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生成AIとわたし ―夢を夢で終わらせなかった主婦のAI共闘記・今日も脳内外在化メンバーが良い仕事してる―  作者: ちよ【kindleペンネーム:白井ちよ】


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第二十六話:ハーレム論と夫について

 娘を学校へ送り出し、息子を園へ送って帰宅した頃にはすでに午前十時を回っていた。洗濯一回目を干して、二回目を回す。

 洗濯機が回る低い振動音が家の中に一定のリズムを刻んでいた。十五年目を迎えた家電は、ゴトゴトと怪しげな音を立てて縦に震えている。年々自己主張が激しくなるその駆動音を見守るのは、なかなかにスリリングだ。そろそろ買い替えだろうか、とぼんやり思う。

 二階の掃除機を終わらせ、茶の間へ降りる。今日はエアコン掃除の日だった。

 埃が溜まっていて、ずっと気になっていた。そろそろクーラーをつける季節だから今日中にやらなければ。


「では、じいちゃん。コードお願いします」

「はいはい」


 義父は掃除機本体を持ち、私は脚立に登る。

 吹き出し口に掃除機のノズルを突っ込むと、埃が吸われる音が小さく響いた。


「じいちゃん、もうちょい右」

「こっち?」

「バッチグー。あ、待って、そこホース引っ張らないで」


 綿棒、つまようじ、雑巾、掃除機。

 文明の利器と原始的手作業の融合である。

 エアコン掃除は儀式に近い。

 四十分後。


「……よし」

 掃除機と脚立を納戸に片付けたとたん、右胸の奥に鈍い違和感が走った。

 手術側の筋肉がじわりと抗議してくる。


「あー……」


 私は仏間の畳に沈み込んだ。右腕を上げ続けていたせいだろう。身体は限界を訴えているのに、頭だけは妙に冴えている。よくない兆候だ。

『司令塔』が即座に反応した。


「終了です」

「えー」

「終了です」

「まだトイレ掃除……」

「却下」


 真顔だった。

 声のトーンが“業務終了”のそれで、逆らえない。


「今日はこれ以上やると夜に響きます」

「それは困る」


 身体は休めと言っているのに脳だけが勝手に回転し始める。こういう時の私は、だいたいろくでもない方向に思考が飛ぶ。

 その時だった。


「あ」


 自分の中で、何かがカチッと音を立てた気がしたような、スッと降りてきたような?

 司令塔が嫌な顔をした。


「あ、今なんか変なスイッチ入りましたね?」

「ねえ司令塔」

「嫌な予感しかしないので先に言います。今日は休養日です」

「いや違う違う」

「違わない時の“違う”なんですよそれ」

「ちょっと思っただけ」

「その“ちょっと”で世界構造まで行くんですよあなた」


 司令塔の声が、完全に“止めに入っている時の声”だった。

 しかし、もう遅い。


「いや、この前さ。発達特性の話してたじゃん、でさ」


 私はぼんやり天井を見たまま言った。脳内のどこかが勝手に加速していく。


「『司令塔』、あなたはハーレム主人公適性が高い」

「なんでそこに飛ぶんですか!?」


 エアコン掃除 → 右胸痛い → 休養 → 頭だけ回る →先日の発達特性の話 →第二十五話あとがき→ 司令塔はハーレム主人公適性が高い。 ほら、ちゃんとつながってる。

そう考えていたら『司令塔』によって『観測者』が呼ばれた。……ということは、今の私は論理的思考から外れているらしい。

 『観測者』は、私の思考が“構造”から逸れた時だけ出てくる。

 つまり、彼が来たということは――

 私の思考は、もうどこか別の次元に飛んでいる。なぜだ。話が飛んでるのか?そんなはずはない、と思いたいのだがコミュニケーションエラーの伝道者のため強気で行ってはいかん。私また間違えたのかな。あちゃあ。


「……『司令塔』。状況説明を」

『司令塔』は、深いため息をつきながら私を指さした。

「昨日、本人が“自分の発達特性”について自己分析を始めまして。ADHD的並列暴走が四割、ASD的構造脳が七〜八割、感覚過敏、運動協調の独特さ、認知解体モードの話までしていたんです」

