修学旅行・オマケ
夕食の後に一旦離れたが、あやめは寝る頃になって再び恭の部屋に来た。
「そろそろ寝ようか」
「当然のように一緒に寝ようとすんな」
恭はドアを閉めようとしたが、あやめはその隙間に小さな体を強引にねじ込む。
「お前ほどの男なら読めてたはずだろ! 3日ぶりに家に戻って、お姉ちゃんが一緒に寝たがらないはずがないと!」
「分かってても受け入れられない現実ってもんがあるんだよ」
「それと、さっきのシーサーを持って来た」
「なんで? ……やっぱ要らないってこと?」
ネガティブに受け取る恭に、あやめは即座に訂正する。
「そうじゃなくて、せっかくだからお前にやったのと一度並べたい」
「なんで?」
「独りぼっちじゃ寂しいだろ? だから初日くらい、この家に仲間がいることを教えてやりたい」
弟はけっきょく姉を部屋に入れて、自分のシーサーを見せた。
「おお、本当に生きてたのか、私のシーサー」
あやめは自分と恭のシーサーを見比べると、あることに気付く。
「並べてみて分かったけど、ちゃんと口を閉じてるのと開いてるので対になってるんだな。ペアになるように作ったのか?」
「そこまで考えてない」
「1年遅れで仲間ができて、心なしか嬉しそうな気がする、私のシーサー。良かったな~、恭に捨てられなくて」
あやめは机の上に並べたシーサーを笑顔で撫でた。
「……俺も捨てなかったんだから、お前も捨てんなよ」
「安心しろよ。逆に大切に飾ってやるぜ。お前が昔の工作を恥ずかしがって、捨ててくれって懇願するまでなァ!」
「嫌がらせじゃねぇか」
無駄に悪ぶるあやめに、恭はいつもどおりツッコむと話を戻す。
「つーか寝るなら、さっさと寝ろ。こっちは修学旅行帰りで疲れてんだよ」
「じゃあ、寝る」
それから2人はベッドに入った。
「……なんだよ? ジッと見て」
視線を感じて弟が問うと、姉はにへにへと喜びを口にする。
「久しぶりに会えたから、今日はずっと嬉しい」
「……久しぶりって、たった3日だろ」
「一日千秋って言葉をご存じ無い? ちなみに千秋は千年の意だから、お姉ちゃんは実質三千年もお前を待ってたことになるぞ」
「そうはならんだろ」
真顔で変なことを言い出す姉に、弟は呆れ顔でツッコんだ。
しかしあやめの勢いは少しも止まらず、
「いや、なる! おらっ、三千年の孤独を食らえ!」
いつも以上に荒ぶり、だいしゅきホールドを食らわせてきた。
「……確かに普段の三千倍ウザいわ」
「でもクラスの女子と違って、お姉ちゃんのハグは避けない。やはり姉という存在は絶対」
「……うるせぇから、さっさと寝ろ」
恭は寝かしつけるように、あやめの背をポンポンした。
「うん。おやすみ、恭」
「……すぐキスする」
また頬にキスされた恭はボソッと呟いた。
「お前もさっきみたいに反撃していいぞ」
「俺になんのメリットも無いだろ」
「ギュッてするのはいいのか?」
姉の指摘で、弟は小さな体を抱え込んでいたことに気付いた。
いつもならさっさと解放するところだが今は、
「……沖縄から帰って来たから寒いんだよ」
と離れがたさを寒さのせいにして、背に回した腕に力を込める。
「ひひっ、こりゃあ、いいことを聞いたぜ。お前を温めるって名目で、いっぱいくっついちゃお」
「……すでにめいっぱいくっついてんだろうが」
「まだ足りないもん」
あやめは恭の頬に頬をくっつけた。
恭はしばしの無言の末に、あやめの瞼に口づけた。
「キスはしないんじゃなかったのか?」
掠めるように触れた唇の意味をあやめが問うと、恭は疚しそうに答える。
「お前が顔をくっつけるから、避けようとして当たっただけ」
「そっか。じゃあ、もっと顔近付けとこ」
あやめはふざけて、恭の口元に唇を近付けた。
「……おい、どこ狙ってんだ」
「へへ~っ。どこでしょう~? ……んっ。本当に当たった……」
冗談のつもりが、また唇が触れ合ってしまい、あやめは流石に顔を離した。
「お前が近付けるからだよ」
「ふざけてゴメン」
「別に謝らなくていいけど」
恭は許してくれたが、あやめは過剰なスキンシップを反省した。
「お前といるとテンション上がって無限に騒いじゃいそうだから、やっぱ部屋に戻ろうかな」
また事故を起こす前にベッドから出ようとしたが、その手を弟が取って引き止める。
「って、なんで止めるんだよ?」
「沖縄から帰って来たせいで寒いって言っただろ。自分からくっ付いてきたんだから、大人しく湯たんぽやれ」
先ほどのキスを、どうやら弟は気にしていないようだ。
じゃあ、反省しなくていいかと思った姉は笑顔でUターンする。
「へへ~っ、本当はお前も寂しかったんだろ? 3日ぶりのお姉ちゃん、たっぷり堪能していいぞ」
「勝手に言ってろ。馬鹿」
姉弟はそう言って、お互いの体温をヌクヌクと分け合った。




