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異世界総務のヨシコさん(58)  ~エリート弟妹たちとスマホで繋がって「魔王軍ホワイト化」始めます。残業代はきっちり請求しまっせ!~  作者: 早野 茂
第四章:勇者労組とアコギ王国対決編 ~法的制裁と世界を変えるストライキ~

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22/22

第22話:勇者クビ宣告と、暴走する「魔導AI兵器」

 魔王城の会議室。

アコギ王国でのストライキ宣言を終え、魔王城に戻った勇者労組のレオたちが、今後の交渉方針を練っていた時だった。


フォン……。

テーブルの中央に、通信魔法のホログラム映像が浮かび上がった。

映し出されたのは、顔を真っ赤にして激怒しているアコギ国王だ。

(※ヨシコを召喚した小国の王とは別人の、大国を支配する冷酷な独裁者である)


『――勇者レオ、ならびにパーティの諸君。貴様らに告ぐ』


王の声が、冷酷に響き渡る。


『貴様らは、本日付で全員「懲戒解雇」とする』


「な……っ!?」

レオが立ち上がる。

「解雇だと!? 俺たちは不当な扱いに対して声を上げただけで……!」


『黙れ! 権利だの休息だのと喚く道具など、我が国には不要だ!』


王は醜悪な笑みを浮かべた。


『貴様らがストライキをしている間に、我々は「代わり」を用意した。……文句一つ言わず、24時間365日働き、給料も要らない最高の兵士をな!』


映像が切り替わる。

映し出されたのは、王都の広場を埋め尽くす、無機質な軍団。

全身が鋼鉄でできた、人型の「魔導自動人形オートマタ」だ。

その数、およそ一万。


『見よ! 古代遺跡から発掘し、我が国の魔導技術で量産化した「魔導兵団・マークⅡ」だ! 感情を持たず、命令のみを遂行する殺戮マシーン……これこそが、理想の「勇者」だ!』


ズシン、ズシン……。


映像の中で、一万体の人形が魔王国に向かって一斉に行進していた。

そのデザインは異様だった。

全身が無駄に金ピカに塗装され、胸部にはデカデカと「王の顔」がレリーフとして刻まれている。

おまけに、歩くたびに「王様万歳、王様万歳」と電子音声を発するという、悪趣味極まりない仕様だ。


『目標、魔王城! 全てを破壊し、更地にせよ!』


映像が消えた。

会議室に、絶望的な沈黙が落ちる。


「……嘘だろ……俺たちは……要らない子だったのか……」


「機械に……負けたの……?」


魔法使いの少女がへたり込む。

「権利を主張したら、機械に置き換えられた」。

それは労働者が最も恐れる悪夢だ。

自分たちの存在価値を根底から否定されたレオたちは、急速に戦意を喪失していく。


「……あーあ。王様、やってもうたな」


その中で一人、ヨシコだけが冷ややかに呟いた。


「ヨシコさん……?」


「機械はな、文句言わへんのちゃう。『言えへん』だけや。それを『便利』と勘違いした時点で、経営者失格や」


ヨシコの脳裏に、この世界に来た日のことが過る。

最初の召喚地「ナケナシ王国」の王様は、強国であるアコギ王国からの圧力に逆らえず、泣く泣くヨシコを「勇者」として魔王城へ送り出したのだった。

『すまぬ。国を守るためには、誰かを犠牲にするしかなくて……』

皆には聞こえないようにそう言って、不器用な手つきで作った「おにぎり弁当」を持たせてくれた、あの震える手。

あれには、少なくとも「人としての痛み」があった。


だが、このアコギ王にはそれがない。

人を人とも思わず、機械すらも「使い捨ての道具」としか見ていない。


「……上等や。その『冷たい効率主義』、ウチの技術屋エンジニアがへし折ったるわ」


その時、地響きと共に城が揺れた。

魔導兵団が到着したのだ。


ヨシコはスマホを取り出すと同時に、部屋の隅の「影」に向かって声をかけた。


「シェイドさん! 『例のブツ』、取れたんか?」


音もなく影から現れたのは、四天王の一人、闇の暗殺者シェイドだ。


「……はっ。昨晩、王立工場に潜入し、設計図と製造データを盗み出してきました。……ついでに、王の独り言も録音済みです」


シェイドがSDカード(のような魔石)を差し出す。

その動きは疾風のように速く、以前のような疲労感は微塵もない。


「さすが忍者、仕事が早いわ。……でも、ようあそこまで行けたな?」


ヨシコが感心すると、シェイドは口元を緩めた。


「以前の過労状態では、国境を超えるのがやっとでしたが……今は十分な休暇と睡眠のおかげで体調万全。アコギ王国の王都への往復など造作もありませんでした」


シェイドは、手の中の高品質な魔石を見つめた。


「それに、この『超小型録音魔石』も、我が軍の工房が開発した最新鋭です。現場(工房)もホワイト化で士気が上がり、以前より高性能な魔道具が作れるようになりました。……必要な資材も、申請したら即日で支給されましたしね」


