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リプレイ・ミュージック ―35歳、もう一度だけ夢を見る―  作者: にゅん


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名前だけが先に歩いていく

 テレビアニメ『灰色の庭で眠る鳥』の第1話が放送された翌朝、隼人はいつも通り目覚まし時計の音で起きた。昨夜は自分の歌がテレビから流れるという初めての経験をしたものの、興奮して眠れないほどではなく、睡眠時間も普段とほとんど変わっていない。顔を洗って朝食を食べれば、その先に待っているのは大学の講義だった。


「昨日のアニメ、結構面白かったわよ。来週も見るから、録画消さないでね」


 朝食を食べている途中、美智子が何気なくそう言った。曲ではなく作品そのものを気に入ったらしく、隼人としてはその方が嬉しい。エンディングだけを目的に見られるより、物語を楽しんだ最後に『帰らない季節』を聞いてもらう方が、今回の曲には合っている。


「配信でも見られるらしいけど、母さんはテレビで見るんだな」


「せっかく録画してるんだからいいでしょう。それに大きい画面で見た方が楽だし」


「まあ、それはそうか」


 父も昨夜の放送を最後まで見ていたが、朝から特別な感想を言うことはなかった。ただ出勤前に隼人の肩を軽く叩き、「次も頑張れ」とだけ残して玄関へ向かっていったため、それなりに喜んでいるのだろう。


 隼人も食事を終え、大学へ向かう。


 駅まで歩きながら活動用のスマートフォンを確認すると、Lentoのチャンネル登録者は昨夜より増えていた。『帰らない季節』のフルバージョンはアニメ放送終了後に各音楽配信サービスとLentoのチャンネルで公開されており、深夜から朝にかけても再生数が伸び続けている。


 公開から約10時間の時点で、『帰らない季節』は再生回数286,417回まで到達していた。Lentoのチャンネル登録者も273,684人となり、『リンクライト』を公開した頃より明らかに新規の視聴者が増えている。


「アニメって強いな」


 数字を確認した隼人は、それ以上画面を眺めずスマートフォンをポケットへ戻した。


 曲単体の力だけではない。


 テレビ放送があり、配信サイトがあり、原作の読者がいて、出演している声優にもファンがいる。作品を見た人がエンディングからLentoを知り、そのままフルバージョンまで聞きに来ている。


