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ルイージの脱出大作戦

「え、え?ルシンダ様」

「ルイージよ」

「っち、ルイージ。君、身体が悪いのかい?」

「そうよ、マット、ちゃんと話を聞いていた?私余命半年よ」


「余命の話はまだ聞いてない!なんてことだ!どこが悪いんだ。ちょっと失礼、目蓋を触るぞ、舌を出して。次は腕を、袖を捲って素肌に触れるぞ、許せ」


マットが急に怖い顔をし出して、あちこち診察を始めた。


「君、心臓の動きが悪い。顔の白さからも貧血が見て取れる、君、心臓が悪いのか」

揺れる騒音の車内の簡易な診察で、ほぼ1ヶ月の検査入院と同じ病名を告げられた。


「そうね、そう言われたわね」

「夜中に息苦しくなることはないか?寝ているより座っていた方が楽になるような」

「あるわね、随分と前からよ」

「咳は、咳は出るか?ちょっと胸の音を聞いても?」

「え?」


返事をする前にジャケットを開けられてシャツの下から聴診器を当てられる、と、


「おい、君ふざけているのか、なんだこれは!」

突然、シャツを捲られてギュウギュウとサラシで潰された胸元を指して叱られたのだった。


「だって、少年姿で出立するのに、胸があったらおかしいでしょう?」

当然のように答えると、目を三角にして


「お前はバカか。息も苦しいだろうに、そんな姿で。いいからそれを取って、楽な服に着替えろ。俺が男で心配だと言うなら、見損なうなよ、俺は医者だ。患者に変な気を起こすほど落ちぶれちゃ居ないんだ、外に出て飲み物を買ってくるからその間に、服を着替えて下のベッドに横になっていろ」


そう一方的に言い捨てて、コンパートメントから出て行った、外から鍵を閉めて。

思いの外、彼は紳士のようだ。

見た目は髭もじゃの熊のようだけど。



ルシンダは、手持ちの鞄から踝まであるリネンの寝巻きを取り出して、サラシを取るとそれに着替えてベッドに横になってポツリと溢した。


「やだわ、私ったら。知らない男性に寝顔を見せるのね。まあ、でも病院でも先生方が診察に来ていたし、医者だと思えばそんなものかしら」



一方、食堂車でお茶のセットを借りるとその一式をワゴンに乗せて帰ってきたマットは、暫く戸の前で躊躇して、えいやと気合いをいれるとノックし返事を待たずに入室した。


「お茶を貰ってきたが、紅茶よりカフェインの無い物の方が良いので勝手にカモミールティにしたぞ。ここに淹れて冷ましておくから、飲みたくなったら気を使わずに声をかけてくれよ」


「まあまあ、ドクターマット、お気遣い頂いて、ありがとうございますぅ」

ルシンダは、流石に寝巻き姿が恥ずかしくて、鼻先までブランケットを引き上げてくぐもった声でお礼を言った。



さて、ルシンダが考えたのは身代わり作戦で、病院から大使館までの帰路は髪色が白金色で似ている侍女を身代わりにして帰し、その隙に自分は駅から国外へと逃亡する。

駅で、夜行列車で己の素性がバレないように、特別室には別の侍女、馬車で一緒だった彼女に乗って貰って、終点の帝国まで行って貰う。


ルシンダはフィッツロイの駅で途中下車して、そこから南下して港湾都市ナポルから豪華客船『ステラ・マリス号』に乗船して、自身の納得いく死に場所を探す旅に出るのだ!


と、マットに力説したが、彼の眉間の皺がより深くなってしまった。


「そんなバカなことに人生の最期をかけるより、1日でも長く生きれるように治療を探るべきだ」


「医師団が、アルビオンとの友好の証しの王子妃の為に熟考に熟考を重ねてさえのこの結果、余命半年の宣告なのよ。


寝たきりで過ごすも、知らない世界を見て周りながら死ぬのも同じ最期なら、私は後者を選びたいのよ。

最初で最後の望みなの、ドクターマット、お願いよ。私の主治医として最期の時まで付き添って欲しいの。


その時を迎えたなら、貴方には勿論、アルビオン王国のペンデルトン王家より、貴方の望むもの、富でも栄誉でも先端医療を担う病院でも、望む限りの全てを与えると約束するわ。お願いよ」


ルシンダはそう懇願すると、苦しそうに顔を歪めた。


「苦しいのか、無茶するからだ。ちょっと待っていろ」

すると、自分のベッドから枕を取ってルシンダの背中に入れて姿勢を変えてくれた。

そして、自分の持つ鞄の中から、瓶に入った黒色の液体をスプーンに垂らして、ルシンダの舌裏に塗った。


暫くすると、呼吸が落ち着いたルシンダは、そのまま深く眠りについたのだった。




「なんてことだ!じいさん、こんなことに巻き込んで、恨むぜ」

車窓から外を望めば、真っ暗闇が広がっていた。


それはまさにマットが進むこれからの日々のようで、思わず身震いするのだった。


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