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ギグ・マーガの星に捧ぐ唄  作者: 改易庇護之介
第二部 四章 旅立ちの三人
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第二部 四章3『漂流と恋の悩みは似たようなもの』

 ※カイル視点――海上


 それから数週間。


 雨が降るたびに水を集め、魚を干して塩気をごまかし、俺とバラッドは定期的に喧嘩してはすぐに和解する、そんな日常が海の上を流れていく。

 リアナはといえば、日記を書こうとしてインクをぶちまけたり、甲板で寝転ぶ二人に足を取られて転びそうになったり――そんな生活が、当たり前のように続いている。


 夜は星を見て、昼は空を見上げる。

 そんな繰り返しの中でも、俺たちはなんとか旅を続けていた。


「……せめて陸地でもあれば」


 ぽつりとつぶやいた、まるで願い事のようなリアナの声が、海風に流されていく。


「安心しろリアナ、そろそろ俺の計算では、西の大陸に着くころだ」


「に、西ぃぃ!? な、何で西なの! そもそも私達が目指していたのは南――

 か、カイル! 深夜は今までどこ走ってたの!?」


 リアナが周囲を見渡し太陽の位置を確認しながら問い返す声。あまりにも素っ頓狂な事を聞くかの如く。

 すると今度はバラッドまで、俺たち二人へ声を掛ける。


「成程西か……ふむ。西の大陸の連中とは、あの港で少しだけ交流を持った。

 あれは、結構気のいい奴らだった」


 ふむ、バラッドはどうやら顔も広いらしいな。

 西に関しては俺もあまり知識が無いから、こういう所は助かるな。


「え? あの……そもそも、南に向かって、あれ? でも西で……あれ?

 わ、あああ……夜だ、夜にきっと……カイルは……うあああああ」


 リアナの何か思い悩む声が聞こえる。

 ……やはりこういう閉鎖的な時の流れる空間だと、悩みやストレスが酷いのかもしれん。

 今度時間を取って、リアナの悩みを聞く時間を取ったりするのも良いかもしれん。


 もしかしたら、恋の悩みかもしれんしな、そういう時は俺がしっかりと伝えねば。


「リアナ、恋は何時だって漂流みたいなものだ、だけど俺を信じてついて来てくれ」


 そうだな、本当にもしも恋の悩みならば、こんな感じに声を掛け、共に解決するしかない。

 まったく、以前の俺ならこういう悩みに答えるような性格では無かったのだがな。


 やはりリアナと共に生きる様になって、俺のこういう側面を知る事になるとは、実に興味深い。


「き、緊急会議ぃぃぃぃ!!!」


「…………リアナ、恋の悩みを緊急会議で解決は、時期尚早じゃないか?

 それに、流石の俺でも少し恥ずかしいぞ?」


「こ、恋の話なんて一言もしてないよ!」



 ◇ ◇ ◇


 三人での会議の後、何故か俺は望遠鏡を渡され、周囲の確認を命じられた。

 今、甲板でリアナとバラッドの二人が地図を眺めながら……いや、実際はバラッドは地図が見えぬ為に、リアナが現状の説明を地図を基に相談している……と、いった感じか。


 しかし、俺の役目も重大だ。

 この望遠鏡で何かしらの陸地、もしくは情報を見つけたら直ぐに報告し、状況を説明する必要がある。


 そんな事を考えている俺の背後から、リアナとバラッドの声が聞こえる。


「今現在の太陽の位置と……日数を勘案して、この辺かな?」


「ここ数日の風向きは、こう、この方向からこう、流れる感じだったはず。

 それを踏まえ、夜番のカイルが真っ直ぐトチ狂った分を加味したらどうなる?」


「……三歩進んで五歩戻る感じです」


「可哀そうに……やはり馬鹿なんだな」


 流石に聞き逃せぬと思い、反論しようとした瞬間、望遠鏡の先に、何か黒い線……いや、陸地か?

