第22話:勇者クビ宣告と、暴走する「魔導AI兵器」
魔王城の会議室。
アコギ王国でのストライキ宣言を終え、魔王城に戻った勇者労組のレオたちが、今後の交渉方針を練っていた時だった。
フォン……。
テーブルの中央に、通信魔法のホログラム映像が浮かび上がった。
映し出されたのは、顔を真っ赤にして激怒しているアコギ国王だ。
(※ヨシコを召喚した小国の王とは別人の、大国を支配する冷酷な独裁者である)
『――勇者レオ、ならびにパーティの諸君。貴様らに告ぐ』
王の声が、冷酷に響き渡る。
『貴様らは、本日付で全員「懲戒解雇」とする』
「な……っ!?」
レオが立ち上がる。
「解雇だと!? 俺たちは不当な扱いに対して声を上げただけで……!」
『黙れ! 権利だの休息だのと喚く道具など、我が国には不要だ!』
王は醜悪な笑みを浮かべた。
『貴様らがストライキをしている間に、我々は「代わり」を用意した。……文句一つ言わず、24時間365日働き、給料も要らない最高の兵士をな!』
映像が切り替わる。
映し出されたのは、王都の広場を埋め尽くす、無機質な軍団。
全身が鋼鉄でできた、人型の「魔導自動人形」だ。
その数、およそ一万。
『見よ! 古代遺跡から発掘し、我が国の魔導技術で量産化した「魔導兵団・マークⅡ」だ! 感情を持たず、命令のみを遂行する殺戮マシーン……これこそが、理想の「勇者」だ!』
ズシン、ズシン……。
映像の中で、一万体の人形が魔王国に向かって一斉に行進していた。
そのデザインは異様だった。
全身が無駄に金ピカに塗装され、胸部にはデカデカと「王の顔」がレリーフとして刻まれている。
おまけに、歩くたびに「王様万歳、王様万歳」と電子音声を発するという、悪趣味極まりない仕様だ。
『目標、魔王城! 全てを破壊し、更地にせよ!』
映像が消えた。
会議室に、絶望的な沈黙が落ちる。
「……嘘だろ……俺たちは……要らない子だったのか……」
「機械に……負けたの……?」
魔法使いの少女がへたり込む。
「権利を主張したら、機械に置き換えられた」。
それは労働者が最も恐れる悪夢だ。
自分たちの存在価値を根底から否定されたレオたちは、急速に戦意を喪失していく。
「……あーあ。王様、やってもうたな」
その中で一人、ヨシコだけが冷ややかに呟いた。
「ヨシコさん……?」
「機械はな、文句言わへんのちゃう。『言えへん』だけや。それを『便利』と勘違いした時点で、経営者失格や」
ヨシコの脳裏に、この世界に来た日のことが過る。
最初の召喚地「ナケナシ王国」の王様は、強国であるアコギ王国からの圧力に逆らえず、泣く泣くヨシコを「勇者」として魔王城へ送り出したのだった。
『すまぬ。国を守るためには、誰かを犠牲にするしかなくて……』
皆には聞こえないようにそう言って、不器用な手つきで作った「おにぎり弁当」を持たせてくれた、あの震える手。
あれには、少なくとも「人としての痛み」があった。
だが、このアコギ王にはそれがない。
人を人とも思わず、機械すらも「使い捨ての道具」としか見ていない。
「……上等や。その『冷たい効率主義』、ウチの技術屋がへし折ったるわ」
その時、地響きと共に城が揺れた。
魔導兵団が到着したのだ。
ヨシコはスマホを取り出すと同時に、部屋の隅の「影」に向かって声をかけた。
「シェイドさん! 『例のブツ』、取れたんか?」
音もなく影から現れたのは、四天王の一人、闇の暗殺者シェイドだ。
「……はっ。昨晩、王立工場に潜入し、設計図と製造データを盗み出してきました。……ついでに、王の独り言も録音済みです」
シェイドがSDカード(のような魔石)を差し出す。
その動きは疾風のように速く、以前のような疲労感は微塵もない。
「さすが忍者、仕事が早いわ。……でも、ようあそこまで行けたな?」
