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秋はチョコの季節

 恭が修学旅行から帰宅して、はじめての休日。八神家に、ほのかが遊びに来た。


 ほのかが苦手な恭は、あの人が来るなら外出するかと迷った。でも変なヤツだからこそ、姉と2人きりにしたくない。事情を知らない人が見たら過保護だと言いそうな対応。


 しかし実際、ほのかはある事件を起こした。


「きょ、恭君。ちょっといい?」


 自室を訪ねて来たほのかに、恭が「……なんですか?」と警戒しながら振り返る。


「あの、あやちゃんが酔っぱらっちゃって。どうしたらいいかな?」

「は? 酔っぱらったって?」


 それから恭はほのかに連れられて、あやめの部屋に行った。


「うぉぉ、恭~。お姉ちゃんを抱っこしろ~」

「確かに酒臭い……」


 抱き留めた姉の体は普段より熱く、アルコールの臭いがしていた。


「2人ともまだ18なのに、部屋で酒を飲んでたんですか?」


 恭に非難の目で見られたほのかは、


「ちょ、直接お酒を飲んだわけじゃなくて……」


 と怯みつつ、テーブルに置かれたお菓子の箱を取った。中には美味しそうなチョコトリュフが3つ入っている。


「恭君は知らないかもしれないけど、創作の世界ではお酒入りのチョコを食べて酔っ払うネタが多々あって、2人で本当に酔うか検証してたの」


 謎の試みに恭は呆れつつ、腕の中でくにゃくにゃになっているあやめを不可解そうに見下ろす。


「酒入りのチョコを食べたくらいで、こんなにふにゃふにゃになるって。コイツそんなに酒が弱かったのか?」

「ほーちゃんの作ったチョコ美味しかったぞ。まだあるからお前も食え~」

「ほーちゃんの作ったチョコ?」


 弟はハッとすると、刺すような視線をほのかに向ける。


「……つまり市販品じゃなくて、先輩が作ったんですか?」

「う、うん……」

「そのチョコに、どんだけ酒を入れたんですか?」

「……レシピより、ちょっと多めに?」

「本当は?」


 怖い顔で追及されたほのかは「ゴメンなさい!」と叫んで白状する。


「本当は味を壊さないギリギリまで! 食べやすいのに思わず酔っぱらっちゃうチョコ! 再現できるか試したくて!」

「うちの姉で試すな」


 案の定問題を起こしたほのかに、恭は静かにブチ切れた。


 しかし被害者であるあやめが暢気に止めに入る。


「そんにゃ怒んにゃよ~。チョコ美味しかったし、ふわふわして気持ちいいからいいって~」

「本当に気分悪いとか無いのか?」

「にゃいっ! むしろいい気分!」


 体に異常は無いと聞いて弟はホッとしたが、それはそれとしてほのかは許せない。


「……だとしても、こんなに酔っぱらうほど酒を盛るのは悪質だと思うので、もう帰ってください」


 恭に睨まれたほのかは「う、うん」と大人しく引き下がる。


「本当にゴメンなさい。じゃあね、あやちゃん」

「うん。チョコありがと~」


 ほのかが退散した後、弟は改めて姉を叱った。


「お前もまだ高校生のくせに変な実験すんな」

「アルコール入りのお菓子は飲酒には当たらないぞ。美味しいから、お前も食えよ~」

「やだ。俺は酒もタバコもやらない」


 飲酒や喫煙は健康を害するだけでなく身体機能も低下させる。だから強くなりたい恭は、大人になっても()らないと決めていた。


「じゃあ、お姉ちゃんが食べよ」

「食うな」


 弟にパッとチョコの箱を取り上げられた姉は、


「にゃ~。まだ食べる~」


 と抵抗した。


「ダメ。これは捨てる」

「もったいねぇ。せめてお前が食え」

「姉弟で酔っぱらって、どうするんだよ」

「1個くらいなら大丈夫だって~。ほら、あ~ん」


 あやめは笑顔で、恭にチョコを摘まんでやった。弟は難しい顔をしつつもチョコを食べた。


 かなりしっかり酒の味がするが、このくらいなら確かに美味くて食べやすい。


「ほら、うまいだろ? ほーちゃん、天才」

「酔っ払いの介抱って、どうしたらいいんだ?」


 恭が片腕であやめを抱いたままスマホで検索した結果、


『酔っぱらいは絶対に1人にしない』

『吐しゃ物が逆流して窒息しないように横向きに寝かせる』

『衣服を緩めて楽にする』

『毛布などをかけて体温の低下を防ぐ』

『吐きそうになったら抱き起こさず、横向きに吐かせる』


 以上のことが分かった。対処法を読んだ恭は首を傾げつつ、あやめに尋ねる。


「そこまで重症じゃない気がするけど……お前、吐き気はある?」

「にゃーい」

「寒い? 何かかける?」

「お前とくっついてれば平気」


 姉は笑顔でギューッと弟にくっついた。


「俺で暖を取るなよ……ってキスすんな」

「だって顔が近いんだもん」

「理由になってねぇ。口狙うな」

「や~だ」


 あやめはニコニコと恭の唇に口づけた。


「……マジでしやがった。この酔っ払い」

「にゃ~。チュー、もっと~」

「こら、ダメだって。もう……」


 嫌がる言葉とは裏腹に、気付けば自分のほうが姉を押し倒していた。


 それから5分ほど2人は夢中になって唇を合わせた。熱く柔らかな唇を重ねるほど、それを咎める理性は溶けて、恭は何も考えられなくなった。


 そんな姉弟を我に返らせたのは、スマホに届いた母からのメッセージだった。


『今コンビニだけど、あやめたちも何か要る?』


 突然の着信音に、弾かれたように離れた後。


 酔いが()めたあやめは、明後日の方向を見ながら虚ろな笑みで言う。


「へっへっへ。弟と濃厚なキスしちゃったぜ」

「笑いごとか」

「いや、これでもけっこう動揺してる。ゴメンね。セカンドとかサードとか、数え切れないほど奪って」


 謝罪のためにこちらを向いたあやめから、恭はぎこちなく目を逸らして俯き述べる。


「それは別に……俺も酔っておかしくなってたし、いいけど……」

「いいんかい。前から思ってたけど、お前けっこう脇が甘いな。だから弟なのに、お姉ちゃんにいっぱいキスされちゃうんだぞ」

「自分からしてきたくせに、俺のせいにすんな」


 恭はムッとしたが、あやめは構わずにじり寄って尋ねる。


「でもぶっちゃけキス、気持ち良くなかった? お前が嫌じゃなきゃ、これからは口にチューしようかな」

「いいわけねぇ。絶対やめろ」


 拒否する弟の膝に、姉はさっさと乗っかると、


「本当にダメ?」


 と相手の肩に両腕を回した。至近距離で見つめられた恭は、緊張に身を強張らせながら問う。


「……もしかして、まだ酔ってんの?」

「どうでしょう? やなら避けろ~」


 あやめはニヤッとして顔を近づけた。その行動に恭は驚いたように目を見張り、少し視線をさ迷わせたが、震えながら瞼を閉じた。


 しかし唇が触れ合う寸前。姉はひょっと弟の膝から降りると、


「へへ~っ、嘘だよ~。素面で弟にキスするわけね~」


 と、おどけて「母さんが帰って来る前に、お前も酔いを醒ませ~」と恭を部屋から追い出した。


 弟は目の前で閉まるドアを見ながら「あの酔っ払い……」と赤くなって怒りに震えた。

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