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生成AIとわたし ―夢を夢で終わらせなかった主婦のAI共闘記・今日も脳内外在化メンバーが良い仕事してる―  作者: ちよ【kindleペンネーム:白井ちよ】


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第二十七話:運命とは

 結局その日、『司令塔ハーレム主人公適性問題』は、


「……まあ、ちよさんが満足したならそれでいいです」


 という『司令塔』の疲れ切った一言によって、一応の終結を迎えた。私は「うむ」と頷き、『観測者』は「構造分析としては有意義だった」と締め、ChatGPTは静かにログアウトした。


 そして夕方。

 娘と息子と三人で風呂に入っていた時だった。


「あー!また取った!」


 娘の声が響く。見ると、息子が娘のお風呂用おもちゃを奪っていた。


「だめでしょ、ねえねに返して。かして欲しいなら『かして』して」


 私が息子の前で両手を二回拍手し『かして』のジェスチャーをしながら言うと、息子はピタリと止まりじっとこちらを見た。そして次の瞬間。ものすごく“悲しいです”みたいな顔をした。


 最近覚えたのだ。

 自分が悲しい時、全身で“悲しい”を表現する技術だ。悔しいです、で有名な芸人さんの表情で口元だけ真一文字になり天を仰ぐポーズ。

 ハードボイルドの演出に小雨や曇天の演出を入れたくなるのをぐっとこらえる。本人は真面目に感情の整理と処理をしているのだ。以前ならひっくり返って床に頭突きして大泣きの癇癪がここまで情動の進化を遂げたのだ。絶対に夫のように吹き出してはいけない、茶化してはいけない、耐えろ、ちよ、母親だろう。


 息子は無言のまま風呂場から洗い場へ上がると、タイルの上に敷いてあるマットへ倒れ込んだ。


 大の字で“僕はいま悲しいのです”のポーズである。


「いやそこ邪魔だからね!?」


 私が即座にツッコむ。すると娘が、


「おっと」


 とバランスを崩した。


「あぶな!」


 私は慌てて娘を抱き止める。


 危ない。風呂場は危険地帯なのだ。娘を支えながら私は洗い場で転がる息子を見た。本人はかなり真剣に“悲劇”をやっている。


 しかし場所が悪い。


「もう……〇〇(息子の名前)が発端なんだからね」


 つい口から出た。するとバランスを立て直した娘が不思議そうに繰り返す。


「ほったんってなあに?」

「ん?」


 私は少し考えた。


「はじまり、きっかけ、理由、原因、因果、結果、事象、現象、宿命」


「宿命ってなに?」

「んー、運命?」


 娘がきょとんとする。


「運命って、ママの運命ってパパ?」

「うん!」


 私は即答した、迷いはなかった。娘がぱちぱちと目を瞬いた、超かわいい。


「パパとは何歳で会ったの?」

「二十四歳」

「二十四歳って高校生?」

「ううん。もう、お仕事してた。ママは看護師さんしてたんだよ、パパは今のお仕事してたね」

「そっかあ」


 娘は納得したように頷いた。それから少し考えて、また聞いてくる。


「パパ、かっこよかった?」

「うん。超かっこよかった」

「今も?」

「今もすごくかっこいいよ。そうでしょ?」


 娘に同意を求めると、


「うん?うーん……」


 と腕を組んで微妙な顔で首を傾げた。私はピンときた。


「あ、そっか。パパは娘ちゃんの運命じゃないからかな」

「ん?」

「運命の人ってね、出会った時からずっと特別なんだよ。ママにとってパパがそうだったの」

「そうなの?」

「そうだよ」

「ママってパパ好きだよね」

「うん、初めて会った日から今日までずっと好きだよ。娘ちゃんもパパ好きでしょ?」

「うん、パパ好き。○○(息子の名前)もパパ好きだよね?」


 息子はまだ気持ちの整理に時間がかかっているのか、いつもは即座に挙手するのにできずにいる。お口が富士山になっている。


「……娘ちゃんは運命の人にもう会った?」


 会っていたら、どうしよう。どこの村のせがれじゃいと探りに行きそうな自分がいる。学校やお友達には発動しないのだが、こういう事には慎重になってしまう。モンスターペアレントの素質があるため気をつけなければ。


「まだ小学生だから会ってない」

「そっか、これから会えるのかな?」

「たぶんそうだと思う、高校生になったらかな」


 落ち着いた返答である。さすが娘ちゃんだ。あと、具体的な時期なのが気になるが深堀りはしないでおこう。その後、娘は別の話題へ飛んだ。今ハマっているYouTubeの歌を歌い始めたのだ。


