皆で海・1
今日は八神姉弟とほのかと大田原の4人で海水浴に行く日だ。目的地までは電車で行くので、一行は駅で待ち合わせた。
八神姉弟が駅に着くと、すでにほのかが待っていた。
普段はほのかが苦手な恭だが、今日は自分から話しかける。
「花火大会の件、すみませんでした。秋津さんのほうが先に約束してたのに、俺が横取りして」
「ううん! 全然いいの! むしろ今日の海だって2人きりのほうが良ければ、今からだって帰るから私!」
ほのかの謎の勢いに、恭はうんざり顔で返す。
「いや、姉と2人で海とか意味が分からないし、友だちも来るんでいてください」
「そうだぞ。ほーちゃんの水着姿、楽しみにしてるんだからな」
あやめの発言に、ほのかは困り顔で言う。
「水着が楽しみって言われても普通の水着だよ?」
「へっへっへ。ほーちゃんの恵体をもってすれば、ただの水着も魅惑のマーメイドさ」
「友だちにセクハラすんな」
ゲス顔で親友の腰を抱くあやめに恭がツッコんでいると、
「や、八神」
と大田原が声をかけて来た。
「ああ、来たのか、大田原」
「そ、その人がお姉さんのご友人か?」
大田原の質問に、ほのかはビクッとしながら答える。
「あっ、ひゃい。あやちゃんの友だちで、3年の秋津ほのかです」
「お、俺は2年の大田原正志です。今日はよろしくお願いします」
自己紹介を済ませた後、4人は電車のボックス席に男女に分かれて座った。
そのわずか10分後。
「うわぁぁ~! 大田原君なら大丈夫な気がしたが、全然そんなことは無かった~!」
沈黙に耐えかねて、あやめが騒ぎ出す。
「助けてくれ、恭! この面子だと全員人見知りで、場が凍ってしまう!」
「俺もそんなに話し上手じゃないんだけど……シンプルに『話題』で検索してみるか」
恭はスマホでサクサク検索すると、あやめに結果を伝えた。
「こういう時は趣味や特技の他に、好きな本や映画の話が定番らしい」
「ああ、いいな、本の話。じゃあ、大田原君の好きな漫画を教えてくれ。私とほーちゃんは見てのとおりのオタクだから、いくつか挙げてもらえれば、1つくらいはヒットするはずだ」
「えっ? じゃあ、漫画と言うかアニメですが……トラえもん?」
大田原の何気ない回答に、女子2人に激震が走る。
その反応に大田原はビックリして取り乱した。
「えっ!? あっ、なんか子どもっぽかったですか!?」
「いや、好きな漫画として最初に『トラえもん』を挙げる者に悪いヤツはいない。今の答えで我々の中の大田原君の株は急上昇したぞ。なっ、ほーちゃん」
「うんっ! 特に原作者さんが制作していた頃の劇場版は、夢があるだけじゃなく社会問題も含んでいて、子どもだけじゃなく大人も楽しめる文句なしの傑作だよね!」
急に活き活きする女性陣に、大田原はホッと胸を撫でおろす。
「よ、良かった。俺は未だに劇場版は妹と観ているんですが、自分も夢中になってしまうので、高校生なのに子どもっぽいかと」
「全然。むしろこのまま観続けて、いつか自分の子どもと映画館で観られたら最高にエモいだろ」
あやめの言葉に、ほのかは笑顔で同意する。
「分かる~! 結婚する予定無いけど!」
「でも大田原君はいい父親になりそうだ。そのうち素敵な人と結婚して、私たちのドリームを代わりに叶えてくれ」
「あっ、はいっ、善処します」
あやめの妄言を律儀に受け止める大田原に、
「善処せんでいい」
と恭は呆れ顔でツッコんだ。
それから4人は、無事に海水浴場に到着した。
あやめたちと別れた恭と大田原は、男子更衣室で水着に着替えながら話す。
「悪いな、大田原。しゃべったらしゃべったで、あんな感じの人たちで。慣れないと絡みにくいだろ?」
「いや、俺からすれば笑顔で話してくれるだけでありがたい。俺は本当に、お前と違って全く女子にモテないので……」
柔道では華々しい活躍をしている大田原だが、190センチの巨躯に5分刈りなので、異性にとって魅力的な容姿とは言い難い。
けれど恭からすれば、大田原はそのままで十分いい男なので、
「それは多分いい面を見せられてないだけで、ちゃんと話す機会があれば、お前の良さに気付いてくれる女もいると思う」
と、お世辞ではなく励ました。
その言葉に大田原はジーンとして述べる。
「優しいな、八神。お前こそ、ちゃんと話すと印象が変わるな。今思えば失礼だが、よく知らない頃は無愛想で人を見下したタイプかと」
「まぁ、無愛想なのは事実だし。人の好き嫌いは激しいから、そう思われても仕方ない」
「じゃあ、八神と友だちになれた俺はラッキーだな」
ニコッとする大田原に、恭もふっと頬を緩めて返す。
「俺だって、お前と友だちになれてラッキーだよ。柔道も教えてもらえるし、気も合うしな」
その微笑みがなんだかくすぐったくて、大田原は「う~ん」と唸った。
「どうした?」
「いや、女子には塩対応で有名な八神に笑いかけられると、男同士でも特別感がすごいなと」
「なんだ、それ?」
本人は無自覚だが、意外と同性人気も高い理由が大田原は分かった。