ヨシコが感心すると、シェイドは口元を緩めた。
「以前の過労状態では、国境を超えるのがやっとでしたが……今は十分な休暇と睡眠のおかげで体調万全。アコギ王国の王都への往復など造作もありませんでした」
シェイドは、手の中の高品質な魔石を見つめた。
「それに、この『超小型録音魔石』も、我が軍の工房が開発した最新鋭です。現場(工房)もホワイト化で士気が上がり、以前より高性能な魔道具が作れるようになりました。……必要な資材も、申請したら即日で支給されましたしね」
以前なら「予算がない」「気合でなんとかしろ」と言われていた任務が、今は万全の体調と、最高の装備、そして潤沢な予算で実行されている。
魔王軍の改革は、諜報活動のレベルまでも劇的に引き上げていたのだ。
「ええこっちゃ。健康な体と、ええ道具。それがプロの仕事を生むんや」
ヨシコはニカっと笑い、魔石を受け取った。
「シロウ、データ送るで! ポンコツ機械の『構造解析』、頼むわ!」
画面に映ったのは、白衣を着て、目の下にクマを作ったボサボサ頭の男。
四男・シロウ(40歳)。
地球の天才工学博士にして、姉から送られてくる異世界のデータを解析し、独自に「魔導工学」を科学的に解明してしまった、変態的なエンジニアだ。
『――やあ姉さん。データ受け取ったよ。「マークⅡ」ねぇ……』
シロウが興味なさそうに欠伸をした。
『面白いね。シェイドさんが盗んできてくれた「魔力回路図」と照らし合わせたけど……典型的な「スペック詐欺」だ』
「スペック詐欺?」
『ああ。カタログ上の出力を上げるために、魔力炉を暴走寸前まで回してる。そのくせ、排熱処理と制御系をオミット(省略)してるんだ。……素人が設計した欠陥品だよ』
シロウがモニターに映る「金ピカ&王の顔レリーフ」を見て、鼻で笑った。
『それに、この無駄な金メッキ塗装が放熱を妨げてるし、胸の顔レリーフのせいで装甲バランスも悪い。……「設計者のエゴ」が全部悪い方向に出てる。工学的センスがゼロだね』
「やっぱりか。シェイドさんの報告でも、王様が『冷却装置など要らん! コストカットして量産しろ! 見た目を派手にしろ!』言うてたらしいわ」
『ハハッ、最悪だね。安全装置も外してるな。これじゃあ「熱暴走」するよ』
窓の外では、無数の鋼鉄人形が城壁を登り始めていた。
関節から黒い煙を上げ、異様なスピードで迫ってくる。
「魔族ヲ排除セヨ! 魔王ヲ殺セ!」
「ひぃぃっ! 来た! 終わりだ!」
会議室の窓から外を見て、オロオロする勇者たち。
ヨシコは彼らに声をかけた。
「レオ。あんたらも来い。自分らの『代わり』がどうなるか、その目でよう見とき」
ヨシコは彼らを連れて城壁の上へと移動した。
「魔王軍、全員傾聴! ……総員、『防御』の構え! 攻撃は一切禁止や!」
「なっ!? ヨシコ、反撃しないのか!?」
「せんでええ! ただ盾を構えて、時間稼ぎするんや!」
魔王軍の兵士たちは、ヨシコを信じて巨大な盾を構え、亀のように固まった。
人形たちが襲いかかる。
剣が盾を叩く。
ガン! ガン! ガン!
「出力300%! 殲滅! 殲滅!」
人形たちは狂ったように攻撃を続ける。
そのパワーは凄まじい。
一方、アコギ王国の司令室。
アコギ王は、壁一面の巨大な水晶モニターを見上げて、高笑いしていた。
そこには、オートマタの「眼」が捉えた魔王城の映像がリアルタイムで映し出されている。
「はーっはっは! 見ろ、魔王軍の兵士たちが怯えているぞ! 行け! 踏み潰せ!」
王は勝利を確信していた。 だが、モニターの中のオートマタたちが城壁に取り付いた、その瞬間だった。
『……カウントダウン開始。3、2、1……』
司令室のスピーカーから、聞き覚えのない「男の声」が割り込んだ。
「ん? 誰だ?」
プスン……!
