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皆で海・2

 4人は着替えを済ませると浜辺で合流した。


「へへ~っ。どうだ、恭? お姉ちゃん、可愛いか?」


 長い髪をポニーテールにし、例の水着を着たあやめは、笑顔で両腕を広げて恭に感想を求めた。


「別に前も見たし、今さら感想無い」


 弟の素っ気ない返事に、ほのかがビビッと反応する。


「えっ、恭君。前にもあやちゃんの水着姿を見たの? いつ?」

「いや、この水着を選ぶのに付き合わされたんで」


 恭の返答に、ほのかはうっとりして言う。


「一緒に水着を選びに行くなんて仲がいいね。じゃあ、この水着は恭君の好みなんだね」

「別に俺の好みってわけじゃ」

「え~? 可愛いって言ってくれたのは嘘だったのか、恭?」

「ウザ絡みやめないと海に沈めるぞ」

「ボディガードとして来たのに、お姉ちゃんを殺してはいけない」


 じゃれ合う姉弟の姿に、ほのかは頬を染め、はぁはぁと息を荒げながら手を合わせる。


酷暑(こくしょ)と人ごみに耐えるだけで推しカプの水着デートがタダで見られる~。感謝しかない~」

「あ、秋津先輩?」


 見た目は文学少女風の先輩の異様な熱狂を目撃した大田原は少し戸惑った。


 数分後。


「恭~。ほーちゃんが浮き輪を持って来てくれた。交代で使うから膨らませてくれ」


 あやめに浮き輪を渡された恭は、ほのかに目を向けて問う。


「いいけど……口を付けていいんですか? これ」

「う、うん。それ新品で、誰も口を付けてないから大丈夫」

「じゃあ……」


 恭が浮き輪を膨らませるのを見て、あやめは「おお」と感心する。


「運動部の肺活量って、すごいな。私たちじゃ絶対に酸欠になる」

「ねー。男の人って、すごいねー」


 ほのかと呑気に笑い合った後。


「なんだよ、ジッと浮き輪を見て。使わないのか?」


 訝しむ恭に、あやめは「いや」と浮き輪を指して言う。


「この浮き輪の中、全部お前の呼気なんだと思ったら、お前を好きな子に高く売れそうだなって」


 姉の変態的な発想に、弟はドン引きしてツッコむ。


「浮き輪からそんなキモイ発想するの、絶対にお前だけだからな」

「恋に狂った女を舐めんな! お前はこの夏のインハイ優勝で、ますます市場価値が上がってるんだから、競売にかけたら絶対に5千円はいけるぞ! 試しに学校で売っていい!?」

「浮き輪破裂させんぞ」


 思い付きを語って満足したあやめは、さっそく浮き輪を装備して強請る。


「恭、馬車馬のように浮き輪を引いてくれ。お姉ちゃんも海を感じてぇ」

「やだ」


 恭に断られたあやめは、あっさり矛先を変える。


「じゃあ、大田原君に頼んでいいか? 後で海の家でなんか奢るから、ちょっとだけ引いてくれない?」


 親切な大田原は人のいい笑みで答える。


「そんな。俺で良ければタダで引きま」

「いい。俺がやるから」


 返事の途中で恭に割って入られた大田原は、


「嫌だったんじゃないのか?」


 と目を丸くした。


「そうだけど、うちの姉のワガママで友だちに迷惑かけたくない」

「別に迷惑じゃ」


 食い下がる大田原に、恭は一語一語に力を込めて返す。


「俺が・やるから・いい」

「そ、そうか?」


 彼らのやり取りを見たあやめは「へっへっへ」とあくどい笑みで言う。


「もしかしてお姉ちゃんを大田原君に取られたくなかったのか? 全くお前はツンデレだな~」


 ツンデレの真意を指摘するのは悪手。以前ほのかが回避した地雷を、あやめは思い切り踏み抜いた。


 その無遠慮なからかいに、弟はスーッと空気を凍らせる。


「……お望みどおり、馬車馬のように引いてやるから、しっかり捕まってろよ」

「えっ」


 それから姉弟は海に入った。


「ギャア~ッ!? 恭! 速いっ、速いって~!」


 恭の力強いけん引により、激しい水しぶきがあやめの顔面を襲う。


 弟が姉を『市中引き回し』ならぬ『海中引き回しの刑』に処していると、


「ああ、楽しい! 海、楽しいね!」


 と浜辺でほのかがピョンピョンと飛び跳ねた。


 遠くから推しカプの戯れを見て大はしゃぎするほのかに、大田原は困惑気味に質問する。


「あ、秋津先輩。なんですか? その双眼鏡みたいな道具は」

「これ? オペラグラスって言うの。舞台とか遠くのものを見る観劇用の道具だよ」

「な、なぜ海で?」


 まさか親友と弟を良からぬ目で見ているとは言えないので、


「わ、私のことは気にしないで。大田原君も海を楽しんでね」


 と、ほのかは誤魔化し笑いで答えた。


 15分後。あやめはなんとか海から生還した。


「ぶぇぇ。鼻に水が入った~」


 痛そうに鼻を押さえる姉に、弟は意地悪に笑って言う。


「海を感じられて良かったじゃねぇか」

「危うく溺れるところだったぞ。まさか本当にお姉ちゃんを殺す気か?」

「ここなら事故に見せかけられていいかもな」


 しれっと肯定する恭に、あやめはギャン! とヒートアップする。


「お姉ちゃんを殺したら毎晩化けて出るからな! お前のベッドがビショビショになるぞ!」

「死んでまでベッドに潜り込もうとすんな」


 姉弟のやり取りを聞いたほのかは「えっ!?」と食いつく。


「その言い方! あやちゃんは恭君のベッドに潜り込んだことがあるの!? それもけっこうな頻度で!?」

「いや、そんな頻繁にではないです」


 実際は週2で潜り込んでいるが、真実を言うわけにもいないので、恭は咄嗟に誤魔化した。


 さらに、ほのかにこれ以上エサを与えるのはヤバいと思った姉も口裏を合わせる。


「そう。映画が怖すぎた時とかに。たまに無理やり押し入るだけで」


 素直に信じた大田原は「はー」と感心して述べる。


「もしかして仲が悪いんじゃないかと心配していたんだが、こうして一緒に海に来るくらいだし、本当は仲がいいんだな」


 友人の感想に恭は、


「別に仲がいいわけじゃなくて、コイツが勝手に絡んで来るだけ」


 と不服そうに返した。

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