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砂漠と遺跡の国 アメンティア王国 その2

目の前に存在している石積みの三角形は、アメンティアの古代の国王の墓だと言う。

国王はファラオと呼ばれ、この地をお作りになった神様から管理を任された者、神に選ばれし者なのだとか。


「但し、古代アメンティアの神様はたくさん居る。俺たちが祀っている唯一神とは違う神だ」


「でも王は神に選ばれ、その支配権を委ねられた者と言うのは同じね。神様はどんな基準で王を選んだのかしら。

寧ろ、罰を与えなければいけないような痴れ者が、王族を名乗っていることもあるのにね」


遥か頂上を見上げながら、ルシンダがのんびりした口調で返事に困るようなことを言った。


「ルシンダ、君って結構辛辣だよね」

ルシンダの横顔を目を細めて見ながらマットが言うので、顎を上げツンとすまして、


「あら、ドクターマット。あなたには私がどんな風に見えるのかしら?このくらいどこの夫人も言うんでは無くて」

淑女の微笑で軽やかに言い返した。


すると、ニヤリと片方の口を上げた嫌みな笑みを浮かべながら、ルシンダの後ろに控えているジュリアをチラ見して

「まあ、そうかも知れないな、君の侍女殿も同じようなものだし」

そんなことを言った。多分にラクダでの道中に揶揄われたことへの意趣返しだろう。


フンっと鼻を鳴らして、ジュリアも淑女な微笑で

「この位のことで気になさるなんて、やはりドクターはラバーボーイには程遠そうですわね」

なんて返すので、マットはグヌッと口を尖らせて黙ったのだった。


「ねえ、どうして王の墓が三角なの?」

話を変えようとルシンダが周りに尋ねた。


「この地の古代の王朝は太陽信仰があってね、この斜面は太陽の光線を表しているんだそうだ。

そして、死後、王が太陽へと昇っていく為の階段だと言われているんだ。


また、アメンティアの神話に書かれている最初の陸地、原初の丘を模していると言う学者の意見もあるんだ。ハッキリした理由はわからないみたいだけどね」

すると、隣のマットがスラスラ淀み無く回答を話し出した。


フンフンとキラキラした眼差しでマットを見つめながら話を聞くルシンダに、マットの気分も瞬間的に上がった。


「まあ、マットって物知りねぇ。良くご存じなのね」

ルシンダが頬に手を添えてほぉと息を吐きながら褒めてくれたのが、こそばゆく感じて、



「まあ、紳士の嗜みだ、なんてハハ。船内で借りた本の受け売りだよ。船に戻ったら君も読んでみたら良い」

ネタバラシをしてしまったのだが、読書家のルシンダは、そうね読んでみるわねと言って嬉しそうにしていた。


地元の名士の案内で、特別に遺跡の中を見せてもらうことになり、人が腰を屈めてやっと進む程の細い通路を地下へと向かって降りて行った。


小柄なルシンダは少し屈めば良いが、体の大きなマットやアーチーや護衛たちにはキツい体勢での進行だった。


とは言え、数分のこと。


突き当たりにある、子供の背ほどの大きさの切れ間から中へ入ると、そこは高い天井の広間になっていた。

その周囲の壁には壁画が描かれていて、その横にヒエログリフの文字が刻まれていた。


ルシンダは興味深げにゆっくりと壁画を覗き込み見て歩いた。

その手は自然とマットの腕に添えられていて、どこから見ても仲の良い夫婦のように見えていた。


半分ほど進んだ時に、ルシンダが

「この壁画は何かのお話が描かれているのかしら、あちらの絵とこちらの絵同じ絵だわ」

その発見に興奮して顔を紅潮させて、マットを見上げてはしゃいだ声を上げた。


「ああ、そうだよ。これはアメンティアの創生神話だね。ここのヒエログリフにその物語が記されている、何々」



『大宇宙にマナが充満して、テラが生まれた。マナは大宇宙を司る独り神であったがテラが生まれた瞬間マナは溶けて消えた。青く輝く綺羅星の独り神テラは長い時間をかけて大気神エアと海神ヌンと大地神タアを生んだ。

