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告白詐欺事件・後編

 しかしあやめと恭の目的は家族自慢ではない。


 学園祭の休憩時間。


 わざと周囲に見せつけるように恭と腕を組んで歩いていたあやめは、階段付近である男子を見つけて声をかける。


「あっ、恭君。この人だよ。非モテの私に嘘告白をかましてくれたのは」

「へぇ……」


 自分よりも高身長の恭に冷ややかに見下ろされた男子は、やや怯みながら言い返す。


「な、なんだよ。別にいいだろ。どうせ断ったんだし、実害は無いんだから」


 彼、石橋(いしばし)もあやめと同じクラスなので、恭のことはすでに知っている。


 相手はあらゆる点で自分より勝っているが、唯一年齢だけはこちらが上だ。しかも恭は中学生で、自分は高校生。


 中学生にビビるなんてダサすぎると、石橋は必死に虚勢を張った。


 そんな石橋に恭は一言。


「そうですね。実害は出ないでしょうね。アンタに告白されて喜ぶ女なんているわけないし」

「なっ」


 石橋はあまりに遠慮のない口撃に言葉を失くした。


「こら! ダメだぞ、恭! 自分がモテるからってモテない人を馬鹿にしちゃ!」


 すかさずあやめが注意に見せかけた追い打ちをかける。


「な、なんだよ、モテない人って!?」


 石橋はカッとなって怒鳴ったが、自分より明らかに強い恭の前で手荒な真似はできない。


 なのであやめは怯むことなく、余裕の笑みでとどめを刺す。


「えっ? モテるのか、石橋君? 嘘の告白にもかかわらず、私にさえ振られた君が? そのロースペック、バッドルックスで?」


 姉弟は知らない事実だが、実は彼は本気であやめを狙っていた。


 クラスでは暗いあやめだが、他のクラスのほのかと話している時は明るく表情豊かだ。その無邪気な笑顔を見て、


(あれ? 八神って、けっこう可愛い?)


 と気になった。


 しかもあやめは世間的には人気が無い。だからこそモテない自分でもギリいけるかもと、がんばってチヤホヤした。


 ところが自分と同じ非モテキャラにもかかわらず、あやめは石橋を振った。


(こんなによくしてやったのに、どうして? 俺はこの女にも劣るってことか?)


 こっちは本気だったと認めたら自分のプライドが傷つく。だから咄嗟に嘘を吐いて、あやめを自分より下にしようとした。


 そんな女に再度コケにされた石橋は顔を真っ赤にして吠える。


「一軍の弟を連れてるからって、いい気になってんじゃねぇよ! 普段はオドオド、ビクビクしてるくせによぉ!」


 しかしすぐさま恭に殺意の表情で叱られる。


「黙れクズ。自分より小せぇ女を脅しつけてんじゃねぇ」

「うぅ……」


 負け犬の如く凹む石橋に、あやめは「へっへっへ」と、あくどい笑みで釘を刺す。


「コイツは来年、うちの高校を受験するからなァ。弟は昔、私をいじめたクラスの男子たちをボコボコにした狂犬だから、気をつけたほうがいいぞ」


 こう言っておけば、弟が帰った後でやり返されることはないだろう。


 石橋への報復が完了した後、姉弟は人気の無い場所に移動した。


 恭は石橋の前では控えた文句を改めて口にする。


「なんだよ、さっきの狂犬って。後この高校に通うなんて言ってねぇ」


 一緒の学校だと自分と比べられて、あやめが嫌な想いをする。だから恭はわざわざ受験して、あやめとは別の中学に通っていた。


 しかしあやめのほうは、恭の腕に巻き付いて強請る。


「そう言わず来てくれよ~。お前がいないと、お姉ちゃんまた、ああいうクズどもの餌食にされちゃうだろ~」


 あやめの通う高校は家からいちばん近いものの、偏差値的には並だ。恭の学力なら、もっと上を狙えるし、他にも入学を躊躇う点があった。


「偏差値はともかく、この高校の空手部、すごく弱くなかったか?」

「そうなん? 知らん。つーか、空手部なんてあったっけ?」


 あやめの返答に、恭は白い目で返す。


「……つまり一般の生徒が存在を知らないくらい弱小ってことだろ」

「じゃあ、強いお前が入って全国に導いてやればいいんじゃない?」

「やだ。俺だけ強いんじゃ練習相手がいないだろ」


 恭の目的はトロフィーを得ることではなく、自分が強くなることだ。これまでの蓄積によって大会で優勝できても、普段充実した練習ができなければ意味が無い。


「じゃあ、ボクシングでもやれば? 確かうちの高校のボクシング部は、けっこう強かった気がする」

「適当だな……」


 ところが、その年の冬。弟の進路を知った姉は「えっ?」と驚く。


「恭、うちの高校を受験するのか? せっかく成績がいいんだから、偏差値高いところか空手が強いところにすればいいのに」


 自分の発言をすっかり忘れているあやめに、恭はイラッとしながら言い返す。


「お前がいじめられないように、同じ高校にしろって言ったんだろうが」

「そうだけど、学園祭でお前を見せびらかしたことで『一軍の弟がいる女』として一定の地位を得たから、今のところイジメの兆しは無いぞ」


 あやめとしては、恭と同じ高校のほうが楽しい。しかしデキる弟を自分のレベルに下げさせるのは可哀想だ。


「お姉ちゃんの地位を守りたいなら、また学園祭とかに顔を出してくれるだけで十分だぞ」


 けれど遠慮する姉に、弟はムスッとしながらも、こう答える。


「……いい、もう決めたことだし。お前の高校、うちから近いし。空手部は空気だけど、ボクシング部は確かにレベルが高いらしいし」


 本人の意思ならいいかと、あやめはあっさり手の平を返す。


「じゃあ、高校はボクシングやるんだ? いいな、ボクシング。空手よりボクシングのほうが好き」

「なんだ、それ? 初耳なんだけど」

「好きって言うと語弊があるけど、空手を題材にした漫画って少なくない? スポ根はそんなに好きじゃないけど、ボクシング漫画はいくつか読んだから、ちょっとだけ馴染みがある感じ」

「好きって漫画の受け売りかよ。どうせルールも知らないくせに」


 呆れる弟に、姉は笑顔でパンチして見せながら言う。


「ルールは曖昧だけど、上手に顎を殴って脳を揺らすと相手が気絶するのは知ってるぞ。ボクシング部に入って、ぜひ漫画みたいな必殺パンチを身に着けてくれ!」

「この前、簡単に暴力を振るうなって言ったのは誰だよ……」


 そんな流れで恭は翌年の春、あやめと同じ高校に入学した。

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