以前なら「予算がない」「気合でなんとかしろ」と言われていた任務が、今は万全の体調と、最高の装備、そして潤沢な予算で実行されている。

魔王軍の改革は、諜報活動のレベルまでも劇的に引き上げていたのだ。


「ええこっちゃ。健康な体と、ええ道具。それがプロの仕事を生むんや」


ヨシコはニカっと笑い、魔石を受け取った。


「シロウ、データ送るで! ポンコツ機械の『構造解析レビュー』、頼むわ!」


画面に映ったのは、白衣を着て、目の下にクマを作ったボサボサ頭の男。

四男・シロウ(40歳)。

地球の天才工学博士にして、姉から送られてくる異世界のデータを解析し、独自に「魔導工学」を科学的に解明してしまった、変態的なエンジニアだ。


『――やあ姉さん。データ受け取ったよ。「マークⅡ」ねぇ……』


シロウが興味なさそうに欠伸をした。


『面白いね。シェイドさんが盗んできてくれた「魔力回路図」と照らし合わせたけど……典型的な「スペック詐欺」だ』


「スペック詐欺?」


『ああ。カタログ上の出力を上げるために、魔力炉を暴走寸前まで回してる。そのくせ、排熱処理と制御系をオミット(省略)してるんだ。……素人が設計した欠陥品だよ』


シロウがモニターに映る「金ピカ&王の顔レリーフ」を見て、鼻で笑った。


『それに、この無駄な金メッキ塗装が放熱を妨げてるし、胸の顔レリーフのせいで装甲バランスも悪い。……「設計者のエゴ」が全部悪い方向に出てる。工学的センスがゼロだね』


「やっぱりか。シェイドさんの報告でも、王様が『冷却装置など要らん! コストカットして量産しろ! 見た目を派手にしろ!』言うてたらしいわ」


『ハハッ、最悪だね。安全装置リミッターも外してるな。これじゃあ「熱暴走」するよ』


窓の外では、無数の鋼鉄人形が城壁を登り始めていた。

関節から黒い煙を上げ、異様なスピードで迫ってくる。


「魔族ヲ排除セヨ! 魔王ヲ殺セ!」


「ひぃぃっ! 来た! 終わりだ!」


会議室の窓から外を見て、オロオロする勇者たち。

ヨシコは彼らに声をかけた。


「レオ。あんたらも来い。自分らの『代わり』がどうなるか、その目でよう見とき」


ヨシコは彼らを連れて城壁の上へと移動した。


「魔王軍、全員傾聴! ……総員、『防御』の構え! 攻撃は一切禁止や!」


「なっ!? ヨシコ、反撃しないのか!?」


「せんでええ! ただ盾を構えて、時間稼ぎするんや!」


魔王軍の兵士たちは、ヨシコを信じて巨大な盾を構え、亀のように固まった。

人形たちが襲いかかる。

剣が盾を叩く。


ガン! ガン! ガン!


「出力300%! 殲滅! 殲滅!」

人形たちは狂ったように攻撃を続ける。

そのパワーは凄まじい。

一方、アコギ王国の司令室。

アコギ王は、壁一面の巨大な水晶モニターを見上げて、高笑いしていた。

そこには、オートマタの「カメラ」が捉えた魔王城の映像がリアルタイムで映し出されている。


「はーっはっは! 見ろ、魔王軍の兵士たちが怯えているぞ! 行け! 踏み潰せ!」


王は勝利を確信していた。 だが、モニターの中のオートマタたちが城壁に取り付いた、その瞬間だった。


『……カウントダウン開始。3、2、1……』


司令室のスピーカーから、聞き覚えのない「男の声」が割り込んだ。


「ん? 誰だ?」


プスン……!