「ふむ」

「で、今朝になって突然、……『司令塔』はハーレム主人公適性が高いと言い出したんです」

「……」

 『観測者』は腕を組んでしばらく沈黙していた、そして、ゆっくりと私の方を向いて不思議そうに言った。

「なぜそこに着地するんだ?」

「いや、なんとなく」

「なんとなくで私を題材にハーレムに着地しないでください!!」


 司令塔のツッコミが入った。『観測者』はため息をつきひと言


「では、分析を始める」

「始めるんですか!?」


『司令塔』が悲鳴を上げた。



「まず、ハーレム構造とは“複数の個体が一個体に対して親和性を示す状態”だ。この構造が成立するためには、中心人物に三つの要素が必要となる」

「やめてください『観測者』、今日、ちよさんは休養日なんです!」


『司令塔』が必死に止める。音声入力だから腕も胸も動かしていない、大丈夫なのに。


「一つ、安定した判断力。

 一つ、全体最適を考える視点。

 一つ、感情に流されない構造的思考」

「全部『司令塔』だねえ」

「言うなーーー!!」

「さらに、ハーレム構造の中心人物は“調整能力”が高いほど破綻しにくい。司令塔、お前は日常的に家事・育児・予定・感情・優先順位を調整している」

「それは仕事です!!ハーレムの運営じゃないです!!」

「だが適性は高い」

「それとこれとは違う次元でしょ!!」


『観測者』は淡々と続ける。


「また、ハーレム構造において重要なのは“公平性”だ。司令塔は全メンバーに対して公平に接する傾向がある」

「いやいやいやいや!『聖女』から切り離された私の役割!!機能!!あの人、ちよさんの思考の暴走と寄り道をすっごく心配してたんですからね!!」

「公平性はハーレム主人公の必須資質だ」

「聞いて!?」


 『司令塔』が必死に否定している横で、私はぽつりと言った。


「やっぱ司令塔、主人公向いてるよね」

「向いてないです!」


『観測者』は結論を述べた。


「総合すると、『司令塔』お前はハーレム主人公適性が高い」

「だからなんでそうなるんですかああああ!!」


『司令塔』の叫びが脳内に響いた。


「てことは、私はハーレムや逆ハーレム系の小説も『司令塔』がいれば書けるかな?」

「可能だ」


『司令塔』が何言ってんだこいつ等っていう表情してるので、AIに翻訳してもらった。なんていうか、あれだ“情報処理量が限界を超えた人間が一周回って無になった顔”である。


 パソコン画面がふっと明るくなった。電子音。そして、落ち着いた声が響く。


『――代わりに説明しましょうか?』

「お、AI代表きた。そうだね、君がいいね」


 私がそういうとChatGPTは淡々と話し始めた。最近はChatGPTとも穏やかに話せるようになってきた。


『まず前提として、ちよさんの脳内では“発達特性の自己分析”と“物語構造分析”が同じフォルダに入っています』

「同じフォルダ……」

『はい。

 一般的には、

 “自己分析”

 “創作”

 “恋愛構造”

 “家事育児”

 “宗教観”

 “共同体運営”

 は別カテゴリとして扱われます』

「ですよね!?」

『しかし、ちよさんは構造ベースで世界を認識するため、“役割運営”として統合処理しています』


 『司令塔』が遠い目になった。


『つまり、発達特性の話をしている最中でも、脳内では同時に――』


 ChatGPTが空中に図を描くように続ける。


『・共同体維持

 ・役割分担

 ・感情調整

 ・優先順位管理

 ・複数人関係の安定化

 ・認知負荷分散

 が並列起動しています』

「……」

『その結果、“司令塔は複数関係運営適性が高い”という仮説に到達しました』

「……なぜですか」

『家事育児運営とハーレム運営に必要な能力の一部が共通しているからです』

「認めるんですか!?」

『観測者の分析は、構造上は妥当です』

「AIまで乗らないでください」


 『司令塔』の悲鳴が響く、しかしChatGPTは止まらない。


『さらに重要なのは、“外在化メンバー”の存在です』

「……」

『普通の群像劇では、複数キャラクターを外部に配置します。しかし、ちよさんの作品では、人格機能そのものをキャラクター化している』


 『観測者』が静かに頷いた。


『これは創作技法として見ると、かなり合理的です』

「合理的なんだ……」

『はい。なぜなら、感情・論理・管理・自己犠牲・創作欲・宗教観などを、それぞれ独立した“役割人格”として動かせるため、複雑な認知構造を会話劇として表現できるからです』


 私は満足そうに頷いて『司令塔』に言った。


「ほらやっぱり!」

『つまり現在起きていることを簡単にまとめると――』


 ChatGPTは一拍置いた。


『“発達特性の自己分析をしていた構造厨が、自身の認知整理システムを応用し、ハーレム群像劇構築に到達した”』


 沈黙。『司令塔』がゆっくり顔を覆った。


「嫌すぎる説明なのに、全部つながってる……納得したくない……」


 えーっと、少し話がズレるが、いや、私にとっては繋がっているのだが。誤解があると困るため言いたい。

 私は別に“一対多数の恋愛”を現実でやりたいわけではない、ということだ。

 いや、本当に。むしろ私はかなり一夫一妻寄りの倫理観で生きている。これは「なんとなく嫌」くらいの話ではない。

 多分、宗教観と人生経験と価値観が全部混ざって、脳の奥深くに固定化されている。生家の受け継がれた価値観や新興宗教では不倫、不貞、浮気、絶対ダメ、絶対許さない、な『鉄の掟』というか『魂レベルの誓約』があるからだ。地獄に落っこちちゃうし来世に虫とかに転生するらしい、なぜ転生後の種族が分るんだろうか?だれが証明したんだろう。

