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学園祭・5

 学園祭1日目の夜。


 帰宅した八神姉弟は夕食の席で、母に今日の感想を聞かれた。


「今日は学園祭だったんでしょう? お母さんは仕事で行けなかったけど、楽しめた?」

「楽しめたって言うか、取りあえず劇の初日が無事に終わってホッとした」


 息子の報告に、母は輝く笑顔で絶賛する。


「恭の演技、すごく良かったわよ! あやめが送ってくれた動画を見て、お母さん惚れ惚れしちゃった!」

「なんだよ、あやめが送ってくれた動画って。勝手に撮影してたのか?」


 怒られそうな気配を感じたあやめは、


「家族が主演なんだぞ!? 撮るに決まってんだろ!」


 と先手を打って、勢いで有耶無耶にしようとした。


 その様子を見た母が、ケンカになってはマズいと仲裁に入る。


「怒らないで、恭。お母さんがあやめに頼んだのよ。恭が劇で主役をやるって言うから、動画を送って欲しいって」

「息子の恥をわざわざ見ようとすんな……」


 嫌がる恭に、あやめが横から言い聞かせる。


「本人には恥かもしれんが、私も母さんも真面目にお前の活躍を喜んでるんだぞ。こんな温かい家族がいることに、むしろ感謝して欲しい」


 その台詞に、恭はジト目でぼやく。


「自分は何を書いてるか絶対に教えないくせに」


 あやめが創作をしていることは以前から知っていたが、ただの趣味ならともかく本が出るとなれば身内は気になる。姉の小説を読んでみたかったが、あやめは頑なに教えなかった。


「小説なんて所詮、妄想の産物だぞ。同好の士に向けて垂れ流すのはいいが、身内に晒すもんじゃねぇ」

「……じゃあ、明日またお前のクラスに行くわ」

「なんで?」

「お前のアホみたいな仮装を撮って母さんに晒す」


 恭の報復に、母は目を輝かせて乗っかる。


「え~? あやめも何かの仮装をしたの? 見た~い」


 しかし恭の嫌がらせに、あやめは不敵な笑みで返す。


「へっ、愚かな弟め。私は自分に冷ややかな他人にも猫耳姿を晒したんだぞ? 私に激甘な母さんに写真を見られるくらい、なんてことないわい」


 娘の同意を確認したところで、母は改めて息子に頼む。


「じゃあ、明日はあやめの写真を撮って来てね」

「余計なタスクが増えた……」


 夕食後、それぞれの部屋に戻る前。


 あやめは恭を振り返って言う。


「私のコスプレ写真だけど、ほーちゃんに撮ってもらうから、お前は来なくていいぞ」

「来るなって、なんで? 昼間も妙に邪魔にしてたし、そんなに俺に来られたくないの?」


 不満そうな弟の推測を、姉は悪気なく肯定する。


「そりゃお前がクラスの男子を睨むからだろ? 前に私に嘘告白かましてきたヤツと違って、アイツらには別に虐められているわけじゃないし。キャンキャンうるさいだけの小犬君たちに、闘犬けしかけちゃ可哀想だろが」

「誰が闘犬だ」


 恭はいつもどおりツッコむと、無愛想に話を戻す。


「……とにかく明日は俺がお前を撮りに行くから」

「お前こそ、なんでそんなにうちのクラスに来たがるんだよ? さっきは余計なタスクって言ってたくせに」


 不可解そうに尋ねるあやめに、恭は少し目を逸らしながら答える。


「……秋津さんは写真を撮るのが上手いから、俺が自分の手で最高に不細工な写真を撮る」

「なんだ、その嫌がらせ!? わざわざ不細工に撮るとか言ってるヤツに、絶対に撮らせるか! 絶対に来んなよ!」

「やだ。絶対に行く」


 学園祭2日目の自由時間。恭は友人たちの誘いを断って、1人であやめのクラスに向かった。


 しかしあやめのシフトではなかったようで、教室内に姉の姿は無かった。


「あっ、八神君だ!」

「写真を撮りに来たの? それともお姉さんに会いに?」


 恭に気付いた3年女子たちが、わらわらと寄って来る。


 いつもの恭ならさっさと逃げるところだが、今は聞きたいことがある。


「母に姉の写真を撮って来いって頼まれて。アイツが仮装して店番してる時間って、いつですか?」

「八神さんのシフトはね~」


 あやめのシフトを聞いた恭は、その時間に出直した。


「なんで来るんだよ!? 絶対に来るなって言っただろ!?」

「絶対に行くって言った」


 仮装を脱げたらいいが、普通の制服姿ではハロウィンフォトショップの雰囲気を壊してしまう。


 あやめは仕方なく、ほのかの後ろに避難する。


「ほーちゃん、助けてくれ! 弟が執拗にパパラッチしてくる!」

「ああ~。推しカプの学園祭イベントに巻き込まれてる~。幸せ~」


 恍惚の表情で壁になっているほのかを恭が「邪魔だな」と思っていると、背後から声がかかる。


「あれ? 恭、何してんの?」


 恭が肩を跳ねさせて振り返ると、そこにはやはり陽太と槇がいた。


「お前らこそ、なんでここに?」

「昨日はけっきょく写真を撮れなかったから。最初は男同士でハロウィンフォトなんてと思ったけど、実際に来たら背景も衣装もけっこう凝ってるし、いい思い出になるかなって槇と来たんだ」


 陽太の説明に続き、槇は「で?」と首を傾げて尋ねる。


「なんでお前はスマホを持って、お姉さんを追い回してるんだ?」

「それは……」


 言いよどむ恭を尻目に、ほのかの背中から顔を出したあやめは涙目で訴える。


「聞いてください、弟が酷いんです……。私が昨日コイツの劇を勝手に撮影して母さんに見せたから、仕返しに私の不細工な写真を撮ってやるって、しつこく追い回すんです……」


 うるうると被害者ぶる姉に、弟はカッとなって言い返す。


「テメェ、普段は男怖いとか言ってるくせに」


 ところが、それを妨害するように「やめなよ、恭!」と陽太が恭の腕を取る。


「こんなに小さくて可愛いお姉さんに、なんで意地悪するの!?」


 常に異性に飢えているだけあって、陽太は友人よりも女の子の味方だ。


「こんな安い泣き落としに引っかかんな。コイツはそんなか弱い女じゃない」


 しかしもう一方の恭の腕を、槇がガシッと掴んで言う。


「はいはい。お店の迷惑になっちゃうから、俺たちと学園祭を回ろうな~」


 陽太と槇に片腕ずつ拘束された恭は、そのままズルズルと引きずられて行った。


 そんな弟に、姉は自分の頭を指しながら挑発的に舌を出して笑う。


「へへーん! お前とはここが違うんだよ! バーカ! バーカ!」

「おい! 槇、陽太! 後ろ見ろ! あの憎たらしい顔を!」


 カッカする友人に槇は薄笑いで、


「恭君や。たとえ演技だと分かってても、助けてあげるのが男ですよ」


 と(さと)して、そのまま恭を連行した。

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