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学園祭・4

 自分のクラスの当番をしていたあやめは、男子の団体客が入って来て怯んだ。


「うわぁぁ。男子の団体客が入って来た……って、恭かよ。驚かせんな」

「お前が勝手に驚いたんだろ」


 恭はすかさずツッコむと、あやめをジッと見下ろして尋ねる。


「……つーか、何? その付け耳と尻尾」


 あやめは黒の猫耳付きカチューシャに、金の鈴が付いた赤い首輪をしていた。さらに制服の上着に隠すようにして、尻尾付きのベルトをしている。


「前に話しただろ? 店員は当番中、見本がてらコスプレするんだ。私は黒猫。ほーちゃんは魔女」

「い、いらっしゃい……」


 ほのかはリボンの付いた三角帽子とケープのような黒マントを羽織り、両手で杖を持っていた。


 ほのかの姿を見た陽太はハッと気付く。


「もしかして、この人が秋津先輩!? 確かに可愛くて、おっぱい大き、むぐっ!?」

「女性を不快にさせるような発言はダメだ」


 瞬時に陽太の口を塞ぐ大田原に、ほのかはのんびり声をかける。


「あっ、大田原君。この間は沖縄のお土産をありがとう。シーサーすごく可愛かったし、お菓子も美味しかった」


 笑顔でお礼を言われた大田原はポッと頬を染めながら答える。


「あっ、いや、その。喜んでもらえて良かったです……」

「2人ともハロウィンの衣装似合ってますね。魔女も黒猫もすごく可愛い」


 純情な大田原と違い、老若男女にフレンドリーな槇は、にこやかに女子2人を褒めた。


 しかしあやめは喜ぶどころか、恭の後ろにサッと隠れる。


「うわぁぁ、恭~。お前の友だちが話しかけてくるぅぅ……」

「普通のやり取りに怯えんな」


 弟は姉に呆れながらも、槇との間に立ったまま言う。


「悪いけど、コイツはこのとおりコミュ(りょく)ゴミだから話しかけないほうがいい。お前が不快になるだけだ」

「俺はお姉さんの反応、面白いからいいけど」

「は?」


 瞬時に殺気を放つ恭を、槇は震え声で宥める。


「威嚇せんで……。何もお前から、お姉さんを奪おうってわけじゃないのよ……」

「別に威嚇なんてしてない」


 言い合う男子たちをよそに、あやめは恭を見上げて問う。


「で、けっきょくお前たちは何しに来たんだ? まさかハロウィンのコスプレをしに来たわけじゃないだろ?」

「……大田原が秋津さんに会いたがってたから、付き添いで来ただけ」


 大田原と会ったのはここに来てからだが、恭は軽く嘘を吐いた。


「じゃあ、大田原君だけ残して帰れば? お姉ちゃん、男苦手なんだから、この部屋の男性密度を無駄に上げないでくれ」

「お前そんなんで、よく接客が務まるな」

「基本的に女性客は女子が、男性客は男子が接客する決まりだから。女性や子ども客への対応なら私にもできる」


 あやめは人見知りだが、相手が同性や子ども、お年寄りなら義務的な対応はできる。15歳以上30歳以下の男は義務でも断固拒否したい。


「おい、八神。弟が来たからって、くっちゃべってないで仕事しろよ」


 乱暴に命じたのは、先ほど恭のことで女子に泣かされた男子たちだった。恭への嫉妬に加えて、八神姉弟のせいで酷い目に遭わされたと勝手に悪感情を持っている。


 姉への悪意を感じた弟はピシッと空気を凍らせると、


「今ここには俺たちしかいないのに、なんの仕事があるんですか?」


 と静かな怒気とともに低い声で問う。


 もし恭と彼らがバトルになったら30秒で叩きのめされる。


 それほど力の差のある相手に睨まれた男子たちは内心ビクつきながらも、女子の前で年下に舐められたくないと、


「た、確かに急ぎの仕事は無いけど、だからって当番中に身内としゃべってられたら目障りだろ……」


 と、なんとか言い返した。


 言葉とは裏腹に、恭が怖くて目も合わせられない気の毒な男子たちを見かねて、あやめが助け船を出す。


「いいって恭。アイツら、さっきお前のことで女子にボロクソ言われて腹を立ててるだけだ」

「俺のことでって何?」


 不可解そうに尋ねる弟に、姉は真顔で答える。


「お前が世界一のイケメンであることを否定したら、女子に『鏡を見てから言え。この全面ブス』ってキレられた」

「そりゃ向こうが正しいだろ」


 これだけ女子にあからさまな好意を向けられているので、恭は自分がモテる部類であると理解している。しかし明らかに世界一のイケメンではない。


 けれど謙遜する弟に、姉は激高して叫ぶ。


「お前が世界一のイケメンであることは女子の総意だが!? 仮に違うとしてもイケメンの端っこにも引っかかってない者たちに否定する権利は無い!」

「なんだよ! いくら弟はイケメンだからって! 自分はブスのくせに!」


 ディスられたと思った男子たちは咄嗟に言い返した。


 悪いのは明らかにあやめだったが、


「あ? 誰がブスだよ?」


 と恭に凄まれた彼らは「いや……」とたじろいで弁解する。


「ブスは言い過ぎかもしれないけど、自分だって俺らをどうこう言えるほど可愛くないと言うか……あっ、やっぱり可愛いです! ゴメンなさい!」


 しかしせっかく発言を撤回したのに、なぜか恭は余計に殺気立つ。


「コイツのどこが可愛いんだよ?」

「なんて言えば正解なの!?」


 恭の地雷が分からなすぎて男子たちは半泣きになった。


 それから恭たちは、


「お前がいると揉めるから、写真を撮るんじゃないなら帰れ」


 と、あやめに追い出された。


 4人で廊下を歩きながら陽太が残念そうに切り出す。


「なんかせっかくハロウィンフォトに行ったのに、写真を撮りそびれちゃったね」

「悪いな、大田原。せっかく秋津さんに会いに行ったのに、かえって邪魔したみたいで」


 恭の謝罪に、大田原は「いや」と微笑んで首を振る。


「少しだが話せて良かった。それに魔女の恰好、可愛かったし」


 ほわほわと幸せそうな大田原に続き、陽太が「そう言えば」と口を開く。


「可愛いと言えば、恭のお姉さんも黒猫のコスプレ可愛かったね……って、なんで怒ってんの!?」

「別に怒ってねぇ……。アイツのどこが可愛いのかと疑問なだけで……」


 言葉とは裏腹に恭は全身から殺気を放っていたが、察しの悪い陽太は不用意に話を続ける。


「え~。俺はチビだから、自分より小さいだけで可愛く見える。それに他の男にはカチンコチンだけど、恭の前では表情豊かで可愛いじゃん……って、やっぱ怒ってるよね!? なんでお姉さんを褒められて怒るの!?」

「だから怒ってねぇ……」

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