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柔道部の大田原

 あやめたちの高校の体育は複数の科目から自分で選択して、他のクラスと合同で行う。武道を選択した恭は、体育で柔道をすることになった。


「なんかデカいヤツいるな」


 恭の視線の先には190センチはあろうかという巨漢の男子生徒がいた。


 恭の呟きに、槇がヒソヒソと耳打ちする。


「アイツは柔道部の大田原(おおたわら)だよ。小学生から柔道一筋で、全国大会で何度も優勝してるらしい」


 同じクラスになったことがなかったので恭は知らなかったが、この学校では猛者として有名だそうだ。


 巨漢の強面なので槇は恐れていたが、恭は逆に興味を引かれた。


「へぇ、そんなに強いんだ」

「なんで嬉しそうなんだ?」

「アイツと組みたい。話したこと無いけど、組んでくれるかな?」


 珍しくワクワクしている恭を、槇はギョッとして止める。


「ええっ!? やめとけよ、あんな見るからに強そうなヤツと! お前も強いけど、打撃と柔道じゃ全然違うだろ! 特に柔道は重くてデカいヤツが有利だって言うし! 蹂躙(じゅうりん)されるぞ、恭!」


 しかし友人の忠告に、恭は怯むどころか目を輝かせて言う。


「だからいいんじゃん。せっかく柔道をやるなら、授業レベルじゃなくて実戦的な柔道を習いてぇ」

「お前の強さへの飽くなき探求心は何!? やめとけって! 噂じゃ大田原は、自分と違ってモテるお前に嫉妬してるらしいぞ!」

「それならそれで本気で相手してくれるだろうし、構わん。ちょっと組んでくれないか聞いて来る」


 恭は言うが早いか大田原に声をかけた。


「なぁ、大田原。俺とペアを組んでくれないか?」

「は? なんで俺と。違うクラスだし、話したことも無いだろう」

「大田原が柔道の全国大会で、何度も優勝するほどの猛者だって聞いた。どうせ柔道をやるなら強いヤツと組みたい」


 恭の率直な申し出に、大田原は不愉快そうに眉をひそめる。


「お前は柔道を舐めているのか? ちょっとばかり空手やボクシングが強いからって、柔道でも勝てるだろうと?」


 ところが恭は彼の誤解を冷静に否定する。


「いや、そんなことは全然思ってない。柔道は全く畑違いで知らないからこそ、強いヤツに教わって強くなりたい」

「お、俺に柔道を教わりたいって言うのか? ボクシング部の八神恭が?」


 大田原も恭の噂を聞いていた。


 高校からボクシングをはじめたのに、今年の春の大会で準優勝になった天才だと。小中は空手でも輝かしい実績を残したと。そのうえモデル顔負けのイケメンで学業も優秀。女子にも爆モテらしい。


 きっと才能にあぐらをかいた嫌なヤツに違いないと思っていた。


 ところが実際の八神恭は、無愛想ながら純粋で真っすぐな目で言う。


「柔道一筋の大田原にこんなことを言ったら呆れられるかもしれないけど、空手やボクシングにこだわりはなくて、ただもっと強くなりたい。だからこの機会に柔道にも本気で取り組みたいんだ」

「なぜそこまで強くなりたいんだ?」


 大田原の問いに、恭の脳裏をあるシーンが()ぎる。


『やっぱ男はフィジカルだよな~。お姉ちゃん、強いヤツがいちばん好き』


 それは映画やゲームに出て来る強い男を見て、あやめがよく言うフレーズ。


(いや、別にアイツの影響じゃないし)


 恭は脳内で、姉の顔を搔き消してから答える。


「……ただ今より強くなりたいだけ。それじゃダメなのか?」


 恭の答えに、大田原は「お、おお……」と感動に声を震わせて述べる。


「感動したぞ、八神! 俺は正直お前は、もっとすかしたヤツかと思っていたんだ! それがこんな熱い魂を持っていたとは!」


 大田原は分厚い手で、恭の肩を親し気に叩いて請け負う。


「よし! 俺で良ければ教えてやろう! 授業で足りなければ柔道部にも来い!」

「ありがとう。お前と柔道するの、メチャクチャ楽しみだ」


 武道家同士の熱い友情の芽生えを目撃した槇は、


「恭のヤツ、いつも無愛想なのに、大田原にはあんな顔で笑うのか。武道家同士、通じるものがあるんだろうけど、いつも一緒にいるのは俺なのに、なんか複雑な気持ち~」


 と呟いた。

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