モニターの中で、先頭の人形が突然動きを止めた。
関節からシューッと白い蒸気が吹き出し、真っ赤に熱せられた装甲が焼き付く。
次々と自壊していくオートマタたち。
アコギ国王が絶叫する。
「な、なぜだ!? なぜ動かん! まだ稼働して1時間だぞ!?」
『当たり前だ』
再び、スピーカーから男の声が響く。
同時に、水晶モニターの映像が歪み、ノイズ交じりにシロウの顔が映し出された。
ハッキングだ。
『機械だろうが魔法だろうが、物理法則からは逃げられない。「エネルギーを使えば熱が出る」。……だから適度な「冷却(休憩)」が必要なんだよ』
「き、貴様は何者だ!? なぜこの回線に……!」
『通りすがりの魔導技師さ。オートマタの通信回線がガバガバだったから、ちょっとお邪魔したよ。……君は「リミッター」を外せば性能が上がると勘違いしたんだろうけど、それは寿命を前借りしてるだけだ』
シロウは画面越しに、冷ややかな視線を送る。
『メンテナンスもせず、冷却もさせず、ただ酷使すれば、どんな高性能な機械でも一瞬でガラクタになる。……君は、技術への愛がないね』
技術者としての軽蔑がこもった一言。
続いて、モニターにヨシコの顔が大写しになった。
彼女は、機能停止して倒れているオートマタのカメラを覗き込んでいた。
「聞いたか王様。機械ですら、無理させたら壊れるんや。……ましてや、生身の人間(勇者)が、休まずに動き続けられるわけないやろ!」
その時だった。
ヨシコの背後で、熱暴走を起こした一体のオートマタが、限界を超えて爆発寸前になった。
キィィィン……と、不快な高音が響く。
「危ない!!」
叫んだのは勇者レオだった。
彼は咄嗟にヨシコを突き飛ばし、前に飛び出した。
同時に、魔法使いの少女が杖を掲げる。
「防御障壁展開ッ!!」
さらに、武闘家が素早く回り込み、ヨシコを自身の体で覆うように庇った。
ドカァァァァン!!
オートマタが爆発し、破片が飛び散る。 だが、レオたちの完璧な連携により、ヨシコには傷一つ付かなかった。
「……はぁ、はぁ……無事か、ヨシコさん!」
「ギリギリセーフ……! よかった……!」
汗を拭う勇者たち。
言葉を交わす必要すらない、阿吽の呼吸。
ヨシコはゆっくりと立ち上がり、オートマタのカメラ(=王のモニター)を振り返った。
「見たか、王様。これが『人間』や」
「……っ!」
モニターの向こうで、王が息を呑む気配がした。
「レオ、機械には『助け合い』がない。一箇所壊れたらそれまでや。……でも人間は、弱さを補い合い、とっさに助け合うことができる。それが、あんたらが機械に勝ってる一番の武器や」
レオの目に、涙が浮かんだ。 自分たちは「非効率な道具」ではなかった。 弱さを抱え、それを補い合うからこそ、強かったのだ。
「……王よ! 聞こえているか!」
レオが、オートマタのカメラに向かって叫んだ。
「俺たちは機械じゃない! 壊れたら終わりの使い捨てじゃない! ……俺たちは、痛みを知る『人間』だ!」
「だからこそ! 貴様のような血の通わぬ主に、世界は渡さん!!」
勇者の叫びが、アコギ王国の司令室に響き渡る。
王は顔を真っ赤にし、手元の通信機を床に叩きつけた。
「お、おのれぇぇぇ! 覚えていろ! 次こそは……次こそはぁぁぁ!」
王が暴れたせいで、通信が途切れた。
魔王城では、勝利の歓声が上がっていた。
だが、ヨシコは知っていた。
王はまだ諦めていない。
機械がダメなら、次はもっと非道な手段を使ってくるはずだ。
「……さて。シロウ、ありがとな」
『いいよ。……でも姉さん、気をつけて。あの王様、次は「禁断の魔術」に手を出すかもしれない』
「禁断の魔術?」
『うん。……生きている人間を、無理やり強化するような……』
不穏な予言を残し、シロウは通話を切った。
魔王軍ホワイト化計画。
内部は固まった。
勇者も味方につけた。
残る敵はただ一人――ブラック企業の権化、アコギ国王のみ。
最終決戦の時が、刻一刻と迫っていた。
(続く)
機械vs人間。
効率だけを求めた機械が、人間の「支え合い」に敗れるシーン、書いていて熱くなりました。
四男・シロウのハッキングも見事でしたね。
次回、最終決戦!
薬漬けにされた騎士団を救えるか!?