モニターの中で、先頭の人形が突然動きを止めた。

関節からシューッと白い蒸気が吹き出し、真っ赤に熱せられた装甲が焼き付く。

次々と自壊していくオートマタたち。


アコギ国王が絶叫する。


「な、なぜだ!? なぜ動かん! まだ稼働して1時間だぞ!?」


『当たり前だ』


再び、スピーカーから男の声が響く。

同時に、水晶モニターの映像が歪み、ノイズ交じりにシロウの顔が映し出された。

ハッキングだ。


『機械だろうが魔法だろうが、物理法則からは逃げられない。「エネルギーを使えば熱が出る」。……だから適度な「冷却(休憩)」が必要なんだよ』


「き、貴様は何者だ!? なぜこの回線に……!」


『通りすがりの魔導技師さ。オートマタの通信回線がガバガバだったから、ちょっとお邪魔したよ。……君は「リミッター」を外せば性能が上がると勘違いしたんだろうけど、それは寿命を前借りしてるだけだ』


シロウは画面越しに、冷ややかな視線を送る。


『メンテナンスもせず、冷却もさせず、ただ酷使すれば、どんな高性能な機械でも一瞬でガラクタになる。……君は、技術モノへの愛がないね』


技術者としての軽蔑がこもった一言。

続いて、モニターにヨシコの顔が大写しになった。

彼女は、機能停止して倒れているオートマタのカメラを覗き込んでいた。


「聞いたか王様。機械ですら、無理させたら壊れるんや。……ましてや、生身の人間(勇者)が、休まずに動き続けられるわけないやろ!」


 その時だった。

ヨシコの背後で、熱暴走を起こした一体のオートマタが、限界を超えて爆発寸前になった。

キィィィン……と、不快な高音が響く。


「危ない!!」


 叫んだのは勇者レオだった。

彼は咄嗟にヨシコを突き飛ばし、前に飛び出した。

同時に、魔法使いの少女が杖を掲げる。


防御障壁プロテクション展開ッ!!」


 さらに、武闘家が素早く回り込み、ヨシコを自身の体で覆うように庇った。


 ドカァァァァン!!


 オートマタが爆発し、破片が飛び散る。  だが、レオたちの完璧な連携により、ヨシコには傷一つ付かなかった。


「……はぁ、はぁ……無事か、ヨシコさん!」


「ギリギリセーフ……! よかった……!」


 汗を拭う勇者たち。

言葉を交わす必要すらない、阿吽の呼吸。

ヨシコはゆっくりと立ち上がり、オートマタのカメラ(=王のモニター)を振り返った。


「見たか、王様。これが『人間』や」


「……っ!」


 モニターの向こうで、王が息を呑む気配がした。


「レオ、機械には『助け合い』がない。一箇所壊れたらそれまでや。……でも人間は、弱さを補い合い、とっさに助け合うことができる。それが、あんたらが機械に勝ってる一番の武器や」


レオの目に、涙が浮かんだ。 自分たちは「非効率な道具」ではなかった。 弱さを抱え、それを補い合うからこそ、強かったのだ。


「……王よ! 聞こえているか!」


レオが、オートマタのカメラに向かって叫んだ。


「俺たちは機械じゃない! 壊れたら終わりの使い捨てじゃない! ……俺たちは、痛みを知る『人間』だ!」


「だからこそ! 貴様のような血の通わぬ主に、世界は渡さん!!」


勇者の叫びが、アコギ王国の司令室に響き渡る。

王は顔を真っ赤にし、手元の通信機を床に叩きつけた。


「お、おのれぇぇぇ! 覚えていろ! 次こそは……次こそはぁぁぁ!」


王が暴れたせいで、通信が途切れた。


魔王城では、勝利の歓声が上がっていた。

だが、ヨシコは知っていた。

王はまだ諦めていない。

機械がダメなら、次はもっと非道な手段を使ってくるはずだ。


「……さて。シロウ、ありがとな」


『いいよ。……でも姉さん、気をつけて。あの王様、次は「禁断の魔術」に手を出すかもしれない』


「禁断の魔術?」


『うん。……生きている人間を、無理やり強化するような……』


不穏な予言を残し、シロウは通話を切った。


魔王軍ホワイト化計画。

内部は固まった。

勇者も味方につけた。

残る敵はただ一人――ブラック企業の権化、アコギ国王のみ。

最終決戦の時が、刻一刻と迫っていた。


(続く)

機械vs人間。

効率だけを求めた機械が、人間の「支え合い」に敗れるシーン、書いていて熱くなりました。

四男・シロウのハッキングも見事でしたね。


次回、最終決戦!

薬漬けにされた騎士団を救えるか!?


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