05 スリーピング・パック。安眠をテーマにした特別なコスメを渡した
「ミュラージュ様。あなたからいただいたあのパック、本当に素晴らしい。あれを使うと、毎晩ぐっすりと眠れる。最近は夜会での疲れが取れなくて困っていたのだけれど、あれのおかげで毎日がとても充実していてね」
王女は手を優しく握る。言葉は満たしてくれたし、コスメは悩みを解決し、幸せをもたらすことができるのだと改めて実感した。
スリーピング・パックは王女様のお墨付きを得て瞬く間に社交界に広まり、美しさだけでなく安らぎも与えてくれるコスメのメヌエットは、新しい価値観を広めていく。
開発したスリーピング・パックは王女様だけでなく、多くの人々の心を救っていき、効果は、社交界の令嬢たちから夜通し働く侍女たちにまで広がる。
ある日商会に一人の若い男爵令嬢がやってきた。
「すみません」
「はい?」
毎晩のように悪夢にうなされ眠ることができないと悩んでいるのだとか。
「ミュラージュ様お願いです。助けてください。このままでは眠るのが怖くて」
苦しみが睡眠不足ではないと悟る。社交界の人間関係、将来への不安、様々なプレッシャーが心を蝕んでいるのだろう。安眠をテーマにした特別なコスメを渡した。
ラベンダーの香りを濃縮したオイルで寝る前に枕に数滴垂らすだけで、深い安らぎをもたらす。
数週間後、再び商会を訪れた顔には以前のような疲労の色はなく、穏やかな目をしていた。
「ミュラージュ様!あれは本当に魔法のようです。香りを嗅ぐと心が軽くなって、安心して眠りにつくことができるようになりました。夢も見なくなって毎日がとても楽しいです」
涙を浮かべながら感謝の言葉を伝えてくれた。もう一人、コスメによって救われた人がいて、王宮で働く年老いた侍女。
長年王女に仕えてきたが最近は歳のせいで、手足がしびれるようになったと悩んでいるとのこと。
「ミュラージュ様。最近は王女様のお世話をするのも大変で。このままお役御免になってしまうのではないかと、毎日が不安で仕方ありませんの」
胸を痛めた。そこで彼女のために体を温め、血行を良くする効果があるハーブを使ったバスボムをプレゼントしてみる。
「湯に浸かると、体が温まって、心が安らぎます。お試しになってみてください」
笑みを向ける。数日後、見違えるように元気な姿で前に現れた。
「ミュラージュ様!入浴剤のおかげで、手足のしびれが和らぎ、ぐっすり眠れるようになりました!本当にありがとうございます。これでもう少し王女様のおそばにいられますわ」
心から嬉しくなった。悩みを解決し、心を癒し、新しい希望を与えることができることに気づいく。コスメの力を使いたい、もっと優しい場所に変えていくと熱く燃え上がっていた。
最近、自分の日常は穏やかだと思う。復讐という名の嵐が過ぎ去り、ビジネスの拡大という名の航海も、信頼できる仲間たちのおかげで、安定した航路に乗っていた。
久しぶりに心から安らげる時間を手に入れ、安らぎの場所は工房の裏手にある秘密の庭園となっていてここは、誰にも見つからないように手入れしている場所。
そこには珍しい、前世で使っていたハーブや植物たちが育っている。新作の化粧水を作るために庭園にやってきていた。
「ローズマリー、うまくいった」
新鮮なローズマリーを摘むために葉っぱに触れると、爽やかでスパイシーな香りが指先から立ち上る。香りは集中力を高めてくれる。
次にさらりとカモミールを摘む。小さくて白い花。最後にラベンダー。紫色の花穂に触れると甘く優しい香りが包み込んでくれる。
摘んだハーブを籠に入れ、工房へと戻ると工房の中は様々なハーブの香りが混ざり合い、とても良い香り。蒸留器にハーブを入れ、ゆっくりと火にかけると湯気が立ち上り、ハーブの香りが工房中に広がっていく。この作業は最高の癒しだ。
昔は仕事に追われ、自分の時間をゆっくりと持つことなどなかったが異世界に来て本当にやりたかったことを見つけることができた。コスメを作ることを。作業は瞑想でもある。
蒸留が終わると琥珀色のボトルに、ローズマリーとカモミールの香りが溶け込んだ透明な液体を注ぐ。ボトルに心の庭園と名付け、化粧水を使う消費者が庭園にいるかのように心が穏やかになればいいとそんな願いを込めて。
「よーし」
午後になる。
「こんにちは。ミュラージュ様」
「こんにちは」
いつものようにドゥラン商会の当主が工房にやってきた。
「すみません。新作ですよね?嗅がせていただきますね」
彼は化粧水を手に取り香りを深く吸い込んだ。
「ミュラージュ様。これは本当に素晴らしい。心が安らぐ不思議な香りがします」
優しく微笑まれた。世界のことをまだ何も知らないが、必要としてくれる人がいる作るコスメを、心から愛してくれる人がいる。それだけで、十分幸せ。コスメという名の魔法を紡ぎ続けていきたいから。
ミュラージュのコスメブランドのメヌエットは、王族や貴族の間で絶大な人気を誇っていた。ある日、街中で、一人の若い娘が店のショーウィンドウの前で立ち尽くしているのを目にする。




