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生成AIとわたし ―夢を夢で終わらせなかった主婦のAI共闘記・今日も脳内外在化メンバーが良い仕事してる―  作者: ちよ【kindleペンネーム:白井ちよ】


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第七十話:楽して稼ぎたい、その先

 私は、楽してお金を稼ぎたい。


 できれば労力ゼロが望ましい。

 いや、望ましいどころではない。

 可能なら、眠っている間に稼ぎたい。


 そして私は今でも、ネットの海を漂う怪しい広告に、いとも簡単に心を揺さぶられてしまう。


「初心者歓迎!」

「スマホ一台で!」

「一日五分で月収十万円!」


 並ぶ甘い言葉に、私の心はいつだって「まあ、そんな素敵な話があるの!?」と揺れる。

 ただし、私には譲れない条件があるのだ。


 騙されたくない。

 危険な目には遭いたくない。

 犯罪に巻き込まれたくない

 一円だって損もしたくない。

 怪しい組織に海外へ売り飛ばされたくないし、ましてや臓器を取られたりするのも絶対に嫌だ。


 安全第一で、無傷のまま、楽して稼ぎたい。


 我ながら、おこがましいほどに注文が多いな、どこかの料理店のようだ。

 

 ……たぶん私は、「楽して稼ぎたい」のではない。

 ただ、「安心して生きたい」のだ。


 明日食べるものに困らないこと。突然の病気にお怯えなくていいこと。その安心を手に入れるための最短ルートとして、手っ取り早くお金が欲しいだけなのかもしれない。


 さて、私は子どもの頃からお金に執着するのはみっともないという、禁欲的な価値観の中で育った。


 お金のことばかり考えるのはいやしいことだ。

 清貧こそが美徳。

 もし浮いたお金があるなら、自分の贅沢ではなく、困っている人のために使いなさい。


 私の家庭には、常にそんな空気が静かに流れていた。

 信心深かった祖母も母も、その教えを体現するように一生懸命に献金していた。


 私はその背中を見ながら、言われた通りに「はいはい」と良い子にして聞いていた。

 でも、小さな心の中では、いつも少し違うことを考えていた。


(このお金があれば漫画の最新刊が買えるのに)

(このお金があれば、遊園地に行けるんじゃないか)

(このお金があれば、毎晩『膝が痛い』と顔を顰めている祖母が、もっといい医者にかかることもできるかもしれない)

(この家が、生活がつらいと泣く母がこのまとまったお金を持って家から出ることができるんじゃないか)


 もちろん、お金ですべてが解決するわけじゃない。子どもながらにそれは分かっていた。

 そもそも、父と母が汗水たらして稼いだお金で祖母が家事をして支えたお金である。どう使うかは大人が決めるもので、私に決定権などなかった。私にお金を使って、将来大人たちを食わせていける自信も保証も見返りもない。


