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誕生日とお礼のチュー

 恭が警備のバイトから帰宅した後。


 弟は夜に、姉の部屋を訪ねて経緯を報告した。


「で、なんか犯人を捕まえたからって本来のバイト代より多くもらったうえに、その作家さんからも『気持ちだから』って謝礼をもらった」


 恭は遠慮したが『どうしても』と受け取らされた。


 弟の武勇伝を聞いた姉は、やや唖然としながらコメントする。


「初めてのバイト、それも単発の仕事で、そんな事件に巻き込まれるって。すげーな、主人公かよ」

「普通に警備の仕事しただけなのに、こんなにもらって申し訳ねぇ……」


 封筒を手に落ち込む恭に、あやめは「いいじゃん」と明るく笑いかける。


「その作家さんは、よっぽど嬉しかったんだと思うぞ。体だけじゃなく心も護るなんて、なかなかできることじゃないし。お前はいい仕事をしたんだから、遠慮なくもらっておけよ」


 その言葉を聞いて少し気が晴れた恭は、


「体は護れてないけど……じゃあ、そうするわ」


 と納得することにした。


「それにしても、なんで急にバイトなんか?」


 不思議がるあやめに、恭は後ろ手に隠していたプレゼントの包みを遠慮がちに差し出す。


「……これ、誕生日祝い」


 弟の不器用な祝いの言葉に、姉は一瞬目を丸くした後、デレデレと笑って言う。


「へ~? お姉ちゃんにプレゼントを買うために、わざわざバイトしたのか? お姉ちゃん、愛されてるぅ~」


 からかわれていると誤解した恭はムッとして言い返す。


「違う。俺も働けるぞってところを見せたかっただけ」

「別にお前の甲斐性を疑ったことないぞ。お前は真面目だしコツコツ努力できるから、その気になればどこだって勤まるだろ」


 珍しくストレートに褒められて、恭は少しくすぐったくなりながら話を戻す。


「……とにかく受け取れ」


 あやめはさっそく包みを開けて中を確認した。


「あっ、財布だ。可愛い」


 プレゼントはピンクゴールドのリボンモチーフがついた桜色の長財布だった。


「お前が前に、財布は二つ折りより長財布がいいって言ってたから」

「そうそう。なんか金運には長財布がいいんだって。色もピンクで可愛いな。上品なデザインだから、大人になっても使えそう」


 あやめはニコニコと財布を開き、製品情報が書かれたカードを見た。道理で手触りがいいと思ったら、牛本革で作られているらしい。


「でもこれ本革なら高かったんじゃないの?」


 お金の心配をする姉に、弟はやや目を逸らしながら誤魔化す。


「……ちょうどセールだったし、バイト代たくさんもらったから平気」


 本当はセールではなかったし、1万円近くした。


 しかし思ったよりバイト代を多くもらったのもあり、自分がいちばんいいと思うものをあげたかった。


 ただ本当のことを言うと、あやめが遠慮しそうだし、また愛されているのなんの言われたくなくて嘘を吐いた。


「……それに受賞のお祝い、まだだったろ。だからいつもより、ちょっと色付けといた」


 受賞のお祝いについては、皆で焼き肉を食べに行った上に、ケーキも買ってもらって、それで十分だった。けれど恭は自分もお祝いをしたかったらしい。


 弟の心遣いに、姉は「恭……」と感動に目を潤ませながら続ける。


「お前は結局そうやって自分から理由をつけては、お姉ちゃんに尽くしてしまうんだな。まったくいい弟……いや、カモだぜ」

「なんでわざわざ悪いほうに言い直すんだよ」


 案の定イラッとした恭は「財布捨てるぞ」と脅したが、あやめは、


「ダメ。もうお姉ちゃんの」


 と大事に胸に抱きながら、改めて感謝を述べる。


「とにかくプレゼントありがとな。財布も可愛いけど、お前がわざわざがんばってくれたのが、いちばん嬉しいわ」


 先ほどとは違う素直な笑みに、恭が気を取り直したのも束の間。


「ほれ、お礼のチュー」


 あやめはごく自然な動作で、恭の頬にチュッとキスした。弟は手で頬を押さえながら俯くと、


「……だからキスが礼になると思うな」


 と小声でツッコみ、「後お前のためにがんばったわけじゃない」と悔しそうに付け足した。


 恭が部屋に戻った後。あやめは、ほのかにこんな電話をした。


「ってことがあったんだけど、私の誕生日プレゼントを買うためにバイトした上に『受賞のお祝い』とまで言ったのに、私のためじゃないは無理があるよな?」

『ああっ! でもその苦しい言い訳が! 恭君のいちばん愛おしいポイントじゃないかな!?』


 電話の向こうで悶絶する親友に、あやめは珍しく「それはそう」と同意すると、


「うちの弟は世界一可愛い」


 と頬を染めて、へへっと笑った。

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