学園祭・6
恭が本気を出せば槇と陽太くらい軽く振り払える。しかし姉の写真が撮りたいからと、友人に乱暴するわけにはいかない。
結果、恭は撮影を諦めるしかなかった。
「お前らのせいでアイツの写真を撮り損ねた」
ぶちぶちと文句を言う恭に、陽太は不思議そうに首を傾げる。
「何? そんなに、お姉さんの猫耳姿を撮りたかったの?」
「違う。不細工な写真が撮りたかったの」
「自分がコスプレ写真を撮られたから、お姉さんの変な写真を撮りたがるって、恭って意外と子どもっぽいね~」
などと恭と陽太が廊下で言い合っていると、
「きょ、恭君。ちょっといいかな?」
と声をかけてきたのは、ほのかだった。
ほのかは恭を連れて空き教室に入ると、
「あの、結局あやちゃんの写真を撮り損ねちゃったみたいだから。私が撮らせてもらった写真を、良かったらあげようかなって」
と、またも不可解すぎる申し出をした。
この女はなぜか、やたら姉の可愛い写真を自分に寄越そうとすると恭は思い出した。
本人いわくあやめの可愛らしさを語らいたいらしいが、恭は自分も同類だとは思われたくなかった。
「……俺は別にアイツの可愛い写真が欲しいわけじゃなくて、自分が変な格好を撮られたから仕返しとしてアイツの変な写真を持っておきたいだけだって、分かってますか?」
「分かってる! 分かってるよ! 恭君の気持ちは!」
「なんか怪しい……」
警戒する恭に、ほのかはキョドキョドしながら弁解する。
「ほ、本当に怪しくない。あやちゃんは恭君の学園祭の写真を持ってるのに恭君は持ってないの、不公平かなと思っただけだから……」
「……それならいいけど」
「何枚か撮ったけど、どれがいい?」
ほのかは数枚の写真を恭に見せた。「にゃ~」とノリノリで猫っぽいポーズをする姿もあれば、食事中や受付中などもっと自然体の姿もある。
最初は1枚選ぼうと思っていた恭だったが、しばしの逡巡の末、無愛想に頼む。
「……今は選ぶ時間が無いんで。とりあえず全部送ってくれたら、後で要らないのは削除するんで」
「そうだよね! 一旦、全部送ったほうがいいよね!」
恭にあやめの写真を送ったほのかは、軽やかなステップで教室に戻った。
「お帰り、ほーちゃん。ものすごいホクホク顔だけど、どうしたの?」
「えっ? うん、ちょっと。トイレの帰りに素敵なカップルを見かけてしまって」
まさか親友が弟に自分の写真を横流ししているとも知らずに、
「へ~、いいな。私も見たかった」
と、あやめは暢気に羨ましがった。
興奮冷めやらぬほのかはグッと拳を握って熱く語る。
「普段とは違う推しカプの姿が見られる……学園祭って最高のイベントだよね!」
学園祭2日目も無事に終了し、後夜祭が始まった。
体育館では学園祭のフィナーレを飾るべく、吹奏楽部やダンス部のパフォーマンスや、最も評判になった出し物の表彰などが行われた。
そして最後に、新聞部がこんな発表をした。
「はい。ここで新聞部からサプライズ企画の発表です。実は今年度の学園祭! 密かに学校一のモテ男子&モテ女子を決める人気投票を行っていました~!」
ワーッと盛り上がる生徒たちの中、恭は不可解そうに首を傾げる。
「なんだ、それ? 人気投票があったなんて全然知らないけど」
「知らないのは、お前が投票される側だったからだよ」
種明かしする槇に続いて、陽太が詳細を説明する。
「新聞部が各クラスから1人モテる男子と女子を選出して、本人たちには内緒で投票してたんだよね。その結果が出たんだって。うちの学校でいちばん人気のある女子って誰だろ? 楽しみ~!」
陽太が笑顔で言ってすぐ、司会が結果を発表する。
「投票の結果! 学校一のモテ男子はボクシング部の八神恭君に決まりました! 2位の西条君は現役モデル兼インフルエンサーという強敵でしたが、夏のインターハイ優勝と学園祭での好演が決め手だったようですね!」
解説を終えると同時に、全校生徒からいっそう大きな拍手喝采が起こった。
「すごいじゃん、恭。モテるのは知ってたけど、これで正式に学校一だね!」
「嬉しくねぇ……」
ここまで大袈裟にチヤホヤされると、かえって馬鹿にされているようで恭はうんざりした。
「なお、グランプリに選ばれたお二方には、校長のポケットマネーでデスティニーランドのペアチケットがそれぞれ授与されます」
「えっ、すごい! デスティニーランドのフリーパスって、1枚6000円はするでしょ!?」
「それを校長が自腹で4人分も用意してくれたのか。太っ腹だなぁ」
恭は女子の1位と壇上に上がらされた。
「お2人はこのチケットで誰を誘いますか?」
「えっ? どうしよう? 私はいま彼氏いないので。どうせだったら、1人ずつ友だちを誘ってダブルデートでもしちゃう?」
司会に質問された1位の女子が、はにかみながら恭に提案する。
「受けてぇぇ! 恭~! そして俺をダブルデートに連れて行ってぇぇ!」
遠くから陽太の叫びが聞こえたが、恭は「とりあえず、それ以外で」と冷淡に切り捨てた。
学園祭が終わり、帰宅する途中。いつもは別々に帰る姉弟だが、今日は時間が遅いので一緒だった。
「なぁ、恭~。後夜祭でもらったペアチケットだけど」
ねだるように腕を絡めてくる姉を、弟は不機嫌そうに見下ろして問う。
「自分が行きたいとか言うんじゃないだろうな?」
その推測を、あやめは二パッと肯定する。
「流石は弟、話が早い。お前がいつもつるんでる友だちって2人だろ? どっちかだけ誘うんじゃ角が立つし、ここはお姉ちゃんを選ぶのがベストだと思うな!」
「なんで高校生にもなって、姉弟でテーマパークに行かなきゃいけねぇんだよ」
「それはお前に彼女も好きな子もいないからだ! それとも何か!? 私以外に誘うあてがあるって言うのか!?」
あやめの言うとおり、姉を避けたとして男2人でテーマパークという感じでもない。
しかしあやめを喜ばせるのは癪なので、恭は別の使い道を考える。
「自分で行かなくても、欲しいヤツに半額で売る手もあるし」
「校長が高いフリーパスを自腹で用意してくれたのは、生徒たちに青春の思い出を作って欲しいからだそうだぞ。その校長の善意を、お前は半額で売ろうって言うのか!?」
姉の熱い説得に、弟は渋々折れた。
「……分かったよ。お前には劇の借りがあるし、一緒に行ってやるよ」
「本当!? やった~!」




