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2人でホラー映画・2

 八神家は動画見放題のサブスクに入っている。


 そこから見たい映画を選べと言われたが、元々あやめの企画なので恭は気乗りしなかった。


「自分で選ぶのめんどいから、やっぱお前が全部決めていい」

「マジで? やった! じゃあ、これから見よ!」


 それからあやめたちは人間に取りついた悪魔による被害が、どんどんエスカレートしていくホラーを見た。


 主役はちょうどあやめたちと同じ姉弟で、弟は悪魔に取りつかれた姉をついに助けられず映画は終わった。


「お前はこの映画みたいに、お姉ちゃんが悪魔に取りつかれたらどうする?」


 あやめとしては『絶対に助ける』とか『何があっても見捨てない』などの返事を期待した。


 ところが恭は真顔で答える。


「巻き込まれないようにお前を置いて、さっさと家を出る」

「なんて薄情な弟。母さんはどうでもいいのか?」

「じゃあ、母さんも連れて家を出る」


 迷いなく繰り返す弟に、姉はワッと叫ぶ。


「家を出ることしかない! 少しはお姉ちゃんを助けようと思わないのか!?」

「この映画の前提として、悪魔に取りつかれた人間は助からないみたいだし。どうしても何かして欲しいなら、せめて俺の手で楽にしてやるしか」

「お姉ちゃんを殺すことにだけ積極的にならないで欲しい」

「じゃあ、お前はどうして欲しいんだよ?」


 恭としては絶対に助けられない状況なら、せめて犠牲者は少ないほうがいいだろうと思う。ところがあやめは半笑いで、こう答える。


「1人で怖い目に遭うのは嫌だから、一緒に苦しんで一緒に死んでくれ」

「お前がいちばん怖いわ」


 ドン引きする弟に、姉は不敵な笑みでさらに続ける。


「お前が道連れになってくれるなら、母さんだけは見逃してやろう」

「もはや悪役の台詞なんだよ」


 次に2人が見始めたのは、未知のウイルスで人が死にまくるパニック映画だった。


 そのウイルスに感染すると、数日後に体が破裂して死んでしまう。破裂した際の血しぶきを浴びて、どんどん感染が広がっていくというものだった。


「お前がこのウイルスに感染したら、1人になりたくないあまりにギリギリまで隠して最悪のタイミングで俺にうつすんだろうな」


 何気なく想像を述べる恭に、あやめはムッとして言い返す。


「あまりお姉ちゃんをみくびんなよ。こういう病気系だったら、ちゃんと1人で死んでやらぁ」

「さっきは一緒に死ねって言ったくせに」


 弟は矛盾を指摘したが、姉は前言を忘れたわけではなかった。


「だって悪魔は長々と怖がらせてくるだろ? でもこれは一瞬で死ねるし、死んだら何も感じないんだから、誰かに一緒にいてもらう必要ない」


 あやめの返答は強がりではなく本心に聞こえた。


 恭は架空の話でも、あやめが独りで死ぬつもりなのが嫌で、反射的に否定する。


「今はそんな風に言ってても、もし本当にこんな状況になったら、絶対に最後まで一緒にいてくれって喚くに決まってる」

「人を巻き添えにするかはともかく、感染したことを話すのはあり得ないだろ」

「なんで? ……この映画みたいに、破裂する前に殺されるかもしれないから?」


 この映画では感染者の血しぶきを浴びると感染してしまう。だから恐怖に我を忘れた人々は、生き残るために感染者を集めて焼殺、絞殺、毒殺するなどの凄惨な対処を行っていた。


 あやめは恭の推測を「それもあるけど」と認めつつ真意を説明する。


「この状態になったら、ウイルスをうつさないために離れるしかないわけじゃん。死んでもいいから一緒にいるなんて家族でも言えるわけないし。見捨てられるくらいなら自分から消えるわ」


 あやめは子どもの頃から、優秀で美しい母や弟と比べられて育って来た。他人だけならまだしも父方の祖父母にも、まるで関心を向けられなかった。


 普段は奔放に振る舞っているが、あやめの心には強い無価値観が根付いている。


 さっき恭が『お前が悪魔に取りつかれたら、さっさと離れる』と言ったとおり、命がかかった状況では見捨てられて当然だと思っているので、


「そうすれば、せめて心だけは護れるだろ」


 と特に悲しそうな様子もなく結論を述べた。


 あやめは遠慮なく甘える割に、それが永遠に続くとは思っていない。いつ失っても大丈夫で居られるように、心の中はすでに独りでいる。


 それが直感的に分かった恭は、歯がゆさに顔を歪めながら言う。


「……無理だよ。お前みたいな弱虫、絶対に1人で死ねるはずない」


 しつこく否定する恭に、あやめは「分かったよー!」とキレて叫ぶ。


「じゃあ、どんな死に方をするとしても、お前だけは道連れにしてやらァ!」


 そんな会話を最後に、姉弟はホラー映画観賞会を終えた。

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