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ロマーナの両片想い その1

2日をベッドで寝て過ごしたルシンダは、3日目の昼にフィオレンツァ共和国の首都フィーナに到着した。

駅が近づくに連れて線路脇を並走する兵士の数が多いことにマットは気がついていた。


「ルイージ、体調はどうだ?今、食堂車で一緒になった特別車に付いている護衛騎士から聞いたのだが、どうやらやんごと無い身分の方がフルーレゾン王国から姿を消したそうで、その行方を探しているらしい。


フィオレンツァ共和国の大使館付きの騎士や兵士をフィーナ駅でこの汽車に搭乗させるようだ。


でもまあ、俺たちはここで下車するから騒動に巻き込まれることもないがな。とりあえず、苦しいかもしれないが、()()()()()()()()()()()をしておいてくれよ」


マットはそう言うと外から鍵をかけて出て行った。


ルシンダはルイージになるべく、初日に侍女から教わった通りにサラシを固く巻いて胸を潰し、首元にスカーフ、手には皮手袋、髪をきっちりと三つ編みにしてキャスケットへとぐっと押し込み深く被った。


徐々に汽車のスピードが落ちもうすぐ駅構内に入ると言う時に、マットの鞄と自分の鞄を重ねて持って、彼の背にくっついて一番下手の扉から汽車の外へと降り立った。


そこにはフルーレゾン王国の腕章をつけた騎士や兵士が乗客をジロジロと見ていた。

ルイージは大きなその背中だけを見つめて、足早にその横を通りすぎた。


サラシを巻いた胸がドキドキと早く打っていた。

息を潜めて、改札を通り抜けた。



駅の建物からもマットは足早に抜けて、駅前の大通りをズンズンと横切ると、突然脇道の路地に入っていった。


どこの国でも、貴族は歩いたりしない。況してや夫人はエスコートも無しに長距離を歩くことなど皆無である。


その上、こちとら15年も王子宮の奥で静々と暮らしていた王子妃である。

歩くだけでも普通で無いのに、その細腕には重たい鞄を2個も抱えているのだ。


深く被ったキャスケットがずれてきて、視界を奪う。


ああ、もう、無理、限界よ。

マット、ねえドクターマット、汽車の中で見せた気遣いを、今こそ後ろの私に見せてくれてもよろしくてよ。

いやもう、ちょっと振り返って頂戴。

ああ、ねぇ待って、待ってよ、そんなに早足で先に行かないでぇ。


ズンズンと細い路地を進むマットに、心中大声で叫んでいたが、フルーレゾンの兵士がどこに居るともわからない状況に、声をあげることは出来ないと、ただひたすら背中を追って進む。


すると、突如、マットの姿が視界から消えたので、心細くて狼狽して、キョロキョロと見回しながら走り出した、瞬間、横から手が伸びてきて、ルイージであるルシンダの腕を掴み腰に手を回して、引きずり込まれた。



キャーキャーキャーキャー!と悲鳴をあげたいところだが、口を押さえられてそれも出来ず、恐怖でブルブルと身体が震え出した。


「あ、怖がらせてごめん、俺だ、マットだ。ルイージ落ち着け。到着だ」

突然頭上からここ最近聞きなれた声が聞こえて、涙ぐんだ目でその髭面を確認した。


「ここ、俺の診療所だ。とりあえず、一旦ここで休もう。さあ、中へ」

そう言うと、ルシンダの手から鞄を取り上げて、ひょいっひょいと軽々と持って、ルシンダの手をひいて、狭い裏口から小屋のような中へと入っていった。



細長い廊下を進むと更に扉があって、そこから室内に案内された。


真っ白な壁、鉄製の棚、書類が山積みになっている机、奥の書庫には書類や書籍が所狭しと詰め込まれていた。


「ああー!先生、どうして裏口から入ってくるんですか?と言うか、お祖父さんはどうでした?お話出来ましたか?あれ?その方、先生の患者さんですか?」

カーテンをシャッと引いて入ってきたのは、白い割烹着を着た女性だった。


「ああ、ミーナ留守番ありがとう。変わりは無いかい?」

「ええ、薬を欲しいと言ういつもの患者さんには、先生の作り置きの薬を渡して起きましたよ。それより、その患者さんは」


ミーナと言うらしい、その女性が再三問うているルイージであるルシンダのことをどう説明するべきかマッドは少し悩ましく思って、結局観念した様子で、


「俺が診ることになった患者だ。暫く彼女の世話に罹りきりになってしまうんで別の医師がここに来てくれることになった。急なことだがミーナよろしく頼む」

そう言った。


「え?彼女、彼女って、この患者さん、女性なんですか?」

ミーナがルシンダの姿をジロジロと見出した。


「ああ、今、この地でも捜索されているルシンダ王子妃殿下だよ、内緒にね」

マットは嘘を考えるのが面倒になったようで、ミーナに素性を明らかにしてしまった。


ルシンダはマットを見て、ミーナを見て、まあなるようになるでしょと諦めて、帽子を脱いだ。

ピコんと三つ編みの髪が帽子から飛び出した。


「ごきげんよう、お嬢さん。ルシンダ・サンラザールだった者で、お尋ね者ですわ」

そう言って、半ズボンの裾をちょこんと持って挨拶をした。


「まあまあ、こんなむさ苦しいところに、申し訳ありません」

ミーナは飛び上がって驚いて、直ぐ様膝をついて頭を下げた。


「顔を上げて下さいな。今はドクターマットの付き人ルイージですのよ。そんなに畏まらないで」

ルシンダはそう言って、ミーナの手を取って立ち上がらせると、好奇心のまま問いかけた。


「ところでお嬢さん、この髪を切るところと可愛らしいお洋服を買える所を教えて下さる?」



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