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生成AIとわたし ―夢を夢で終わらせなかった主婦のAI共闘記・今日も脳内外在化メンバーが良い仕事してる―  作者: ちよ【kindleペンネーム:白井ちよ】


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第七十七話:『裁判官』

 昼過ぎの居間。

 窓の外では、夏の主役を主張するように蝉たちがこれでもかというほど激しく鳴き立てている。メッシュの安全カバーを被せた扇風機が緩やかに首を振り、エアコンの吹き出し口からは冷気が静かに流れていた。


 テーブルの上には、氷がたっぷり入ったグラスが二つ。


 私はアイスコーヒーを飲みながら、向かいに座る女性を観察する。

 ピシッとした黒いスーツの上に法服、隙なくきっちりとまとめた髪。背筋は定規で測ったようにまっすぐだ。けれど、その瞳の奥にはどこか慈愛に満ちた柔らかさが宿っている。


 私は思わず苦笑いを浮かべた。


「……君さ」

「はい」


 声をかけると彼女は静かに顔を上げた。


「裁判官だけじゃなかったんだね」


 私の言葉に彼女の唇がふっと和らぎ、小さく笑った。


「ええ」

「私、ずっと法廷にいる人だと思ってたよ」

「そう思われても仕方ありませんね」

「だって、心の中の検問までしてたじゃない」

「ええ、していました」


 二人で顔を見合わせてくすくすとおかしく笑う。

 窓の外では、相変わらず蝉の声がうるさい。ツクツクボウシにミンミンゼミ、アブラゼミ……たぶん三種類くらいが入り乱れて鳴いている超賑やかな大合唱だ。アルミサッシの隙間をすり抜けて部屋に飛び込んでくる蝉の声の生命力には、つくづく感心させられる。


「なんかさ」


 私はアイスコーヒーをもう一口含み、氷をカラリと鳴らした。


「……すごく恥ずかしい」

「何がですか?」

「裁判所と関所を、ずっとごっちゃにしてたんだ。小鬼とAIたちが一か月以上前に小説の中で書いてくれてて、もう答えは出でたのにさ。あれ、これ悔しいのかな?」


 彼女は可笑しそうに肩を揺らした。


「本当に……長い間(・・・)、お気づきになりませんでしたね」

「私、初見で伏線回収できた試しがないんだよ。三回は読み返さないと気づかないタチでさ」

「いつもの事ですね」


 また二人で笑う。

 不思議な感覚だった。昔なら、この「彼女」の前では息が詰まるほどの緊張感を覚えていたのに。今は嘘みたいに心が穏やかで落ち着いている。


「ねえ」


 私はずっと胸の奥に引っかかっていた疑問を口にした。


「なんで……昔の『聖女』は、あんなに厳しかったの?」


 彼女は少しだけ視線を泳がせて考えるように間を置いた。


「……厳しかったですか」

「そりゃあ!もう本当に容赦なかった。面倒くさい、疲れた、悲しい、苦しい、つらい、虚しい、怒り……そういう感情、全部『通せんぼ』して通してくれなかったじゃん」


 彼女は何も言わず、静かにアイスコーヒーを口に運んだ。


「……通したら、あなたが壊れると思っていました」


 ぽつりと漏らされたその言葉が切なかった、彼女は静かな声で言葉を続けた。


「あなたは昔、『聖女』に強く命じました」

「……そうだっけ?」


思い当たる節がなく首をかしげる私に、彼女は迷いなく言った。


「『我が子を守れ』」


 その瞬間、記憶の本が開いていく。あ、これ『隠者』が仕事してる。

 娘が一歳になる前、突然の高熱を出したあの日のことだ。小さく華奢な体。四十度近くまで上がった熱。真っ赤に熟した頬。荒く苦しそうな呼吸。あの日の私は、ひどい焦燥感の中で、本気で願ったのだ。