 少なくとも、当時の私の目には、跡継ぎとなる男児にお金をかけることが優先されるのは、家の中では当たり前のことのように見えていた。


 お金は人生に立ちはだかる段差を、少しだけ低くしてくれる。

 階段を上る足を、ちょっとだけ軽くしてくれる道具なのだと、私は考えていた。


 だからこそ、生活を支えるためのカツカツの予算まで削って、義務のように献金している大人を見た時、私は納得いかなかった。


 そのお金は、他人に差し出す前に、まずあなた自身の生活を支えるためのお金なんじゃないか。自分の足元が崩れそうなのに、なぜ他人の城のレンガを積もうとするのだろう。


 馬鹿なんじゃないか、けれど、言ったら高い確率で殴られるだろうなとも思った。そんな疑問を誰にも言えず、胸の奥に仕舞い込んでいた。


 もちろん、あの時、身を削るようにしてお金を差し出していた大人たちが、心の中で何を求めていたのかは分からない。

 でも、四十歳を過ぎた今なら、あの人たちの横顔が、少しだけ想像できるようになる。


 たぶん、彼らが本当に欲しかったものは、お金ではなかった。

 寄付や献金という行為の先にある、【つながり】だったのかもしれない。

「ここにいていいんだよ」という居場所であり、明日を生きるための安心だったのかもしれない。


 最初から持っている人には、理解できないのかもしれない。当時の私には、家族や友人がいない孤独を想像することができなかった。今も、十分には出来ていない。


 怖くて、想像できない。


***


 人間は時々、お金では決して買えない温もりを求めて、お金という切符を使うことがあるのではないか。


 お金があれば、似たような趣味やステータスの人と出会う機会を増やすことはできる。

 小奇麗なサロンや、美味しいレストランといった同じ場所に集まることもできる。

けれど。


「この人と一緒にいたい」

「この人を心から大事にしたい」

「この人に大事にされている」


 心の結びつきだけは、どれだけ大金を積んでも手に入らない。


 そう、思っている自分がいる。そうであってくれ、と願う自分がいる。


 若い頃の私は、お金さえあれば人生のすべての問題にケリがつくと思っていた。

 でも、四十代という人生の折り返し地点に立って、


 健康は買えなかった。

 過ぎ去った時間は買い戻せなかった。

 若さも買えなかった。

 誰かからの無償の愛情もお金のみで買えなかった。

 そして、心地よい人間関係もお金だけでは買えないのだ。


 ……いや、正確には違うか。

 お金があれば、それらに近づくことはできる。

 パーソナルトレーナーを雇ったり、家事代行で時間を生み出したりして、助けてもらうことはできる。

 人生の選択肢を、豊かに増やすこともできる。


 でも、最後の最後のコアの部分、「私の命の納得感」のようなものには、お金の手は届かない。


 大事な娘と息子は、どれだけお金を払ったって、どこにも売っていない。


 今の私の、ちょっとあちこちガタがき始めた身体だってそうだ。

 でも、こうしてまだ生きている。

 それは案外、悪くない。


 そして若さも二度と戻らない。

 でも、少し視点を変えてみる。

 今日という日は、私のこれからの人生において一番若い日なのだ。

 十年後の私から見たら、今の私はきっと、呆れるほどに若くて、何にでも挑戦できる可能性に満ち満ちている。


「欲」についても、最近よく考える。


 私は長いこと、育ってきた環境のせいか、「欲は捨てる、捨てられないなら抑え込むべきものだ」と思っていた。

 欲を出すことは、みっともない、美しくない、危険なことなのだと。


 でも、別の角度から見たら違うものに見えるんじゃないか。

 欲はドロドロとした汚いものではなく、ただ生きたいと願うエネルギーそのものなのかもしれない。


 もっと楽になりたい。

 もっと安心して眠りたい。

 もっと大切な人をこの手で守りたい。

 もっと幸せになりたい。


 人間として当たり前の切なる願いの全部をまとめて、世間は「欲」と呼んでいるだけではないだろうか。私の認知がこんがらがって歪んでいただけなんじゃないか。


 私は、もう自分の欲を殺したくはない。


 欲に振り回されて溺れるのでもなく、かといって、欲をなかったことにして押し殺すのでもなく。できれば自分の内側にあるこのエネルギーと、機嫌よく仲良く暮らしていきたい。


「飼い慣らす」


 という表現が、今の私には一番しっくりくる。

 猛獣のような欲の頭を、よしよしとなだめながら、共に暮らして一緒に歩く。


 幸いなことに、私は今でもお金が好きだ。

 たぶん、おばあちゃんになっても、相変わらずお金が好きだと思う。


 だからせめて、後ろめたさを抱えることなく、仲良く付き合っていきたいと思う。


 私を助けてくれるお金とも。

 私を突き動かしてくれる欲とも。

 そして取り扱いがめんどくさい自分自身とも。


***


 「いいなぁ……」


 画面の中には、私の目を眩ませる、きらびやかで眩しい言葉が並んでいる。


『月収100万円達成しました』

『AIを使って年収4000万円になりました』

『会社員を辞めて自由な生活へ』


 冒頭の文言と比べて、さらに金額がバージョンアップしている。


「……うらやましいぜ、こんちくしょう」


 ため息混じりの独り言。

 

