表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/102

ご褒美マカロン

 無事に花束を買った恭は、最後にケーキ屋に入った。


 事前に打ち合わせたとおり、見た目が華やかなフルーツ系のケーキを数点撮影すると、あやめに送って判断を仰ぐ。


 すぐにあやめから返信が来たので、それを注文した。


「ケーキはこちらの1点で、よろしいですか?」


 店員の確認に、恭はふと思いついて追加注文する。


「じゃあ、そのラズベリーのマカロンを1つください。ケーキとは別会計で」


 それから恭は買い出しを終えて自宅に戻った。


「ただいま」

「お帰り~。カーネーション、ちゃんと買えたか?」


 玄関まで出迎えに来た姉に、弟はピンクの花束をバサッと渡す。


「毎年やってんだから、今さら間違えねぇよ。これでいいんだろ?」

「うん。やっぱり花束を渡すなら、このくらいのボリュームがないとな」


 恭の帰宅から40分後。


 台所でカレーをかき混ぜるあやめのもとに、恭が「風呂掃除終わった」と報告に来た。


「偉いな。ご褒美にチューしてやろうか?」

「カレー混ぜてろ」


 冷たく断られたあやめは急に苦しそうな顔で言う。


「ところでお姉ちゃん、早くも力尽きはじめてる。た、頼む。私の代わりに米を洗って、ご飯を炊いてくれ……!」

「けっきょく家事までやらせる」


 弟は文句を言いつつも、姉の茶番に付き合い、炊飯器からお釜を取り出した。


 その様子を見ながら、あやめは笑顔で述べる。


「お礼にお姉ちゃんの愛情カレー、いちばんに食べていいぞ」

「それ単に俺たちだけ昼もカレーってだけだろ」


 弟の鋭い指摘に、姉は「バレたか」と笑いながら続ける。


「残ったらもったいないから、いっぱい食べてね」


 恭が炊飯器をセットした頃。あやめもガスコンロの火を止めて調理を終えた。


「じゃ、ご飯が炊けたら、お昼にしよ。それまでお姉ちゃんは休憩じゃ」


 あやめは恭に一時解散を告げると、冷たいお茶が入ったコップを手にリビングに向かった。


 ところがソファに座ってテレビを点けると、なぜか恭がついて来る。


「どうした? お前も休んでいいぞ」

「目ぇ閉じて口開けろ」


 不可解な命令に、あやめは目を丸くする。


「なんだ? 激しいキスでもするのか?」

「姉弟でそんなことするか」

「じゃあ、なんで?」

「いいからやれ」


 あやめは首を傾げつつも、指示どおり目を閉じて口を開けた。


 すると、すぐに口の中に何か突っ込まれる。


「んっ!?」


 あやめは驚いて目を開けると、口を押さえながら恭に尋ねる。


「何これ美味しい。お菓子?」

「マカロン。ケーキを買ったらオマケだって」


 滅多にケーキ屋に行かないあやめは恭の嘘を素直に信じた。


「へ~、ラッキーだったな。で、その1つしかないマカロンをお姉ちゃんにくれたの? 優しい~」


 ニヤニヤする姉に、弟はムッとして言い返す。


「違う。俺は要らなかっただけ」

「どっちにしても得しちゃったぜ。やはり善行は積むものですね」

「あと自分で食え」


 恭はあやめに半分になったマカロンを渡そうとした。ところが姉は餌付けを待つ雛のように、目を閉じて「あ~」と口を開く。


「あ?」

「あ~」


 暗に『食べさせて』と言うあやめに、恭は眉根を寄せながらもマカロンを食べさせてやった。


「へっへっへ。イケメンの弟に食べさせてもらうマカロンは格別だなァ」


 上機嫌のあまりチンピラ化する姉に、弟は不満そうに愚痴る。


「なんで母の日に、お前に奉仕しなきゃならねぇんだ」

「母さんへの(ねぎら)いは母の日と誕生日だけでいいけど、お姉ちゃんへの奉仕は年中無休だから」

「親より上に立つな」

「尽くした分の礼はするぞ。ほら、ご褒美のチュー」


 あやめは恭の頬にチュッと口づけた。


 恭はバッと頬に手をやりながら、悔しそうに口を開く。


「……チューがご褒美とか、今どき漫画のヒロインでも言わないぞ」

「ひひっ、大丈夫。私はウザイ身内キャラだから。主人公に嫌がられるウザ絡みお姉ちゃんはたくさんいるだろ」

「ウザい自覚があるならやるな」

「とか言いつつ、私の間合いから逃げないのは、もっとしてくれってことか?」


 あやめの指摘どおり、恭はソファの隣に座ったままだ。


「違う。逃げそびれただけ」

「じゃあ、その隙に乗じて、もっとくっついちゃお」


 あやめは側面から恭に飛びかかった。とは言え虚弱チビの姉に、格闘技をしている弟を押し倒せるはずはない。


 ところが恭は容易くソファーに引っ繰り返された。


「やめろ。ウザイ」

「とか言って簡単にマウントを取らせる。やはり対弟戦において、お姉ちゃんは無敵」

「勝手に言ってろ」


 不服そうな弟の上で、姉は猫のように腹這いになって言う。


「今日はお使いとお手伝い、ありがと。ケーキ美味しそうなの買えたし、母さん、きっと喜ぶぞ」


 満足げに笑う姉に、弟はふと手を伸ばす。


「なんで頭を撫でるんだ?」

「別に……今日はお前もがんばったかなって」


 恭の不器用な労いに、あやめはくすぐったそうに「うん」と笑顔で返す。


「お姉ちゃん、今日はがんばったぞ。だから、おらっ! もっと労え!」

「すぐ調子に乗る」


 自分の胸にドリルのように額を擦りつけて来るあやめに、恭はうんざり顔をした。


 しかし逃げることはせず、ご飯が炊けるお知らせ音が鳴るまで、姉の頭を撫でていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全2巻発売中(電子版はオマケのSS付き)です。
なろう版はこちらからご覧になれます。
ldmp8i7fc81phms47dzqk9fo19z3_1mo_go_og_f5qu.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