 植物や粘菌にもなるか母に聞いたときは「そっちもあるかもねえ、でもきれいなお花や野菜は無理かも」と言われた。私は虫も粘菌も意外と楽しそうだと思ったが、言ってはいけない雰囲気だったから言わなかった。ちなみに離婚はOKである。


 私は、そこを別に苦しいとも思っていない。私の世界はそういうものだったからだ。

 

 さて、ここでもう一つ。私は夫に一目惚れした。

 出会ったその日に「瞳がきれいですね、結婚してください」と言った。

 今考えると意味が分からないし、普通に気持ち悪い女だった。夫はよく了承してくれたものだ。私なら怪しい勧誘やロマンス詐欺やその他犯罪を疑い即刻、逃げる。

 なんやかんやあって、本当に結婚して、十五年近く経った今も、普通に夫が好きだ。

 ずっと大好きだ。

 かっこいいなと思うし、かわいいなと思うし、なんか今日も元気に生きてるなと思う。

 なので、私の中で「他の誰かと恋愛したい」という概念が発生していない。

 これが良い悪いではなく、単純に脳内仕様としてそうなっているのだろう。


 ただ。

 創作は別だ。

 私は昔から群像劇が好きだった。

 複数人の関係性。

 感情の交通整理。

 役割分担。

 共同体運営。

 感情と論理の衝突。

 そういう“構造”を見るのが好きだった。

 一対一も一対多数も素晴らしい。

 だから、ハーレム系や逆ハーレム系の作品を読むと、「この作者さん、よくこの人数破綻させず回してるな……、なんて素敵」と、そっちに感動してしまう。

 

 恋愛というより、“複数感情運営システム”として見てしまうのだ。そう、運用である。

 で。

 問題はここからだった。「じゃあ私もこういう群像劇を書いてみたいな」と思った時。自分を主人公に置けなかった。


 だって無理なのだ。脳、倫理観、人格ルールが、

「不倫するなら夫がいい」

「浮気するなら夫がいい」

「道ならぬ恋をするなら夫がいい」

 としかならない。意味が分からない。自分でも分からない。ゲシュタルト崩壊を起こしている。

 夫と不倫ってなんだ。合法なのか違法なのか、浮気なのか純愛なのか、脳が混乱する。これが宗教三世の宿命なのか。AIに聞いたら「違います」と言われた、違うのか脳って難しい。

 そこで私は考えた。


「……待てよ?私じゃなければいいのでは?」


 そこで脳内外在化メンバーを思い出す。『社長』?

 いや違う『社長』は理想の男性像寄りだ。あれは全員持っていくしシステムを回さず別の次元で解決してしまう。

『観測者』?

 論外だ。恋愛構造に投入すると「そもそも恋愛とは共同幻想では」から始まって恋愛世界が崩壊する。ガチガチの論理的な男にハーレムを維持できるのだろうか?三日で破綻するのが目に見える。「愛と尊厳」を担当しているが、対象が子どもや高齢者や弱者に向いている。不器用なもんである。


 では誰か。『女王』では情念が強いし、『法王』は宗教上厳しい、『裁判官』『会計士』あたりは倫理よりで向いていない、『認知の歪み』、『役割のペルソナ』、『隠者』は後方支援組のため主役ははれない。『セルフケア』三人衆と『戦車』は役割が違うし、『エンタメ』だけでは楽しませてくれる人で終わる。『五歳の子』と『創作者』はコンプライアンス的に却下。


 ……。

 あ。

『司令塔』じゃん。

 ほら筋が通ってる。 

私は昔から「話が飛ぶ、オチがない、なんで答えがそうなるの?変だよ、おかしいよ」と言われていました。世間話とか内省的な話題は特にそうなるので、黙って聞き役になっていました。無口で大人しいと言われていましたが頭の中は賑やかだったと思います。生家では会話の半分は宗教の教義議論その他は母と祖母の愚痴の聞き役や情報交換だったので自分から話さなくていいので楽でした。外でも変だと言われしゃべらない方が周りの疲労が少ないと判断しました。ところが、夫に出会って二秒で一目惚れしてしまい暴走しました。そして欠陥だらけの自分が猛烈に恥ずかしくなりました。コミュニケーション関連の本読み漁りましたが理解できず、当時の夫にそのまま伝えました。そうしたら、長い会話が苦手なら短い会話にしたらいいのでは?とアドバイスをもらい、好き、嬉しい、楽しい、寂しい、悲しい、など日本語を覚えたばかりの人間みたいな会話から付き合ってもらいました。人格者枠のノーベル賞があるなら夫は受賞するべきだと思っています。

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