学園祭・3
恭の劇を見た後、自分の教室に戻ったあやめのスマホに画像が届く。
「おっ、恭から写真がきた」
「わぁ、見たい。私も見ていい?」
写真を見せてもらったほのかはニコニコと感想を述べる。
「やっぱり恭君、カッコいいね。この衣装もすごく似合ってる」
あやめとほのかが話していると、クラスの女子たちがおずおずと声をかけてくる。
「や、八神さん、それ弟君の写真? 私たちも見ていい?」
「見るだけならいいけど、くれって言ってもあげられないぞ」
「見るだけ! 見るだけだから!」
あやめに恭の軍服姿を見せてもらった女子たちは、
「あ~んっ! カッコいい、八神君!」
「これ劇の衣装なんだよね!? 想像の100倍カッコいい! 絶対に見に行かなきゃ!」
と黄色い声を上げ、夢中でスマホの画面を覗き込んだ。
弟と比較され貶されるのは傷つくが、ただ恭が褒められているのを聞くのは嬉しい。
「へへ~っ。カッコいいでしょ、うちの弟。強くて努力家で世界一イケメン」
あやめは笑顔で自慢しながらスマホの画面を撫でた。
しかしそんなあやめに、男子たちが遠くから悪意の声をかける。
「うちの弟は世界一イケメンだってさ」
「確かに女子に人気だけど、世界一はないだろ」
「ブラコンキモ」
彼らの不機嫌の理由は恭への嫉妬だが、ここに本人はいない。だから弟をめいっぱい自慢する姉を、代わりに馬鹿にした。
ところがその理不尽な口撃に、反応したのはあやめでもほのかでもなかった。
「は? 八神君は世界一イケメンだが?」
「この写真と自分を比べてみろや。このルックスでボクシングのインハイ王者。しかも試験だって塾にも行ってないらしいのに、毎回5位以内の文武両道やぞ。勝てる要素が1つでもあんのかよ?」
「なんの取り柄もねぇなら、せめて性格くらいよくしとけや! この全面ブスがぁッ!」
女子たちはさっきまでの乙女モードから一転、鬼の形相で男子たちを罵った。
事実、恭をディスった彼らには何一つ勝てるところが無かったので、
「ふ、ふえ~ん……」
と泣くしかなかった。
蚊帳の外からその様子を見ていたほのかはポカンとして呟く。
「すごい。あやちゃんが言い返すまでもなく、女子が完膚なきまでに男子を叩きのめしてる……」
「恭のヤツ、インハイ優勝で人気に拍車がかかってるからな。やっぱうちの弟は最強ですわ」
一方、恭たちは午前の公演を終えて休み時間に入った。
「恭~。一緒に学園祭回ろうぜ~」
肩に腕を回して誘う槇に、
「いいけど、どこに行くんだ?」
と恭が聞き返す。
すると槇の代わりに、一緒に居た陽太が前のめりでリクエストする。
「俺、断然メイド喫茶! メイドを見なきゃ学園祭じゃない!」
「秋葉原でも行け」
恭の冷ややかなツッコミにも、陽太は今日も今日とて全くめげずに主張を続ける。
「秋葉原のメイドさんも可愛いけど、同じ学校の女子だから余計に興奮するんじゃん! これは絶対に譲れないよ!」
陽太の意見は一旦置いて、槇は落ち着いた態度で恭に尋ねる。
「ちなみに恭は行きたいところある?」
「俺は特に無いけど……うちの姉のクラスも、コスプレ系の出し物をしているらしい」
恭の情報に、陽太は「えっ!?」と食いつく。
「コスプレ系って何!? 俺、気になる出し物は全部チェックしたはずだけどな!?」
「ハロウィンフォトスタジオだって」
しかし恭の返答に、陽太は一気に興味を無くした。
「あ~、それ。店員じゃなくて、お客さんが仮装するタイプのヤツね。じゃあ却下だ」
「なんでだよ」
ムッとする恭に、陽太は勢いよく言い返す。
「だって女の子が仮装するから楽しいんじゃん! 男同士でお化けのコスプレをして写真を撮って何が楽しいのさ!?」
「そりゃそうだけど……」
恭とて自分がお化けのコスプレをしたいわけではないが、
「……姉が言うには接客係も見本がてらコスプレしてるらしい。まぁ、わざわざ見に行くほどじゃないだろうけど」
と追加情報を出した。
店員の女の子もコスプレしているかもと知った陽太は、途端に意見を翻す。
「やっぱり行こう! そして店員の子が可愛かったら、写真をだしにお近づきになろう!」
それから3人は、あやめの教室に移動した。
すると教室前の廊下でウロウロする知人を発見する。
「大田原? こんなところで、1人で何してるんだ?」
恭に声をかけられた大田原は、大きな体をビクッとさせて振り返る。
「いや、秋津先輩の出し物を見に来たんだが、ハロウィンのコスプレをするというガラでもないし、入りにくくて」
困っているらしい大田原を陽太がニコッと誘う。
「じゃあ、一緒に入ろうよ。俺たちも女の子のコスプレを見に来たんだ」
「それはお前だけだ」
恭が瞬時に否定した後、大田原を加えた4人で、あやめの教室に入った。




