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【九元の門】

えぐられた大地。

破壊され、原形をとどめぬ社。

その前に立つ巫女。

巫女の周りには不自然に浮かび上がる、真円を描く、複数の球体。

距離を置いて対峙する、九宮(くぐう)の巫女コトワと武官である雨月(うづき)すい。

髭切を構えた、コトワが口を開く。

「巫女を殺すか、やつの神器(じんぎ)、簪(かんざし)を奪えば止まるはずじゃ。しかし……『回転』を『断つ』ことはできん」

「殺す……さすがに、避けたいところです」

「しかし、気を抜けば、死ぬぞ?」

コトワの言葉に、愛刀を握る手が汗ばむのを感じる。

「簪を、奪えばいいのですね……!!」

身を沈め、踏み込む、と同時に横のコトワも前に出る。

風。

反射的に横に飛ぶ。

先ほど立っていた場所がえぐられている。

息つく間もなく、風、飛ぶ、風、飛び退く。

近づけない。

巫女の周りに浮いていた球体をこちらに飛ばしてくる。

速度はない、避けられる……!

余裕をもち距離を開けて避けた。

しかし、その球体が地に触れたとたん。

ガガガガガッ!!

轟音を立てて大地を削る。

上ってきた坂道が大きくえぐり取られている。

コトワと顔を見合わせる。

巫女は再び球体を作り出している。

風を切る音で耳が痛い。

「そう簡単にはいかぬようじゃな……」

コトワがつぶやくが、再び飛んでくる球体の音にかき消される。

横に飛びのく、と共に、再び見えない地面をえぐり取る攻撃が来る。

足を止めることはできない。

近づくどころか、最初の立ち位置よりも距離が空いてしまっている。

これでは簪を奪うどころではない。

「退きますか!?」

コトワに向かって叫ぶ。

「野放しにするのは危険じゃ!!」

「では、どうしろと!!」

飛んでくる球体、そして見えない攻撃を懸命によけながら叫ぶ、弱音。

さらに距離が離れ、敵の攻撃の合間を縫って、ようやくコトワと肩を並べることができた。

「すいよ!」

息を切らしながら叫ぶコトワの声が、飛んでくる球体の風切り音に混じって耳に届く。

「わたくしが、奴の『門』を斬りひらく! それまで時間を稼げ! 無理は承知じゃ!」

巫女を睨みつけながら叫ぶ彼女の言葉に、返事をする間もなく、次の攻撃が迫る。

「……分かりました」

喉の奥で、そう答えるのが精一杯だった。

分からない、しかしやるしかない。

「わたくしは林から回り込む。ここで足止めを頼む」

それだけ言うと、コトワは左手の林に向けて駆けだした。

巫女が顔でその姿を追った、その隙に、一度に二歩、螺旋を描くように踏み込む。

風。

巫女はすぐにこちらを向き直り、見えない攻撃を仕掛けてくる。

強引に一歩前へ。

後ろ足が引っ張られる感覚があったが、なんとか避けた。

と思うと再び風、踏み込みは浅いが横に飛ぶ。

やはり、そう簡単には近づけない。

飛んでくる球体によって動ける範囲が限られる。

足は止められない。

刀はまだ、届かない。

右に、左に、境内を広く使う。

木々がメキメキと音を立てて避けた球体に巻き込まれていく。

コトワ様は、まだか……!

林の方を攻撃させるわけにはいかない。

横に飛ぶ。後方へ飛びずさる。

前へ、飛び込む。

しかし、踏み込む足が、上方へ強烈に引っ張り上げられる。

とっさに反対の足を踏み出し、横っ飛びに身体を飛ばす。

受け身、と共に風。飛んだ勢いのまま転がって回避する。

勢いを殺さず立ち上がり駆ける。

球体が近づく。のけぞる様に躱す。

触れれば死ぬ。

一度、距離を取りたい。

しかし、林に敵の意識が行ってしまう。

いったい、いつまで……!

一度に二つの球が迫る。

地を這うようにして間を抜ける。

思わぬ前進。

今しかない!!

しかし、避けた先、その目の前。

もう一つの球体が迫る。

避けられない……!!

愛刀を地に突き立て、強引に体を吹き飛ばす。

バギンッ

刀の刃が、音を立てて球体に飲み込まれた。

受け身も取れずに地に叩きつけられるが、痛みをこらえそのまま転がる。

見えない攻撃は続いてくる。

這いずる様にして起き上がりながらも次の攻撃に備える。


その時。

茂みの音を立て、コトワが林から飛び出した。

「ひらけ……!!!」

叫び声とともに、髭切を大上段から振り下ろす。

同時に後方から猛烈な風が巻き起こる。

身体が持っていかれるような衝撃。

そして一瞬の闇。

急いで両腕で体を跳ね起こす。

何が、起きた。

静まり返る境内。

巫女の姿は、ない。

コトワが、髭切を振りぬいた姿勢で止まっている。

今になって身体のあちこちに痛みがあることに気づく。

そして、手元の愛刀、柄だけとなった姿を見る。

重さ以上に、失われたものが大きい。

震える。

この刀が無ければ、今頃こうして立ってはいられなかった。

コトワを見る。

すいは、よろよろとコトワに近づき声をかけた。

「コトワ、さま……!」

コトワはゆっくりと構えを解いた。

「……」

コトワは何も言わず、巫女の立っていたであろう場所を見つめている。

その口元は未だ引き締められたままだ。

「コトワ様……『門』とは、いったい…?」

「わたくしにも、くわしくは、わからん。ただ、『そうあるべきだ』と、信じて斬った。それだけじゃ」

「巫女は……どこへ?」

「……わからぬ」

コトワはこちらへ向き直る。

「この世界よりも、もっとずっと、高いところにある世界……それが、『九元(くげん)の宙(そら)』と呼ばれるモノじゃ」

コトワが、空を見上げた。

「神と巫女の娘のつながりを『断ち』、九元に繋がる門を、『斬り』ひらいた、つもりじゃったが……」

それ以上は語らなかった。

荒れ果てた境内に、破壊された社が残る。

風が林の木々を揺らす。

すいの手には、軽くなった刀の柄が、硬く握られている。

~二殿の報告書~

封神匣についての調査記録。

過去の使用者歴を発見するも、法則は見られず。

『封じる』力に関する記述は無し。

九宮の言う『神技』についての調査が必要か。

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