皆で海・3
それから4人は海の家で食事した。
昼食を終えて海の家を出る前に、男性陣を待たせて女性陣だけでトイレに行く。
「そもそも人が多いから仕方ないけど、トイレものすごく込んでたな」
「男の子たちを待たせちゃって申し訳ないね。早く海の家に戻らないと」
ビーチを歩くあやめとほのかの耳に、聞き覚えのある声が届く。
「だからこっちは姉を捜しに行くところなんで、ついて来ないでください」
声のほうに視線を向けると、恭が水着姿の若い女性たちに絡まれていた。
「え~? この人込みの中を1人で捜すのは大変だって~。私たちも一緒に捜してあげるから、取りあえず連絡先を交換しようよ~」
恐らく大学生だろう彼女たちは、露出の少ないあやめたちと違って、3人ともセクシーなビキニ姿だ。
バッチリメイクに綺麗にセットした髪。さらには遠慮なく恭に食いつく様子から見て、彼女たちの目的は海よりも異性との出会いらしい。
「おおっ、恭が逆ナンされてる。しかも相手は女子大生っぽいぞ」
「すごい。私たちが離れてから30分くらいしか経ってないのに。イケメンってちょっと目を離したら、すぐ女の人に捕まっちゃうんだね」
少女漫画でありがちな光景に、あやめとほのかは軽く盛り上がった。
しかし相手は他人ではなく弟なので、放っておくわけにもいかない。
「困ってるみたいだし、助けてやろ。お~い、恭~」
あやめが呼びかけると、恭はすぐに気付いて駆け寄る。
「遅ぇよ。何してたんだよ」
「トイレにしか行ってないぞ。ただメチャクチャ込んでて20分も待たされた」
姉弟が話していると、女子大生たちが割り込んで来る。
「えっ? もしかして、その人がお姉さんなの? 全然似てな~い」
「本当。弟君は背が高くてスタイルもいいのに、小さい上に水着も子どもっぽくて小学生みたい」
本能的に敵だと感じたのか、それとも日頃の癖か、女子大生たちは初対面のあやめを馬鹿にした。
そんな彼女たちに、あやめは「はっはっは」と豪快に笑って問う。
「なんだね、恭君。この頭の悪そうなお姉さんたちは」
予想外の返しに、彼女たちは「はぁっ!?」と憤る。
「ちょっ!? 初対面なのに頭が悪そうとか、失礼じゃない!?」
「初対面なのに失礼? 嫌がる弟に付きまとった上に、会ったばかりの私に水着が子どもっぽいだの小学生みたいだのと言い出したのは、そちらでは? それが単なる感想で失礼にはあたらないと言うなら、頭が悪そうと言うのも率直な感想ですが?」
あやめは基本人見知りだが、弟が一緒の時に限り、敵とみなした相手を容赦なくディスるタイプだった。
当然ながら女子大生たちは激怒する。
「な、何よ、コイツ!」
「弟君とは似ても似つかないチビダサ女のくせに、性格まで悪いとか最悪!」
彼女たちにとっては異性にモテることが価値であり、あやめは明らかに格下だった。持たざる者が持てる者を攻撃するという彼女たちにとって許されざる無礼に、金切り声で罵倒し返した。
しかし彼女たちの言動は、あやめよりも恭を怒らせた。
「さっきからギャアギャアうるせぇんだよ。勝手について来たくせに人の姉を貶してんじゃねぇ」
恭は敵意剥き出しで割って入ると、さらに容赦なく続ける。
「もともとついて来て欲しいなんて一言も頼んでないんだから、そんなにコイツが不快ならさっさと消えろ」
全面的に姉の味方をする弟に、彼女たちはいよいよ立つ瀬が無くなった。
「な、何よ! せっかく話しかけてあげたのに!」
「姉弟揃って性格悪すぎ!」
「行こ行こ!」
女子大生たちがプンプンしながら去った後。
「へっへっへ。キラキラ女子大生たちを撃破してやったぜ!」
「こんな醜い言い争いに勝って喜ぶな」
恭は呆れ顔だが、あやめはご満悦で返す。
「お姉ちゃん、こっちが勝てる口論なら好きだぞ。お前がついてれば負け無しだしな」
「お前の味方するんじゃなかった」
弟の冷たいコメントに、姉は「なんだよ~」と口を尖らせる。
「こっちはいちおう、お前を助けに入ったんだぞ?」
「俺だって、お前が遅いから迎えに来たんだけど?」
トラブルの責任を押し付け合う姉弟に、ほのかが目を輝かせて叫ぶ。
「つまり2人はお互いを想い合ってるってことだよね!? 素敵だね!」
姉弟のやり取り全てを何がなんでも愛に結び付けるほのかに、恭はげんなりと否定する。
「いや、あんまり遅いから気になっただけです」
「ところでなんで1人なんだ? 大田原君は?」
あやめの問いに、恭は海の家のほうを指して答える。
「行き違いにならないように、海の家で待ってもらってる」
「じゃあ、早く戻らないとな。こっちが頼んで来てもらったのに、待ち惚けさせちゃ悪い」
そう言うと今度は3人で海の家に向かった。




