みで言うあやめに、恭はドン引きで口を開く。


「お前、本当にキモイ。こんな女のどこがフェアリーなんだ?」

「そんなの名乗った覚えねぇ。お前こそなんだ? 急にフェアリーって」


 自分が言ったわけじゃないが、あやめが妖精のようだとほのかと話していたことを知られたくない恭は、


「とにかく俺が胸を貸してやれば、あの女にはねだらないってこと?」


 と話を戻した。


「姉の親友を『あの女』呼ばわりとは。お前、本当にほーちゃんと何があったんだよ……」

「ゴチャゴチャうるせぇ」


 ほのかとのやり取りを知られたくない恭は、あやめを引き寄せると、自分の胸に顔を埋めさせた。


「ほら、これでいいんだろ?」


 恭は実際やったら、すぐに飽きるだろうと思っていた。姉のこういう発言は大抵ツッコミ待ちの冗談だからだ。


 ところがあやめは一瞬の硬直ののち、


「へへ~っ。雄っぱい、雄っぱい」


 と嬉しそうに恭の胸板をまさぐった。そんな姉を弟は白い目で見下ろす。


 軽蔑の視線に気づいたあやめは「わ~」と半笑いで述べる。


「その虫けらを見るような冷たい目。それなのに胸は触らせてくれるとか、新しい性癖の扉が開きそうだな」

「開くな」


 次の休日。今日もほのかが八神家に遊びに来ていた。あやめは自室で何気なく、先日の恭とのやり取りをほのかに話した。


 友人の弟にヤバい人認定されたと知ったら、普通は落ち込むところだろう。しかしほのかは「嬉しい」と頬を染めて言う。


「恭君の私へのヘイトが、そんな姉弟のイチャラブイベントに繋がったなんて。男の人と話すの苦手だけど、がんばって良かった……」

「そっと涙を拭うほど?」


 あやめは親友の反応に瞠目しつつも、「でも」と話を変える。


「恭の胸に顔を埋めて分かったんだ。確かにアイツの胸板は最高だった。定期的にお願いしたいほどだった。でも、やっぱりおっぱいとは似て非なるもの。ふわふわ、ぽよぽよのおっぱいを諦められるほどのものではないなって」

「つまり?」


 結論を求めるほのかに、あやめはキュルンと可愛い顔を作ってねだる。


「ほーちゃん、大好き。今日もパフパフして?」


 同性同士でも普通ならあり得ない要求。しかしほのかは「う~ん……」と苦笑いしながらも、こう答える。


「女の子同士でも胸を触られるのは恥ずかしいんだけど、あやちゃんはいちばん大事な友だちだから、いいよ」

「やったー!」


 あやめもほのかも人見知りなので、お互いがたった1人の友だちだ。それゆえ親密すぎるスキンシップも許していた。


 けれど、それを邪魔するようにドッ! と、いきなり壁が鳴る。


「ぎゃっ!?」

「えっ!? 何!? 今の恭君!?」


 突然の壁ドンに、あやめとほのかは腰が浮くほど驚いた。


 次いで、あやめのスマホにメッセージが届く。


『その女とベタベタすんなって言っただろ』


 弟の監視に気付いたあやめは「ひぇっ」と恐怖で震えあがる。


「私たちの会話を隣から聞いてらっしゃる。アイツにはプライバシーって概念が無いのか?」


 そんなあやめをよそに、ほのかは恍惚に頬を染めて呟く。


「すごい、恭君……。お兄ちゃんだけじゃなく、私にも嫉妬するんだ……」


 またよからぬ妄想を膨らませる親友に、あやめは「いやいや」とツッコむ。


「嫉妬とかじゃなくて。さっきも言ったけど、アイツはほーちゃんをヤバい女だと思っているらしい」

「ヤバい女って?」


 さっきは濁したが、言わなければ恭の態度の説明がつかない。


「失礼な誤解で悪いんだけど、私を性的に狙ってるんじゃないかって」


 流石に気を悪くするかなと心配するあやめをよそに、ほのかはむしろ歓喜して叫ぶ。


「すごいね! 私があやちゃんを想う気持ちはあくまで友情か推しに対するものなのに、恭君の目にはそう見えちゃうんだね!」


 けっきょく禁断愛フラグに結び付ける親友に、


「まぁ、ほーちゃんが私と弟の関係にあらぬものを見てしまうのと、同じことかもしれないね……」


 と、あやめは半笑いで返した。

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