2人でホラー映画・1
今日は母が夜勤でおらず、家には姉弟だけ。こんな夜は必ずと言っていいほど、あやめが恭の部屋を襲撃する。
「恭~。明日って、なんか予定ある?」
「何も無いけど、なんで?」
恭の問いに、あやめは「へっへっへ」とタブレットを見せて提案する。
「明日予定無いなら、今日はお姉ちゃんと肝試し代わりに徹夜でホラー映画を見まくろうぜ!」
「やだ」
秒で断る弟に、姉は唇を尖らせる。
「なんでだよ~? お前もホラー好きだろ~?」
「お前が見たがるホラーって、気持ち悪いのばっかだから嫌だ。俺はまだ17なのに、平気でR18G作品を見せて来るし」
恭は単純な暴力や脅かし要素には強い。
しかし人の心の闇や異常性を始め、ホラーにありがちな不潔な裸などの気持ち悪い系には弱い。というより見たくなかった。
拒否されたあやめは真剣な顔で弁解する。
「誤解しないでくれ。平気じゃないからお前と見たいんだ。ホラーって一緒に見る人数が多いほど、精神的ダメージが分散される気がするから」
「1人じゃ見られねぇような映画に俺を巻き込むな」
難色を示す恭に、あやめは「分かった!」と代案を出す。
「じゃあ、今日はお姉ちゃんが見たいヤツと、お前が見たいヤツを交互に見よ! そしたら平等だろ!?」
「俺には一切その気が無いんだから、何も平等じゃねぇ」
「そう言わずに一緒に見ようよ~! お姉ちゃん、大好きな弟と怖い映画が見たい~!」
駄々っ子モードに突入したあやめは、恭の腕に縋ってねだり散らした。
そんな姉に、弟は虫けらを見るような目で「ウゼェ……」と呟いたが、
「……どうせ拒否したって聞かないだろうし、仕方ないから付き合ってやる」
と折れた。同意を得たあやめはバンザイして喜ぶ。
「やった! お礼に、お前が先に選んでいいぞ!」
そうして姉弟だけのホラー映画鑑賞会が開かれた。
「一緒に見るのはいいけど、なんでリビングじゃなくてベッドなんだよ?」
あやめのリクエストに、恭は眉根を寄せて尋ねた。
「だってベッドにタブレットを持ち込んで見たほうが、このまま寝落ちできてお得じゃん」
「当たり前のように、ここで寝ようとするな」
普通は年齢を重ねるほどに、姉弟で寝る頻度は減るはずだ。しかし恭とあやめに関しては、今年に入ってから一緒に寝る頻度が逆に増えていた。
「お姉ちゃん、これが高校最後の夏だから! 思い切り自分の欲求に正直になるって決めたんだ!」
「逆にお前が自分の欲求を抑えたことがあるのか?」
呆れ顔でツッコむ弟に、姉はケロッと答える。
「本当は毎日お前とくっついて寝たいんだぞ? それを週2に抑えるなんて、お姉ちゃんすごく我慢してる」
「毎日一緒に寝たいって……なんなんだよ、お前……」
ダメージを受ける恭に、あやめは高らかに宣言する。
「早くに父親を亡くして父性が足りない欲。今後も彼氏ができそうにない非モテとしての欲。その複合的な欲求不満を弟にぶつける迷惑なお姉ちゃんだ!」
「自覚あるならやめろ」
「やだ! 今日はお前とくっついて映画見る!」
真正面からギュッとしがみつかれた恭は喉の奥で唸ると、あやめをやんわり押し返す。
「分かったから一旦離れろ。暑苦しい」
「へへ~っ、じゃあ、さっそくベッド行こ」
あやめは先に、恭のベッドに腹這いになった。
「おい、堂々と真ん中を占拠すんな。狭いんだから横にズレろよ」
恭のベッドはシングルなので、いくらあやめが小柄でも真ん中に寝られたら、自分が入るスペースが無い。
しかし姉は平然と弟を振り返って言う。
「お前は、お姉ちゃんの上に乗ればいいじゃん」
「は?」
「今日は横じゃなく上下でくっつきてぇ。遠慮は要らんから乗ってくれ」
あり得ない要求に恭は驚いた。
「なんでお前に覆いかぶさらなきゃいけねぇんだよ」
「背中にお前を感じてぇ! 乗ってくれ!」
「勢いよく言えば通ると思うな」
取りあえずツッコむと、そのまま言葉を続ける。
「だいたいお前みたいなちっこいのに乗ったら潰れちまうだろ」
「そんな全力で体重かけなくていいから、ほどほどな感じで乗ってくれ」
しつこくねだられると、やはり断れず、弟は遠慮がちに姉の背に乗った。
「……こう?」
「うん。そんな感じ」
あやめは心地いい密着感に「へへっ」と笑う。
「お前にギュッて潰されるの、なんか好き」
「……変態」
「この体勢にエロスを感じたんだとしたら、お前のほうが変態だぞ……アーッ!? 本気で乗ったら重いって! だめぇ! 壊れちゃう~!」
恭のボディプレスに、あやめは絶叫した。
「余裕じゃねぇか。もっと潰してやろうか」
「いやぁ、全然余裕無いからぁ。本当に勘弁して。このままじゃ内臓が出る……」
恭は仕方なく体重をかけるのをやめた。
「だから安易に男の下になるなって言ってんだよ」
「男の下になると危ないって、こういう意味だったの? もっとエロい意味かと思ってたわ」
半目でぼやく姉に、弟は真顔で答える。
「俺とお前だとR18Gになる」
「やっぱ私の内臓が出る形だな、それ」
青い顔で腹を押さえるあやめに、恭は淡々と先を促す。
「それより、さっさと映画を選べ」
「お前が先に選んでいいよ。その代わりホラーかサスペンスな」
姉弟は上下に重なったまま、タブレットで映画を見始めた。




