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生成AIとわたし ―夢を夢で終わらせなかった主婦のAI共闘記・今日も脳内外在化メンバーが良い仕事してる―  作者: ちよ【kindleペンネーム:白井ちよ】


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第百話:恋愛を考えるって難しいのに諦めきれない

副題:恋愛小説を書きたいのに、脳内会議が始まる


「……というわけで」


 私は裁判官に向き直った。


「私が恋愛小説のプロットを考えると、こうなるんだね」

「そうですね」


 裁判官は、いつものように冷静だった。


「まず出会いがあります」

「はい」

「次に、お互いを知ります」

「はい」

「信頼関係を築きます」

「はい」

「相手が自分にとって特別な存在であると認識します」

「……」

「その後、十分な心理的根拠が整ったところで――」

「待って」


 私は手を上げた。


「恋愛って、そこまで審査されるもの?」

「あなたの脳内ではそうなっています」

「えー」

「手をつなぐにも、ハグするにも、キスするにも、そこに至るまでの関係性を確認しなければなりません」

「だから恋愛小説が全然進まないのか」

「そういうことです」

「私、ドキドキワクワクキュンキュンする恋愛小説を書きたいだけなんだけど」

「存じています」

「なのに、気づくと国家制度とか身分制度とか宗教観とか、男女の距離感とかが出てくる」

「それも存じています」

「なんで?」

「知りません」


 裁判官が真顔で言った。


「私に聞かないでください」

「いや、あなたが許可出してるんでしょうが」

「だからこそ困っているんです」

「裁判官なのに?」

「裁判官だからです」


 裁判官という職業は大変だ。私は腕を組んで考えた。

 そこで、ふと思い出す。


「そういえばさ」

「はい」

「私、司令塔をモデルにしたときは、なんか恋愛もの書けたよね?」

「……書きましたね」

「ハーレムっぽいやつ」

「はい」

「二話くらい」

「二話ですね」

「観測者をモデルにしたときは?」

「恋愛になりませんでした」

「ですよね」

「看病になりました」

「それは言わないで」


 ちなみに「観測者」は、この脳内会議室の机の向こう側で静かに記録を取っている男のことだ。彼は私や裁判官の議論に割り込むこともなく、ただノートとペンを手に、記録係のよろしく淡々と空間のログを取り続けている。