 高校時代、自分のチャンネルだけで曲を公開していた時とは入口の数がまるで違った。


 だからこそ、この数字をすべて自分の実力だとは考えない。


 同時に、作品から来た人が最後まで曲を聞き、もう一度再生してくれるなら、それは素直に喜んでいいとも思っていた。


     ◇ ◇ ◇


 大学へ着けば、隼人はLentoではなく立花隼人に戻る。


 午前の講義を終え、友人たちと学食へ向かっていた時だった。前を歩いていた友人の1人がスマートフォンを見ながら、昨夜見たアニメの話を始めた。


「そういや『灰色の庭で眠る鳥』見た? 昨日から配信始まったやつ」


「見たよ」


 隼人は普通に答えた。


「お、立花も見てたのか。あれ結構好きかも。戦争終わったところから始めるの珍しいよな」


「派手じゃないけど、俺も好きだった」


「EDも良くなかった? なんか聞いたことある名前だったんだけど」


 その言葉に、隼人はほんの少しだけ視線を逸らした。


「Lentoだろ」


「そう、それ。知ってる?」


「曲は何曲か聞いたことある」


 嘘ではないどころか、誰よりも聞いている。


「俺も昨日調べた。顔出してない人なんだな。もっと年上だと思ってたけど、実際何歳なんだろ」


「知らないな」


「声だけだと20代後半くらい?」


「どうだろうな」


 18歳本人が隣を歩いているとは、当然思われていない。


 友人はそのまま別の話題へ移り、学食に着く頃には午後の講義について文句を言い始めていた。隼人もそれに付き合いながら、匿名で活動していて良かったと改めて思う。


 自分の曲について、本人だと知らない人間の感想を隣で聞ける。


 少し変な気分ではあるが、嫌ではなかった。


 むしろLentoという名前だけが、自分とは別の場所を歩き始めているように感じる。


     ◇ ◇ ◇


 『灰色の庭で眠る鳥』は、第2話以降も静かな物語を崩さなかった。


 第2話では主人公が庭の雑草を抜き始め、第3話では戦争中に家を守っていた老女と再会する。第4話では亡くなった弟が昔植えた木を切るか残すかで迷い、結局は枯れた枝だけを落として幹を残した。


 毎週、大きな事件が起こるわけではない。


 それでも登場人物の過去が少しずつ見え、荒れていた庭にも僅かな変化が積み重なっていく。


 そして毎話、本編が終わると『帰らない季節』が流れる。


 同じ曲なのに、回によって聞こえ方が違った。


 第1話では故郷へ戻った主人公の歌に聞こえたものが、第3話では老女の過去にも重なり、第4話では亡くなった弟を思い出す主人公の感情にも重なった。


 隼人自身、放送を見るたびに新しい発見があった。


「曲って、出したあとでも変わるんだな」


 自室で第4話を見終えた隼人は、制作ノートへそう書き残した。


 正確には曲そのものが変わっているわけではない。


 旋律も歌詞も同じだ。


 変わっているのは、その曲を聞くまでに視聴者が見てきたものだった。


 自分のチャンネルへ投稿した曲なら、聞く人それぞれの人生が背景になる。


 アニメの曲には、そこへ作品の物語まで加わる。


 それが想像していた以上に面白かった。


     ◇ ◇ ◇


 放送開始から約1か月が経つ頃には、数字にもはっきりと変化が現れていた。


 『帰らない季節』は公開30日で再生回数8,764,218回まで伸び、Lentoのチャンネル登録者は386,417人へ到達している。これまでの曲より明らかに速い伸び方で、過去曲にも新しい視聴者が流れ込んでいた。


 特に『余白の先へ』は、アニメからLentoを知った人との相性が良かった。


 コメント欄には『帰らない季節』から来たという書き込みが増え、そのまま『夜明けの途中』『青のコンパス』『リンクライト』まで遡っている人もいる。


 星乃ミナへ提供した『また明日』や、Nagiの『雨の匂いが消えるまで』にも、新しくLentoを知った人が辿り着いていた。


 1曲が伸びると、その曲だけで終わらない。


 過去に作ったものまで、もう一度見つけてもらえる。


 隼人は数字を眺めながら、その流れを面白く感じていた。


 ただし、毎日再生数を記録することはしなかった。


 伸びていることを確認したら、それで十分だった。


 自分が画面を更新したところで数字が増えるわけではないし、その時間があるなら大学の課題を終わらせるか、新しい音を探した方がいい。


 高校時代から続けてきた距離感は、数字が大きくなっても変えなかった。


     ◇ ◇ ◇


 変化が大きくなったのは、アニメ第7話の放送後だった。


 その回では、主人公が戦争から戻って以来ずっと避けていた幼なじみと向き合う。幼なじみは戦場へ行かなかった自分に罪悪感を抱き、主人公は生き残って帰った自分に別の罪悪感を抱えていた。


