二.ビーバー、衛星に見つかる
一方その頃、米国環境保護庁森林管理局の衛星データ解析室は、いつになく騒がしかった。
「室長、大変です! また湿地が増えてます!」
朝っぱらから執務室へ声を張り上げて飛び込んでくる若手職員に室長はあからさまに嫌な顔をした。
「“また”って何だよ、“また”って。うちは湿地を増やす施策なんてやってないだろう」
「だから問題なんです。こちらに来てください」
言われるままに、室長は渋々全米各地から送られる森林環境データが集約される解析室へ赴いた。
解析室では白いLED蛍光灯の下、多くの職員たちがモニターにかじりついていた。
職員たちをかき分け、モニター前の椅子に座った室長は一目見るなり、眉をひそめた。
「湿地? この地域は干ばつ傾向のはずだろう。何かの誤作動じゃないのか?」
「いえ、拡大してみると……これです」
即座に否定した若手職員が画面を拡大すると、川沿いに点々と広がる水たまりの群れが現れ、その中心には木の枝を積み上げた構造物が映っていた。
「……枝の塊?」
首を傾げる室長に若手職員が衝撃の事実を伝えた。
「ビーバーのダムです」
「ビーバーって、あのビーバーか」
「そうです。あのビーバーです」
※注1:ビーバーについて
ビーバーは齧歯目ビーバー科に属する大型の半水生哺乳類です。
体長は平均して60cmから80cm、尾の長さは25cmから35cmほどで、体重はオス・メスともに15kgから30kgにもなり、齧歯目ではカピバラに次いで大きい動物です。
体毛は密で防水性に優れた茶色い毛皮で覆われており、冷たい水中でも体温を保てます。
前足は物を掴むのに適しており、後ろ足には水かきが付いていて水中での推進力を生み出します。
彼らの大きな前歯は木を齧り倒したり、枝を運んだりするのに非常に重要な役割を果たします。
ビーバーは大きく分けて北アメリカに生息する「アメリカビーバー」と、ヨーロッパやロシアなどに生息する「ヨーロッパビーバー」の二つの種に分類されています。
「ビーバーって、あの大きな前歯でガリガリやる、あのビーバーか?」
怪訝な顔でさらに訊く室長に、若手職員は丁寧に答えた。
「そうです。発達した前歯で直径15cmほどの木も数分でかじり倒す、あのビーバーです」
「ビーバーって、あの太くて平らなシッポでピチャピチャやる、あのビーバーか?」
「そうです。まるで舟を漕ぐ櫂のような形をした平たい尾は泳ぐ際の舵として機能し、かつ脂肪を蓄える役割もある、あのビーバーです」
「ビーバーって――」
「話進みませんから、やめてもらっていいですか」
「うっ……」
見事に話の腰をへし折られた室長であった。