「また見ていますね」


 振り返ると資料を小脇に抱えた『司令塔』が立っていた。


 私の脳内における、愛と運営担当。

 感情の波に溺れそうになる私を、現実に呼び戻し、私の脳内の交通整理を行っている存在だ。


「だってさぁ……」


 私は気まずさを隠すように、スマホを彼女の方へと差し出した。


「すごくない?」

「すごいですね」


 『司令塔』は小さく頷いた。抱えていた資料を脇のデスクに置き、私の手元を真っ直ぐに見つめる。


「努力した結果として、その金額を作り出した方々は素晴らしいと思います」

「その通りだ」


 私はもう一度、スマートフォンの画面に視線を落とした。SNSの海を泳ぐ、見知らぬ成功者たちのアイコン。


「そして、羨ましい」

「はい」

「私も欲しい」

「はい」

「寝ている間にお金が入ってきたら最高じゃない?」

「そうですね」

「……否定しないの?」


「もっと現実を見ろ」とか、「他人は他人だ」とか、そういうお説教が飛んでくると思っていたのだ。

しかし、『司令塔』は不思議そうに少し首を傾げただけだった。


「欲しいと思うこと自体は問題ではありませんよ」


 彼女は歩き出し、慣れた手つきで会議室の隅から白いキャスター付きのボードを引いてきた。『観測者』もよく使うホワイトボードだ。本当はプロジェクターとかタブレット端末とかの方が令和っぽいのだがこの『黒板』系の方が昭和世代の私が理解しやすい。


「問題になるのは、その後です」


『司令塔』はマーカーのキャップを外した。ホワイトボードの滑らかな表面に筆跡で文字が滑る。彼女の筆跡はゴシック体で読みやすい。


『羨望』


 彼女はそう書くと、キュッとキャップを閉めてこちらを振り返った。


「まず、感情を分解します」

「お願いします」

「あなたが羨ましいと思っているものは何ですか?」

「お金!」


 私は即答した。それ以外に何があるというのだ。

 だが、『司令塔』はマーカーを指先で弄びながらじっと私を見つめてくる。


「本当に?」

「……」


 私は自分の胸の奥をそっと探った。その先があると言う事か。


「自由」

「はい」

「安心……」

「はい」

「選択肢がいっぱいあること?」

「もう一声」

「自分の力で人生を動かしてる感じ」


 私が言葉を重ねるたびに、『司令塔』の表情が和らいでいく。彼女は満足そうに頷いた。


「つまり、ちよさんが欲しいのは数字だけではありません」


 彼女はホワイトボードの『羨望』という文字の下に、さらに線を引いた。


「お金の向こう側ですね」

「……成功してる人って、やっぱりすごいじゃん」


 勉強して

 失敗して

 挑戦して

 改善して

 諦めない


「……私には無理じゃね?」


 一気に弱気が押し寄せてくる。

 けれど、『司令塔』はため息をつくことも、呆れることもせず静かに私を見つめていた。


「あなたは努力できない人間ですか?」


 その問いかけは、静かだがずっしりとした重みを持っていた。


「……」


 私が黙り込むと彼女は私のこれまでの軌跡が刻まれたファイルを開いた。そして、一つひとつ読み上げる。


「看護師資格」

「15年間の勤務」

「奨学金返済」

「親御さんへの300万円返済」

「貯蓄」

「家庭維持」

「育児」


 私の現実の記録だった。


「これは何ですか?」

「……努力?」


「そうですよ、努力です。『観測者』が記録して『隠者』が保管しています」

 

