【帰ってきた巫女と、恋する切菓子】
今日も元気なまるやのむすめ
あたまの上にはおだんごふたつ
ぴかぴかひかる串さした
かんばんむすめのまちちゃんさ
神織の宮の門前町に、今日も香ばしくて甘い匂いが漂う。
「さあさあ、開店だよ! まるや特製、今日も元気に、おいしいお団子、いかがですかい!」
竹を割るような、明るい声。
甘味処「まるや」の看板娘、まちは、すっかり大人びた顔つきで、てきぱきと店の準備をすすめていた。
まちは、今では店の看板娘として、すっかり、無くてはならない存在。近頃では父に教わり、綺麗な模様の入った「切菓子」まで、作れるようになっていた。
「まちちゃん、聞いたかい!?」
店の準備をしていると、宿屋「ときや」の若旦那、こうさんが、そわそわした様子で話しかけてきた。
「なんでも、二年前に神隠しにあったっていう、あの巫女様が、もどってきたんだって!」
「へえ! あの、北の村の事件の!?」
「ああ。なんでも、天女様みたいに、それはそれは、うつくしい姿になっていたとか…。しかも、ふしぎな術をつかうらしくて、九宮様付きの、とくべつな巫女様になったそうだ。こりゃあ、宮も、また、さわがしくなるぞ!」
こうさんは、興奮ぎみにそう言うと、「じゃあ、あとで、うちの若い衆に、肉まんをたくさん、取りに来させるから!」と、うれしそうに去っていった。
ふーん、帰ってきた巫女様かあ。どんな人なんだろう。
いつか、うちにも、お団子、食べに来てくれるといいなあ。
まちは、そんなことを考えながら、店ののれんを、しゃんと、かかげた。
お店が開くと、町の人たちで、すぐに賑やかになる。
今日の噂の種は、近々あるという噂のお祭について。
「なんでも、次の鑑の儀に合わせて、大きいお祭が行われるんだとか」
「それなあ、あちこちからお偉いさんたちがやってくるんってんで、お宮も大忙しみたいよ」
わくわくしたうわさ話に、町中が、うきうきしている。
そんな中で、番頭さんがお店の外で難しい顔をして、いつもの万屋さんと話をしていた。
複雑な顔をして戻ってくる番頭さんを捕まえて話を聞く。
「どうも、また並塩の質が悪くなってるみたいだよ」
「ええー!こないだも、それでお父さん文句言って返品してたのに」
「大きい声じゃ言えないけれど、神織さんが無理言ってたくさん作らせてるとかなんとか……」
塩は「まるや」の味の決め手。職人気質な父の目をくぐった、上質なものしか使っていない。
父の苦い顔を想像して、こちらも顔をしかめてしまう。
お昼をすこし過ぎたころ。
からん、と、のれんから提げた鈴の音を鳴らして、ふたりの人影が、店にはいってきた。
「おじゃまします!」
「こんにちは」
一人は、もうすっかり常連になった、小鬼のりふぁ。そして、もう一人は、武官のすい様だった。
「あら、りふぁちゃんに、すい様! いらっしゃい!」
まちは、にこにこと、二人を迎え入れる。
「りふぁちゃん、ちょっと見ない間に、また、背が伸びたんじゃない? なんだか、しゃんとして、かっこいいね!」
「えへへ、そうかな? 毎日、すい様にしごかれてるからね!」
りふぁは、照れくさそうに、でも、どこか、誇らしげに胸をはった。その姿は、二年前、コトワ様の後ろを、怯えながらついて歩いていた、あの頃とは、まるで別人だ。
すい様も、その様子を、やさしい目で見守っている。その表情は、昔よりも、ずっと、やわらかく、穏やかに見えた。
「ご注文は、いつもの、もちもち肉まんで、いいかい?」
「うん! それと、今日は、師匠のおごりだから、まちが作った、あの、きれいな切菓子も、もらおうかな!」
「あら、りふぁちゃん、めずらしい! よーし、とびっきりのを、もってくるよ!」
まちは、厨房で、心をこめて、切菓子を切り分けます。
今日の模様は、うつくしい、赤欠けの花。
「しあわせな恋が、おとずれますように」なんて、願掛けをしながら作った、自信作だ。
すい様と、りふぁちゃん。
ふたりとも、なんだか、ほんとうの姉妹みたい。見てると、こっちまで、あったかい気持ちになるなあ。
お菓子をはこんでいくと、ふたりが、ちょうど、うわさの巫女様の話をしていた。
「……それで、せなさんは、今、コトワ様のおそばに?」
「うん。庵で、マジュツ世界? っていう、ふしぎな国の話を、してるんだ。コトワ様、すっごく、たのしそうだよ」
「そうですか……」
すい様の声には、喜びと、少しの、寂しさが、まじっているように聞こえました。
まちは、そっと、お菓子をおく。
「はい、おまちどう! まるや特製、恋する赤欠けの切菓子だよ!」
その、おどけた言いように、ふたりは、くすり、と笑った。
「ありがとう、まちさん。とても、きれいです」
「わあ、すごい! 食べるのが、もったいないや!」
あたたかい日差しが、お店の中に、ふりそそぐ。
消えた山、帰ってきた巫女、これから始まるお祭り。
仙境では、毎日、いろんなことがおこるけど。
でも、こうして、お店をあけて、だれかが「おいしい」って笑ってくれる。
それだけでも、じゅうぶん、しあわせだなあ。
そうした、ふんわりとした気持ちに包まれながら、まちは、手元の切菓子に目をやった。
こうさんにもこの切菓子、すこしおすそ分けしてあげようかな。いつもお世話になってるしね!
彼女のつくる、あまい、あまい切菓子は、今日も、たくさんの人の心を、そっと、あたためているのだった。
~二殿の報告書~
鑑の儀に合わせた祭事が本格的に決定した。
一体どこからそのカネが出てくるのか。
それに向けた予算組みや、各所との調整が発生している。
その動きから、まれにみる大きな規模の祭事となることが予想される。
舞の稽古の時間も含め、多忙極まりない。