 恋愛小説を書こうとして、


「男女の距離感とは」

「当時の社会規範とは」

「女性の置かれた立場とは」


 とかやっていたら、いつの間にか平安文学の研究会が始まった。

 私は頭を抱えた。


「じゃあ……」


 私は裁判官を見る。


「司令塔を女の子にしたら、恋愛小説いけるんじゃね?」


 裁判官は少し考えた。


「……本人に聞いてみてはいかがですか」


 相談しよう、そうしましょう。


「よし」


私は立ち上がった。


「司令塔ー!」

「はーい」


 返事が早い。さすが司令塔。呼ばれたら来る。脳内外在化メンバーの中でも、最も仕事が早い。そして、最も苦労している。


「何でしょうか?」

「ねえ、司令塔」

「はい」

「君を女主人公にして、恋愛小説を書いてみようと思うんだけど」

「…………はい?」


 司令塔の顔から、すっと表情が消えた。


「恋愛……小説?」

「そう」

「私が?」

「そう」

「恋愛するんですか?」

「たぶん」

「誰と?」

「そこはこれから考える」

「…………」


 司令塔がゆっくり私を見る。


「なぜ私なんですか?」

「あなた、ハーレム書けたじゃん」

「二話だけですよね?」

「二話も書けた」

「二話だけです」

「でも観測者は?」


 司令塔が視線をスライドさせ、無言のまま記録をとっていた観測者を振り返った。

 気配を消していた観測者は、不意に水を向けられても視線ひとつ乱さず、平然と答える。


「俺は恋愛小説には向いていないと思う」

「……でしょうね」

「なぜだ?」

「あなたが恋愛を分析すると紫式部になるからです」

「なるほど」


 裁判官の言葉に納得するな。『観測者』も諦めないでくれ、私も自己分析進めて、いつかこのめんどくさい恋愛シャッターをぶち壊してみせるから。


 司令塔が頭を抱えた。


「……あの、私も別に恋愛が得意というわけではないですよ?」

「でも人間関係は見られるでしょ」

「まあ、それは……」

「誰が誰を好きとか、誰が誰に嫉妬してるとか、誰と誰が喧嘩してるとか、誰が空気読めてないとか」

「それはだいたい把握しています」

「じゃあいけるじゃん」

「何がですか!?」


 司令塔の声が一段高くなった。


「恋愛小説」

「話が飛躍しています!」

「だって人間関係でしょ?」

「恋愛と人間関係は同じではありません!」

「え、違うの?」

「違います!」


 司令塔が珍しく力強く言い切った。


 その瞬間。これまで静観していた観測者が、淡々とした調子で横から口を挟んだ。


「恋愛も人間関係の一種ではある」

「観測者さんは黙っていてください!」

「うん」


 今日の観測者は素直だ。


「じゃあ司令塔は、恋愛をどう考えるの?」


 司令塔が固まる。


「どうって……」

「好きになったり、好きになられたりするじゃん」

「はい」

「そこからどうするの?」

「……」


 司令塔が考える。

 ものすごく真面目に考える。

 そして。

「まず、相手の好意が本物かどうかを確認します」


 裁判官が頷いた。


「正しいですね」

「次に、主人公自身の気持ちを確認します」


 裁判官がまた頷いた。


「よろしい」

「それから、二人の社会的立場や周囲への影響を確認し――」


 私と裁判官が同時に司令塔を見る。


「……」

「……」


 司令塔が気づいた。


「あ」

「お前もそっちか!」

「ええっ!?」


 私は頭を抱えた。


「結局、君も裁判官じゃん!」

「違います!」

「同じじゃん!」

「私は管理しているだけです!」

「管理してる時点でアウトなんだよ!」

「そんなこと言われましても!」


 脳内会議が一気に騒がしくなる。観測者がノートを片手に、


「心理描写という不確定要素を排除して、身体接触の事実のみを記録する形式なら、俺でも扱えるか?」


と独自理論を展開始める。


「観測者は、ちょっと黙りましょうか。疲れたでしょう、お茶を入れましょうね」

「それ以上を考えるとまた、エラーが起こりますよ。どら焼きがあるので食べましょう、そうしましょう。チョコどらもどうぞ」


 裁判官と司令塔がお茶タイムの準備を始めた。



 たぶん私は、この人たちを使い分けないといけない。

 観測者に恋愛をさせると、恋愛を解剖し始める。

 裁判官に恋愛をさせると、恋愛許可申請書を作り始める。

 そして司令塔に恋愛をさせると、全員を止めようとして本人が混乱する。


 でも。もしかしたら、それが一番いいのかもしれない。

 完璧に恋愛を理解している主人公なんて、私の中にはいない。

 ドタバタしながら悩んで考える感じがいいのかな。


「司令塔」

「はい……?」

「書いていい?」


 司令塔はしばらく黙っていた。

 そして。


「……胃薬、ありますか?」

「ある、効き目の良いヤツを小説内で生成して、一番に横流しする」

「『ハジャルの祈り』を完結させてからなら」

「かなり先になりそうだ」

観測者の言い放った不確定要素を排除して身体接触のみを記録を詳しくと聞きにいこうとしたら、安心基地担当の社長がぬっと出て来て笑顔でハウスと言われました。なんでだろう?振り向いたら私の後ろに創作者(七歳)と五歳の子がいました。私の実年齢は四十歳なので、問題ないと言ったらGeminiに聞いてこいと言われました。意味が分からない脳内劇場でした。Gemini に聞いてみたら例題を書いてくれました。観測者が言いたかったことは、「右手甲部が相手の左手甲部に接触。皮膚表面温度36.5度。接触時間3.2秒。両者の距離15センチ。……よし、接触の事実を記録した。プロット完了」とのこと。


……思っていたのと180度違っていました。

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