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06 誰もが手に取って試せる値段。コストを極限まで抑えなければならないので結構ツラい

 美しく並べられたコスメを憧れと諦めが入り混じった複雑な表情で見つめていた。見た瞬間、一つの疑問が湧き上がる。コスメは一部の富裕層にしか届いていないのではないか?


 幸せをもっと多くの人々に届けなければならない。というわけで庶民向けの安価で良質なコスメを作ることにしたが、道のりは想像以上に困難であった。


 王族や貴族向けのコスメは、高価な材料をふんだんに使えるが庶民向けの製品は、コストを極限まで抑えなければならない。結構ツラい。

  安価に手に入る材料を探し回り、たどり着いたのが王都から少し離れた村で栽培されている、星屑草という名のハーブ。美容効果があると言われているものの、香りが強すぎるため、誰も使おうとしないのだとか。


 ハーブの香りを別のハーブと調合することで、心地よい香りに変えることに成功。大量生産の知識を応用し、少ない材料で、より多くの製品を作るための製造ラインを考案、まだ誰も思いつかない、画期的な方法を試す。


 ついに完成したのがデイリー・ハーバル・クリーム。高価な容器は使わずシンプルな陶器の瓶に詰めた。価格は王族向けコスメの十分の一以下。


「で、できた」


 誰もが、手に取って試せる値段。クリームを王都の商店街にある小さな店で売ることにしたら初日から、多くの人々が買い求めに来た。


「こんなに安くて本当に肌が綺麗になるのかい?」


「信じられない!こんなに香りのいいクリーム、初めて」


 驚きと喜びの声を聞くたびに満たされていった。生活にささやかながら美しくなりたいという願いを、叶えるものを広められたわけだ。

 コスメは王宮だけでなく、市井の暮らしにもゆっくりと保湿のように溶け込んでいった。

 コスメを通して、デイリー・ハーバル・クリームの成功は、予想をはるかに超える。


 毎日小さな店にはクリームを求める列が並び、あっという間に完売してしまう日々が続いた。見るたびにホッとなる。


「もっと多くの人に、コスメの楽しさを知ってほしいなあ」


 そんな思いが心の中で日増しに強くなる。

 そこで次に色付きのコスメ、つまり口紅や頬紅といった製品を、庶民にも手頃な価格で提供することを考えてみた。


「コストが問題なんだけど」


 これまで色付きの化粧品は高価な顔料を使うため、どうしても値段が張ってしまっていたが諦めたくない。前世の記憶を辿りながら安価に手に入る天然素材で、安全で美しい発色を実現できる顔料を探し求めた。


 あちこち探して。色味が目立つものは目立つから。苦労の末、とある山奥に自生する紅染草という植物を見つけて根から鮮やかな赤色の顔料を抽出。


 何度も試行錯誤して成功した。また、別の鉱物からは優しい桃色の顔料を。特定のベリーからは深みのある紫色の顔料を得ることができた。

 天然顔料をデイリー・ハーバル・クリームの技術を応用して作られたベースに混ぜ込むことで、安価でありながらも美しい発色。優しい使い心地を両立させ、口紅と頬紅を完成させた。それぞれの色に日常に寄り添うような名前をつける。


「これは、えーっと」


 朝焼けのような明るい赤色の口紅は陽の光ルージュ。


「桃色で」


 摘みたての桃のような、優しい桃色の頬紅は微笑みチーク。


「紫か……」


 夕暮れのような深みのある紫色の口紅は宵の雫ルージュ。


「シリーズにすればいけるかな?」


 これらの新色はデイリー・ハーバル・クリームを販売している小さな店に並べられ、新しい色との出会いに買う人たちはらんらんと目を輝かせた。


「まぁ、なんて綺麗なの!」


「こんなに可愛い色の口紅がこのお値段で買えるなんて!」


「やすーい!」


 特に若い女性たちは初めて手にする色付きのコスメに歓声を上げる。友人同士で色を試し合ったり、鏡を見てはにかんだり。彼女たちの姿は現代人となんら変わらない。


 目が輝き楽しそうにしている。これまで色付きの化粧品は特別な日のためのもの、あるいは裕福な人だけが使えるものというイメージが強かったけれど、新しいコスメは日常にほんの少しの彩りとささやかな楽しみを添える。


 街には鮮やかな色の口紅をつけた女性たちの笑顔が溢れ返り。頬をほんのり、染めた少女たちの明るい笑い声が響き渡るようになった。

 小さなコスメたちは街の風景を、少しずつ、美しく塗り替えていく。これからも、もっと多くの色彩を届けていきたい。


 *


「ミュラージュ様。久しぶりですわね」


 王都一番の宝石店ドゥラン&メヌエットの店内で、学園時代の同級生のペイティサに声をかけられた。地味な公爵令嬢とコチラを嘲笑していた一人。


 だが、今の顔には傲慢さはなく媚びを売るような笑顔だけがあって怪しさがありすぎる。貴族なのだからもう少しなんとか取り繕えばいいのに。


「聞いたわよ。メヌエットのコスメ本当に素晴らしいわ!そ、それでお願いがあるの……だ、だ、だけれど……」


 呆れた。遠い親戚が始めたばかりの商会があるのだと言った。商品をメヌエットのブランド力を使って売ってほしい、と。


 魂胆が利用して一儲けしようとしていることだと、すぐに理解したが昔の自分ではない。

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