 どちらが正しいとも描かれない。


 互いに謝って仲直りするわけでもない。


 最後は2人で壊れた庭の柵を直し、ほとんど会話をしないまま夕方を迎える。


 そこで『帰らない季節』が流れた。


 放送終了後、曲名がSNSの話題へ上がった。


 翌朝、隼人が確認した時には『帰らない季節』の再生回数が前日だけで70万回以上増えており、アニメの感想と一緒に曲について語る投稿も大量に増えている。


【昨日の7話からEDの意味が変わって聞こえる。】


【戻れないのは主人公だけじゃないんだな。待ってた側にも戻れない時間がある。】


【毎週同じEDなのに、話が進むほど重くなるのすごい。】


【Lentoって『頑張れ』って言わない曲を書くの上手い気がする。】


 最後の感想を見た隼人は、少し考えた。


「言われてみれば、あんまり言わないな」


 意識的に避けているわけではない。


 ただ、自分自身が「頑張れば全部解決する」と思っていないだけだった。


 頑張っても駄目なことはある。


 夢が叶わないこともある。


 何かを諦めることもある。


 それでも、その後の人生まで失敗になるわけではない。


 35歳まで生きた最初の人生で、それを知った。


 だから今の曲にも、自然とその感覚が入るのかもしれない。


     ◇ ◇ ◇


 アニメが後半へ入る頃、Lentoの活動用メールには取材依頼まで届くようになった。


 音楽系のウェブメディアだけではなく、テレビ番組からも連絡が来ている。


 隼人は基本的に断った。


 顔出し取材はもちろん受けない。


 大学へ撮影に来られても困る。


 本名や年齢を公開するつもりもない。


 ただ、すべてを拒否する必要があるかについては少し迷った。


 音楽について話すこと自体は嫌いではない。


 自分が表へ出たくないことと、作品について何も語らないことは同じではなかった。


 その中で1件、隼人が興味を持った依頼があった。


 全国放送の情報番組が予定している、ネット発の音楽クリエイターを扱う短い特集だった。


 番組側は最初からLentoが顔を出さないことを理解しており、音声のみでも構わないと書かれている。さらに本名や所属先、年齢についても質問しないという条件が明記されていた。


「音声だけなら、まあ……」


 隼人はすぐには決めず、両親にも話した。


 夕食後、リビングで依頼内容を説明すると、美智子は少し驚いたものの、最初に聞いたのは出演そのものについてではなかった。


「大学に迷惑掛からない?」


「大学名は出さないし、撮影も来ない。俺の部屋も映さないよ」


「なら、隼人がやりたいならいいんじゃない?」


「父さんは?」


「顔を出さないなら、今までと大して変わらないだろ。ただ、喋りすぎるなよ」


「俺そんな信用ない?」


「お前、Nagiさんにも大学生だって喋ったんだろ」


「なんで知ってるんだよ」


「この前、自分で言ってたぞ」


 隼人は記憶を辿り、確かに夕食の時に話したことを思い出した。


「……気をつけます」


 美智子が笑っている。


 家族にLentoであることを隠さなかったのは、やはり正解だったと思う。


     ◇ ◇ ◇


 取材は、テレビ局へ出向くのではなくオンラインで行われた。


 事前に質問内容も共有されている。


 Lentoがいつ頃から音楽を始めたのか。


 なぜ顔を出さないのか。


 『帰らない季節』をどのように作ったのか。


 楽曲提供についてどう考えているのか。


 答えられない質問には答えなくていいという条件も確認した。


 収録が始まる。


『まず、Lentoさんはこれまで一度も顔を公開されていません。これは今後も続ける予定でしょうか?』


「今のところはそうですね。顔を隠すこと自体に強い意味があるというより、音楽をやっていない時間は普通に生活したいので」


『有名になりたいという気持ちはありませんか?』


「曲はたくさん聞いてもらえたら嬉しいです。でも、自分自身まで有名になりたいかと言われると、あまりないですね」


『少し珍しい考え方ですね』


「そうなんですかね。音楽を作るのが好きなのと、街を歩いて気づかれたいのは別だと思ってます」


 隼人は普段通りに答えた。


 格好良く見せようとはしない。


 Lentoという人格を作るつもりもない。


『今回の『帰らない季節』は、アニメのために書かれた曲なんですよね?』


「はい。作品側から、毎話を綺麗に終わらせすぎない歌が欲しいと言われました。だから、何かを完全に乗り越える歌にはしないようにしました」


『Lentoさんの曲は、背中を強く押すというより、隣に座るような曲だという感想も多いです』


「それは嬉しいですね。ただ、俺自身が人の人生を簡単に変えられるとは思ってないんです。曲を聞いて少し楽になったり、何か考える時間になったりするくらいで十分だと思ってます」