またまた長い時間を過ごして、それぞれの神はそれぞれテラに必要な神を生んで世界を創った。



大気神エアが生んだのが太陽神ラー。大地神タアは植物神ゲビを生み、海神ヌンは大河神ハピを生んだ。太陽神ラーは植物神ゲビを見初め愛した。けれどゲビは隣にいつも寄り添っていたハピが好き。


ゲビはハピと交わって花の神、小麦の神、椰子の神など多くの子を生み、ハピの氾濫がもたらす恩恵で地は緑に満ちた。


太陽神ラーから注がれる無償の愛に気付かず、ゲビとハピはお互いだけを気にかけていた。


ある日、太陽神ラーはその輝きを止めて隠れた。


すると、今までテラの大地に広がっていたゲビとハピの子神たちはたちまち死んでしまった。


それを悲しんだゲビは太陽神ラーを探しに旅立った。


自分の最愛が自分の元から居なくなることを悲しんだハピは苦しみ暴れ周り、大地神タアの身を削り、生き残っていたゲビとの子神も全て破壊尽くした。


エアは冷え、タアは削られ、ヌンは濁った。


荒れ狂ったハピは苦しみの中から、破壊の神アポを生んだ。


一方、ゲビはラーを探す長い旅路の末、マナの中に隠れていたラーを見つけ出した。


嫉妬に苦しんだラーは、その苦しみが溶けて消えたはずのマナにすっぽりと覆いつくされ、身動きができなくなってしまっていた。


ゲビはラーに戻ってきてくれることを願った。

ゲビの必死の訴えに、意識がマナの深淵に沈んでいたラーは戻って来ることが出来た。


そして、ゲビはラーを受け入れて、時間と四季を司る神レンペトを生んだ。


ラーとゲビが元居た地に戻ると大気と大地と海神が弱り、大河神ハピは錯乱していて、破壊の神アポが暴れまくっていた。


ゲビはハピの姿と失った子神を悲しみに泣き濡れた。


太陽神ラーは自分が二人の姿を羨んでマナに囚われたせいで多くの神を失い傷つけたことに責任を感じて、破壊神アポを自分の身に取り込んで、二度とテラを傷つけないようにと願った。


そして、太陽神ラーの治める実りの昼と破壊神の治める不和の夜が出来たのだった』




「と、書いてある」


フムフムと顎を指で撫でながら、しかめ面しい顔でヒエログリフで書かれた神話を読んで行くマットに、

「ほんとうに、マットたら博学だわ。どうしてこんな古代の文字まで読めるの。マットあなたって天才なのぉ!すごいわ!」

ルシンダは飛びはねんばかりの喜びようで、大喜びで称賛した。


あまりにも疑いの無い眼差しを向けられて、ちょっとした悪戯だったのにとんでもなく悪行をした気分になったマットは、


「申し訳ない。ルーシー、ごめんよ。神話の本を暗記してただけだ、古代文字は読めんのだ、スマン」

と焦った声を上げ、腰を九十度に折り曲げて、冷や汗を流して謝罪した。


その様子を見て、まあ!と口許に手を当てて驚いて、

「ふふ、それはそうよね。いくらドクターが博学でもこんなスラスラヒエログリフが読めるのならお医者様でなくて考古学者になっているわね。頭を上げて、マット。神話を暗記しているだけでも素晴らしいわ」

ルシンダの言葉にはあと大きな息を吐きながら、眉を下げた情けない顔を見せた。


「もう、君には絶対冗談でも嘘は言わない。このファラオの遺跡に誓うよ」

マットは至極真面目な顔に瞬時になって、そう遺跡の広間で、ルシンダに誓ったのだった。



遺跡を出ると、地元の名士の宮殿へと招かれて、そこで数日を過ごすことになっていた。


大理石をふんだんに使った宮殿に多くの蝋燭が灯り、夜風が部屋を通り抜けた。


ルシンダは、蚊帳の中から砂漠のオアシスを模したヤシの木が生い茂り、人工の滝が池へと注ぐ様を見ていた。


「神様も恋に翻弄されるんだもの、人の身ならば尚のことね」


夜空には細い三日月。

ルシンダの呟きは、砂漠の風に運ばれて消えていった。











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