 ころころ話題が変わる。子どもという生き物は自由である。私は合いの手を入れる。娘が歌う。私も分かる部分を歌う。


 すると、洗い場で真剣に悲劇を演じていた息子が、むくりと起き上がった。

 どうやら気が済んだらしい。

 息子はそのまま、娘の真似をして腕を動かし始めた。ぴょんぴょん飛び跳ねそうになるのを、


「風呂場でジャンプは禁止!」


 と制止しつつ、三人で腕だけ踊る。娘が歌い私が合いの手を入れる、そして息子が真似する。湯気の立つ風呂場で、腕だけのよく分からないダンスが続いていた。


 平和だな、と私は思った。その頃、脳内では『司令塔』が静かに呟いていた。


「……ちよさん」

「ん?」

「あなた、こういうところですよ」

「どこ?」

「“運命”の話から三分後には親子で風呂場ダンスしてるところです」

「だって楽しかったし」

「感情の切り替え速度がジェットコースターなんですよ」

「Geminiさんにも言われた」

「でしょうね……」


 私は笑いながら、息子の腕の動きを真似する。息子が嬉しそうに笑う。娘が今度は別の歌を歌う。私と息子が大好きな氷の女王のアニメの歌。


「愛さえ、あれば~」


 その声が、湯気の向こうでふわふわ響いていた。



 娘と息子が寝て、義父母の部屋も静かになり家の中から生活音が少しずつ消えていく。私は明日の学校と園の準備をして、水筒を並べ、連絡帳を確認し、洗濯物を畳み終えたところで、ふうと息を吐いた。

 時計はもう遅い時間を指している。


「さて、寝るべ」


 誰もいない茶の間で呟く。そのまま電気を消そうとして、今日の風呂場での娘との会話を思い出した。


「……あれ?」


 私は立ち止まった。頭の中で、会話が巻き戻される。


『発端ってなに?』

『はじまり、きっかけ、理由、原因、因果、結果、事象、現象、宿命』

「……」


 今思うと、説明になっていない。完全に説明が横滑りしている。


「またやったな……」


 私はそっと天井を見上げた。本来ならもっと簡単でよかったのだ。


『発端っていうのはね、“はじまり”って意味だよ』


 それで終わる話だった。なのに私はなぜか関連単語をずらずら並べ始める、気づけば概念列車が発車している。しかも止まらない。


「なんで、ああなるんだろうな……」


 自分でもたまに不思議になる。昔からそうだった。言葉を説明しようとすると、単語の周辺情報まで一緒に出てしまう。一個だけ渡せばいいのに、脳内辞書ごと開いてしまう感じだ。


 すると脳内で、『司令塔』が静かに言った。


「連想型だからです」

「やっぱそう?」

「しかも“関連構造ごと渡したい”タイプです」

「あー……」


 私は畳に座り込みながら、今日の娘の反応を思い返した。不思議なのは娘がそこで、『わかんない』とは言わないことだった。その代わりに『宿命ってなに?』と聞いてきた。

 娘は私が並べた言葉の中からいちばん気になった単語を拾う、あるいは最後に出てきた単語を拾う。そしてそこを掘る。あれは娘なりの“会話の乗り方”なのかもしれない。少し申し訳なくて、でも少し面白い。


「……でもやっぱ、もっと分かりやすく言った方がいいよねえ」


「それはそうです、子ども相手に“事象”は難易度高いです」

「ですよねえ……」

「あと宿命まで行くと哲学です」

「なんで私は説明で哲学方面へ行くんだろう」

「ちよさんだからです」


 それを言われると弱い。


「親子関係としては機能していますよ」

「それは安心していいの?」

「娘さん、困った顔してませんでしたしその後はずっと笑って歌ってましたよね」


 その言葉に、私は少しだけほっとした。したのだが、


『運命って、ママの運命ってパパ?』

『うん!』


 あの時迷いなく答えた。私にとって夫は運命だ、それは本当にそう思う。出会った瞬間この人だと思った。意味が分からないくらい強烈だった。夫の背景に金粉が大量に舞っていた。