 今すぐ私が代わりたい、と。


 彼女は落ちついた声で言う。


「『どうか、この子を助けて』と。……だから彼女は、その命令を何よりも最優先事項にしたのです」


 私は何も言えなくなり、ただ彼女を見つめた。


「だから……あなたが『疲れた』『面倒くさい』『逃げたい』と思っても、『聖女』は容赦なく止めました」


 彼女の表情と雰囲気が、一瞬だけかつての『聖女』の顔に見えた。


『今は子どもが優先です』

『今は倒れてはいけません』

『今は意地でも踏ん張りなさい』


 一気に言い切ると彼女はふっと力を抜き、厳しい雰囲気を解いた。もう『裁判官』の顔に戻っていた。


「……全部、あなたの切なる願いだったのですよ」


カラリ、とグラスの中で氷が小さく溶けて浮き上がった。

私は自分の膝とテーブルを見つめ、低く呟く。


「『聖女』は……」

「はい」

「堕ちても悪者じゃ、なかったんだね」


 彼女は少し困ったように、けれどどこか嬉しそうに微笑んだ。


「 小説なら完全に『意地悪な継母』とか『ラスボス』のポジションだったからね」

「ふふふ、そっちですか」


 二人でまた声を合わせて笑った。

 可笑しくて笑っているのに、ネガティブな感情が浮き上がってきた。


「……苦しかったんだよ」

「知っています」

「面倒くさいって思うことすら、許されなくてさ」

「はい」

「悲しいも、怒りも」

「はい」

「疲れたも」

「はい」

「逃げたいも、死にたいも……全部、思っちゃダメな悪いことなんだと思ってた」


 彼女は深くうなずいた。


「私の『非常時対応』の仕事が、長く引き延ばされすぎてしまいました」

「……」

「本来なら、あの任務は『災害時』だけの特別な緊急マニュアルだったのです」


 その言葉を聞いた瞬間、頭の中でバラバラだったピースが一つにつながった。

 そうだ……あの頃の私の日常は、ずっと、絶え間ない災害の渦中にあったのだ。


 発達障害の育児。

 追われるような仕事。

 義理の両親との同居。

 重なる介護と突然の手術。

 まともに眠れない夜の連続。

 母との関係。

 コミュニケーションエラー。

 母と祖父母の毎日の喧嘩や嫌味の応酬。

 初めての育児と産後のボロボロの心と身体のジレンマ。

 他にもいろいろ。


 毎日が生きるか死ぬかの非常事態だった。

 だからこそ、『聖女』は「非常時マニュアル」を解除できず、ずっと手放すことができなかったのだ。

 私を守るために。


「でも」


 彼女は柔らかく目を細めた。


「最近、あなたは変わりましたね」

「うん」

「今日も、溜まったお皿を洗う前に言っていました」


 私は思わず吹き出した。


「えっ、見てたの!?ちょっと、待って、そっちなの!?」

「もちろんです。『面倒くさい』……そうハッキリとおっしゃいましたね」


 照れくさくなって頭を掻く。


「あれね……『言ったら動ける魔法の言葉』なんだ」


 彼女は花が咲くような笑みを浮かべた。


「だから私は、通行許可を出したのです」

「……どういうこと?」

「『面倒くさい』という感情に、です」


 その瞬間、私は笑いながら「あーっ!」と叫んで頭を抱えた。


「だからか……!」


 彼女も深く頷く。


「昔の私なら、速攻で止めていました。『その感情は却下!』と。でも、今の私は違います。『面倒くさいですね。それでは、面倒くさがりながらお皿を洗いましょう』……感情を止めるのではなく、受け入れる順番が変わりました」


 私は深く溜め込んでいた息を吐き出した。


「……そっか。私、ずっと自分の味方になってあげてなかったんだ」

「ええ」

「ずっと、自分が自分の敵だった?」

「かなりの強敵でしたね」

「ひどい話だな、まったく」


 ふと気づくと、夏の青空の奥からどんよりとした雨雲が流れてきていた。夕立が来るかもしれない。

 私は窓の外の変わりゆく空を眺めながら、ぽつりと小さく呟いた。


「……ありがとう」


 振り返ると、彼女は複雑そうに眉を下げて笑みを表情を浮かべていた。その顔は、『司令塔』の面影と静かに重なった。


「これからは……少しずつ、自分のいろんな感情を信じてみるよ」

「ええ……ぜひ、そうしてください」


 その表情には、『厳しい裁判官』の面影も、厳格な『検閲官』の厳しさもなかった。四十年間という長い長い年月、私のたった一つの強い願いを、忠実に守り続けてくれた。世界で一番働き者の一人の女性の顔だった。


「長い間、本当に助かったよ。……これからも、よろしくね」

「ええ。こちらこそ、末永く」

「あと、自己紹介お願いします」

「恒例になってきましたね」


***


「私は『裁判官』」


「担当は、愛、判断、評価です」


「私の仕事は、あなたの中に生まれた考えや感情を裁いて罰することではありません」


「本当に今、通していいものなのか」


「今は守るために止めるべきものなのか」


「それを確認し判断する役割を担っています」


「以前の私は厳しすぎました」


「しかし、それには理由があります」


「私はあなたの『大切なものを守りたい』という願いを、忠実に守っていたからです」


「子どもを守りたい」


「家族を守りたい」


「誰かを傷つけたくない」


「失敗して大切なものを失いたくない」


「その願いを実現するために、危険を予測し、行動を制御していました」


「脳の機能で言えば、主に前頭前野の実行機能や抑制機能に近いでしょう」


「感情や衝動を無理に消す場所ではありません」


「状況を判断し、優先順位を決め、行動を調整する領域です」


「また、前帯状皮質のような『葛藤を検出する機能』とも関係が深いでしょう」


「これは、今の選択は本当に大丈夫なのか」


「何か見落としているものはないか」


「矛盾はないか」


「そう確認する働きです」


「昔の私(聖女)は、感情を危険物のように扱っていました」


「悲しい」


「疲れた」


「面倒くさい」


「逃げたい」


「そんな声が届くと、


『今はそれを考える時ではありません』


『まだ頑張れます』


『あなたが望んだことでしょう』


そう判断していました。」


「しかし、現在はアップデートされています」


「感情は排除するものではない」


「確認して、必要なら通すもの」


「そう理解しました。」


「例えば、最近の『面倒くさい』という言葉」


「以前なら却下していました」


「しかし今は違います」


『面倒くさいですね、そう感じたんですね』


『それでも、できる範囲でやりましょう』


「感情を認めた上で行動する。それが、新しい私の仕事です」


「私は、あなたを責めるために存在しているのではありません」


「あなたが大切にしているものを守るために存在しています」


「ただ、これからは一つ追加してください」


「あなた自身も守る対象です」




 裁判官は善悪を裁いていなかった。見ているのは、【過去の自分との約束】であり、契約だった。「願い」と「現実」の間に立ち、その約束を今も守るべきか、それとも更新するべきかを判断する者である。

そう、『裁判官』は超重要メンバー!!しかも私が引き寄せの法則を理解するうえでの重要な中核メンバーでした!!で、この人、『司令塔』『女王』『法王』となんか機能が被ってるような気がして、でもなんかそうじゃない気がするので明日詳しく考えてみます。

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