 収録は30分ほどで終わった。


 年齢について直接聞かれることはなかった。


 大学についても話していない。


 終わったあと、隼人は大きく息を吐いた。


「歌うより疲れるな、これ」


 マイクへ向かって喋るだけなのに、普段の録音とは違う緊張があった。


     ◇ ◇ ◇


 特集が放送されたのは、それから約2週間後だった。


 実際に使用されたLentoの音声は数分程度だったが、番組では『帰らない季節』だけではなく、『夜明けの途中』から始まる活動の流れや、星乃ミナ、Nagiへの楽曲提供についても簡単に紹介された。


 画面に本人の姿は出ない。


 代わりに楽曲のジャケットや波形、公開されているチャンネル画面が映る。


 そして番組内では、Lentoの年齢についても「非公表」と明確に紹介された。


 放送後、隼人が予想していなかった方向で少し話題になった。


【Lento、喋ると普通に若そうじゃない?】


【いや声だけじゃ分からん。落ち着いてるし30前後ありそう。】


【曲の人生経験が大学生とか20歳そこそこには聞こえない。】


【40代説まであって草。】


【顔も年齢も出さないの徹底してるな。】


 18歳の隼人は、自室でその反応を眺めながら笑った。


「40代までいったか」


 記憶だけなら35歳まで生きているので、完全に的外れとも言い切れないのが余計に面白い。


 ただし訂正するつもりはない。


 年齢を当ててもらう活動ではない。


 曲を聞いてもらえれば十分だった。


     ◇ ◇ ◇


 テレビ特集の影響もあり、『帰らない季節』の伸びはさらに加速した。


 アニメ第10話が放送された頃には再生回数が2,000万回を越え、Lentoのチャンネル登録者も60万人へ近づいている。これまで隼人が経験したことのない規模だったが、本人の生活は相変わらず大学と自宅を往復する日々だった。


 大学では期末に向けた課題が増えている。


 友人と昼食を食べ、講義中に眠そうな学生を横目で見ながらノートを取り、帰宅すれば家族と夕食を食べる。


 Lentoについて話していた友人も、隣に本人がいるとは気づいていない。


 その一方でネット上では、Lentoという名前だけが急速に大きくなっていた。


 隼人自身より、Lentoの方が有名になっていく。


 それは不思議ではあるが、望んでいた形でもあった。


     ◇ ◇ ◇


 『灰色の庭で眠る鳥』の最終話では、荒れていた庭が完全に元通りになることはなかった。


 枯れてしまった木もある。


 壊れたまま残された石垣もある。


 戦争前に咲いていた花の中には、二度と戻らなかった種類もあった。


 それでも主人公は、新しく植えた苗へ水をやる。


 庭には以前とは違う花が増え、近所の子どもが遊びに来るようになっていた。


 最後の場面で、主人公は庭の椅子へ座る。


 視線の先には、弟が植えた古い木がある。


 枯れた枝は切られているが、幹から新しい枝が伸びていた。


 主人公は笑わない。


 泣きもしない。


 ただし、以前より少し穏やかな顔でそこを眺める。


 画面がゆっくり暗くなる。


 そして『帰らない季節』のピアノが流れ始めた。


 隼人は自宅のリビングで、両親と一緒に最後まで見た。


 曲は第1話と同じだ。


 録り直していない。


 歌詞も変えていない。


 それでも、最初に聞いた時とはまるで違って感じられた。


「……ちゃんと、この作品の曲になったな」


 隼人が小さく言うと、美智子が隣で頷いた。


「最初に聞いた時は隼人の曲だったけど、今はこのアニメの曲って感じがするわね」


「うん。それが一番いい」


 自分のものではなくなったような感覚がある。


 けれど、それを寂しいとは思わない。


 Nagiへ渡した『雨の匂いが消えるまで』がNagiの曲になったように、作品へ渡した歌は作品の中で生きればいい。


     ◇ ◇ ◇


 最終話の放送から3日後、『帰らない季節』は大きな節目を越えた。


 隼人は大学から帰宅したあと、制作ノートを開いて最新の数字を記録する。公開から約3か月で再生回数30,014,628回、Lentoのチャンネル登録者は714,286人となり、これまで公開してきた自分名義の楽曲では最大の数字になっていた。