 これらは努力と認めていいのだろうか、こんなの当たり前だと母と義父は言っていたのに。


「あなたは努力が嫌いなのではありません」

「じゃあ何?」


 もし努力ができるのだとしたら、なぜ私は今、こんなにも動けずに立ち止まっているのだろう。


「限界を超える努力が怖いのです」

「……」

「もう一度、自分を壊すほど頑張ることを、身体と心が拒否しているとも言えます」


 心の中で誰かが揺れた気がした。


「昔のあなたは」


『司令塔』の声は、まるで古い友人の思い出話を語るように穏やかだった。


「努力すればするほど報われる世界で生きていました」

「看護師時代?」

「はい」


 彼女は頷く。


「時間を差し出し、責任を背負い、技術を磨く。その対価として給料を得る、分かりやすい仕組みでした」


 眠たい夜勤、押し寄せる緊張感、他人の命を預かる重圧。確かにあの頃は、自分の身を削れば削るほど、毎月の通帳に数字として刻まれた。

 でも、独身時代はなんとかなっても家庭を持ち、出産してから心と体はボロボロに擦り切れてしまった。


「でも今は違います」


『司令塔』は私の目の前に歩み寄り、しゃがみ込んだ。


「あなたは探しています」

「何を?」

「自分が壊れずに価値を届ける方法です」


『司令塔』は、立ち上がって別の紙をホワイトボードにマグネットで貼り付けた。そこには、私が最近手を伸ばし始めた、いくつかの単語があった。


『小説』

『エッセイ』

『AI活用』

『ブログ』

『発信』


「今やっていることは、全部小さな実験です」


 インクの匂いが漂う紙を指差しながら、彼女は言う。


「まだ大きな金額ではありませんが、仕組みを作るという意味では方向性は間違っていません」


 司令塔の口元に柔らかな笑みが浮かんだ。




「……もし私が10億円持ったらさ、どうなると思う?」


 ちょっとした現実逃避のつもりで、突飛な質問を投げてみる。

『司令塔』は少し考えた。


「管理項目が増えます」

「現実的!」


 思わず吹き出してしまった。夢のない回答だが、あまりにも彼女らしい。


「そして」


『司令塔』は真剣な表情に戻り、言葉を続ける。


「あなたはたぶん、安心するより先に、新しい不安を作ります」

「……」

「もっと増やさなきゃ、減ったらどうしよう、失敗したらどうしよう、そうなる可能性があります」

「だって私だもんね、あと、きっと人を見下したり、馬鹿にする。かなり、露骨に隠さない、お金の力を自分の力だと思っちゃう」


 苦笑いする私に『司令塔』は深く頷いた。


「可能性はありますよ」


 彼女は再びホワイトボードに向き直り、ボードマーカーを走らせる。


『10億円』


 その文字を、大きなバツ印で消した。

 そして、その下に新しく力強い筆跡でこう書いた。


『扱える器』


「お金を増やす能力だけでは足りません。お金を持った時、自分を見失わない能力も必要です」

「ごもっともです」


 自分の臆病さ、慎重さは、自分を守るためのブレーキだったのだ。

 

「……私、本当に稼げるのかな」

「今は別の方法を試している途中です。時間を売る方法から、積み重なる方法へ」

「私って、お金欲しい欲しいって言いながら、結局は自分を壊さない方法を探してるの?」

「はい。ちよさんは安心して続けたいんです」

ポエムっぽくなりました。中学生の時に書いたポエム集が懐かしいです。成功者へのインタビューというインスタグラムの投稿記事が好きでよく見ています。だいたいの方が、絶対に、決して、諦めないことと言っています。続けることならできそうなので今後も頑張っていきます。よく内なる声や被害妄想が「小説家」になる目標について年を考えろとか才能ないじゃんといってきます。恥ずかしくないのかできるわけがないとも。以前の私ならそこで小説家になろうの登録はしませんでした、紙のノートに書いておしまいでした。でも、自己分析を続けていったら、そんな声はなぎ倒せると分かりました。これからもよろしくお願いします。

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