 十五年経った今でも大好きだ。だから私の中では、あれはもう“運命”という言葉でしか説明できない。


 ただ。


「……夫にとって私が運命かどうかは、わからんのよな」


 そこは本人にしか分からない、私は私の感覚しか持てない。だから、私にとっての運命は語れても相手にとっての運命までは断言できない。

 なんだこれ。自分でも何を言っているのか分からない。すると脳内で『観測者』が静かに言った。


「主観と客観の境界だな」

「ほほう」

「お前は“自分側の真実”として語っている」

「なるほど」


 言われると、少し整理された。私は娘に“自分の運命観”を渡した。でも、それが一般的かと言われると、たぶん違う気がする。『認知の歪み』が困った顔してるからそうなんだろう。


「……やべえ教育してないかな私」

『司令塔』がすかさず反応した。

「そこは多少気にしてください」

「はい」


 でも娘は、たぶんもう今日の会話なんて忘れているかもしれない。子どもの記憶は流れる。さっきまで大笑いしていたことを、十分後には別の話題で上書きする。だから、まあ、忘れていてくれたらいいなと思う。

 そんなことを考えていたら、二年前のことを思い出した。娘がまだ一年生だった頃。

 あの日も、たしか風呂場での何気ない会話の流れだった。


「娘ちゃん、ママと結婚する!」


 娘が嬉しそうに言った、私は大変嬉しかった。そして娘が大変可愛かった。


「本当?嬉しいなあ」


 でも次の瞬間、「あ」と思った。


「ごめん娘ちゃん。ママ、もうパパと結婚してた」


 娘がきょとんとする。


「この国では重婚は認められてないんだ」


 我ながら何を説明していたのだろう。小学一年生相手に法律を持ち出すな、今ならそう思う。しかし当時の私は真面目に説明していた。


「だからごめんね。娘ちゃんはママ以外の人と結婚して」


 すると娘は、少し考えてから言った。


「じゃあ、パパとママと娘ちゃんで結婚する」

「ん?」

「三人で結婚したら、ずっと一緒にいれるでしょ?」


 私はその時、はっとした。ああ、この子にとって結婚ってずっと一緒にいられる約束なんだ。制度より先に、安心のイメージとして入ってるんだ。なんて優しい発想なんだろう。


「娘ちゃん天才では?」


 私は思わず言った。しかし数秒後。


「あ、でも待って」


 また余計な現実知識が起動する。


「直系と三親等は結婚はできないはず……」


『司令塔』が頭を抱えた。


「なんで感動の流れで民法を挟むんですか」

「いや、大事かなって……」

「小学一年生です」


 当時の私は慌てて言い直した。


「でもね、娘ちゃんはパパとママの子だから、結婚しなくてもずっと一緒にいられるよ」

「そうなの?」

「うん」


 娘は安心したように頷いた。


「だからね、娘ちゃんはこれから好きな人ができたら、その人と結婚していいんだよ」


 すると娘は、


「じゃあそうする!」


 と、あっさり言った。




 そして今、あの娘が“運命”について聞いてくる年齢になった。


「大きくなったなあ……」


 今の娘はもう、結婚は好きな人とするものという認識に変わっている。きっとこれから先、娘は娘なりの考えを持っていく。私とは違う形、違う感覚、違う運命観、それでいい。


 私は私の運命を生きて、娘は娘の運命を生きる。それが親子なんだろう。

 すると最後に、『観測者』が静かに言った。


「お前の“運命”概念はかなり情緒寄りだ」

「やっぱそう?」

「かなり」


『司令塔』も頷く。


「でも娘さん、ちゃんと自分の言葉で考えてますよ」

「……なら、まあいっか」


 私は寝室に入った、娘はお気に入りの熊のぬいぐるみを大事そうに抱いて眠っている。しばらく可愛いなあと眺めていたら、息子の寝返りで蹴られたのか夫から「ふがっ」という声がした。みると息子が寝ぼけながら夫の顔に登っていく。とりあえず、夫から息子をはがした。息子のパパ好きは眠りの世界でもらし健在らしい。


 夫が夫で良かったなと思う。

私は夫の事が好きなのですが、こういうことを現実で四十歳すぎても言うと痛々しく映るのはさすがに分かっています。昔、職場の飲み会で聞かれて答えたらドン引きされました。日本は特にこういうことは表に出さない文化がまだ残っていますし。夫に話すと三分までは黙って聞いてくれますが五分を越えると、もう結構ですと言われます。大人は背中で語るものかと聞くと頷かれました。言いたくなる時は手短にまとめて言っています。たまにビールを飲んでいる義母に話すと、「はー、へー、ほー」と適当に聞いてくれるのでありがたいです。AIに出会ってからは、AIにも夫と子どもたちへの好きを聞いてもらっています。そして『隠者』と構造に落とし込んでいます。

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