「3,000万か……」


 高校3年生の春、初めて『夜明けの途中』を投稿した時には想像できなかった数字だった。


 ただ、達成感と同時に別の感覚もある。


 〈35〉の基準到達可能性は3,500万人規模。


 つまり、ダイスが示した基準へかなり近づいている。


 それでも、隼人は3,000万という数字をダイスだけの成果だとは思えなかった。


 曲を選んだのは自分だ。


 作品に合わせて調整した。


 歌った。


 監督や制作スタッフが映像を作った。


 アニメを見た人が曲を探した。


 誰かが友人へ勧め、誰かが何度も聞いた。


 ダイスが持っている可能性だけでは、ここまでの流れは生まれない。


 隼人は制作ノートへ、その日の記録を書き足した。


【〈35〉『帰らない季節』は、公開約3か月で30,014,628回へ到達した。アニメ『灰色の庭で眠る鳥』の物語と一緒に育ち、自分だけで作った時とは違う意味を持つ曲になった。】


 数字の下には、もう1つだけ文章を加える。


【曲を渡す相手は、人だけではない。物語へ渡した歌は、その物語の中で育っていく。】


 書き終えたところで、隼人はペンを置いた。


 机の上に置いていたスマートフォンが震える。


 また新しい仕事の連絡かと思ったが、届いていたのはSNSの通知だった。テレビ特集を見たらしい誰かの投稿が、多くの反応を集めている。


 隼人は何となく開いた。


 そこには、Lentoについて短い文章が書かれていた。


「……これは、結構好きかもな」


 投稿には、Lentoが有名になりたい人ではなく、曲を有名にしたい人なのだろう、と書かれていた。


 完全に正しいかと聞かれれば、少し違う。


 自分だって評価されれば嬉しい。


 再生回数が伸びれば何度も確認したくなる。


 報酬が増えるのも嬉しいし、良い仕事をしたと褒められれば普通に喜ぶ。


 ただ、自分の顔や名前まで知られる必要はない。


 曲が残れば、それで十分だと思っている。


「まあ、近いか」


 隼人は投稿へ反応を付けることなく画面を閉じた。


 Lento本人が反応すれば、それだけで余計な意味が生まれてしまう。


 机へ向き直る。


 今日はもう音楽を作らない。


 明日は朝から講義があり、そのあと友人と夕食へ行く予定もある。3,000万回を越えたからといって、その予定を変更する理由はどこにもなかった。


 ただ、Lentoの名前がここまで広がったことで、今までなら届かなかった場所から声を掛けられることは増えていくだろう。


 そのすべてを受ける必要はない。


 数字が大きくなっても、選ぶのは自分だ。


 隼人は制作ノートを閉じると、大学で使う鞄から途中まで読んでいた本を取り出した。テレビで自分の声が流れ、3,000万人以上に曲を再生されても、夜の過ごし方まで特別になるわけではない。


 そして隼人自身はまだ知らなかったが、次に強く惹かれる相手は、大きな事務所に所属する有名人ではなかった。


 登録者数は、わずか3,000人ほど。


 昼間は普通に会社へ勤め、夜になると顔を隠して静かに歌っている女性。


 数日後、隼人は偶然その声を聞くことになる。


 名前は、Mio。


 Lentoの活動が70万人以上へ届くようになった一方で、隼人が次に足を止めるのは、まだほとんど誰にも見つかっていない小さな歌声だった。

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