 それを思わせる何かが見える。


「リアナ、バラッド何か陸地の様なものが見える」


「ほんと!? ほんとに見えるの!?」


「ああ、まだ遠巻きだからその陸地の大きさや、人の有無は見えないのだがな」


 しかし、これでもしも何かしらの港や街並みがあれば、ちゃんと休む事も出来、更に補給まで行える可能性がある。

 そんな事を考えていると、リアナは再度、地図を広げバラッドと何かを話している。


 ならば今の俺の役割は、この望遠鏡で集められる情報を逐一二人に流す事が先決だ。



 ◇ ◇ ◇


 それから暫くの時間、リアナとバラッドは地図を広げながら、今俺が見ている陸地らしき何かが、どこを示しているのかを予想し話し合っている。


 その陸地がどこで、どんな国かで、俺達三人の設定が変わる為だ。


 とりあえず設定の共通事項として、俺達三人は遭難し、漂流した経緯から流れついた。

 まずリアナは『リアン』と名乗り、どこかの国の田舎領主の娘。

 そして俺は『カイン』と名乗り、そんなリアンを連れてかけおちした護衛の騎士。

 その駆け落ちの旅路で出会った従者のとしてバラッドを『バラン』という名で共にしていると。


 ただし、バラッドに関しては盲目だが従者として良いのか? という疑問を持つ者もいるだろう。

 しかし駆け落ちの旅路で、バラッドは常に協力的で友情を育んできた、従者という名の、家族のようなもの。


 そういう設定だし、それは……ある意味俺も似たような感情を持っているから大丈夫だと思う。


 俺は一人望遠鏡を眺めながら、その共通事項の復習を行う。

 そうしていると、その望遠鏡から見える風景に、一つの変化が見えてくる。


 港らしき船の風景、そして何かしらの建物の風景と灯台らしき建物、そして港にはその国を示す旗らしき、何か。


 間違いない、人が居る。


「リアナ! バラッド! 何か建物や、港らしき施設、停泊している舟らしきものが見えるぞ!」


「本当カイル! やった……港があるなら宿もあるかも!

 ベッドで久しぶり眠れるかも……」


 リアナの笑顔の目元に少しばかり涙が滲んでいるようにも見える。


「……ああ、そうだなリアナ。早く港に行き、今日はベッドで二人休もう」


「もう! 変な事言わないでよ!」


「フッ……カイルにリアナ二人ともはしゃぐのはまだ早い、カイルは引き続き望遠鏡から得た情報を流してくれ」


 確かに、少しはしゃいでしまったかもな。

 まず港らしき施設があったとて、どういう用途の港なのかをはっきりしない事にはな。


「カイル、私は今の在庫の状況確認しておくね!」


「ならば私は、君たちの祖国の剣や衣服を隠しておこう。

 秘密の倉庫があるからな。そこであれば恐らくなかなか見つかるまい」


 俺達三人の表情に明るさが灯り出す。

 そして徐々に見える風景に様々な情報が見え始める。


 港の状況、かなり発展した街並みのようだ、おそらく港近くに宿や買い物できる商店街もあるだろう。

 そして倉庫らしき設備も多い……という事は状況によってはしばらくこの街で働いて、旅の路銀を貯める選択肢もあるな。

 ふむ、見知った国旗。生活文化的にもある程度近い国だな。


「カイル、買い物つきあってね、結構な量買わないとだと思う」


 甲板にリアナの明るい声が響く。

 ああ、よく考えたらこういう明るい、リアナとのやり取り自体久しぶりかもしれんな。


「こちらは、問題ない。一応君たち両人の情報に繋がる物一式は隠しておいた。


 今度はバラッドの落ち着いた声が、耳に入る。

 そんな二人へ、俺は現時点得ている情報を流す。


「恐らく、買い物や宿なんかの設備もありそうな発展した場所らしいな、それに知った国だ、生活文化も近い国だ」


「……やった……! ベッドで寝られるかも……!」


 ぴょんぴょんとはしゃぐリアナ、可愛い。


「ああ一緒に買い物にも行こう、リアナ」


「……買い出しとかできたら、ほんの一日だけでも……休みたいな……」


 船は風と潮の流れそのまま、真っ直ぐ港へ向かう

 そんな風にはしゃぐ俺とリアナに割って入る、バラッドの声。


「カイル。港には、どこの国に所属しているかの旗があった筈。どこの国だ?」


 おっと、それを伝えて忘れていたな。


「ああ、済まない伝え忘れていた。


 テオブルグ帝国の港だ」


 跳ねていた、リアナの足が止まり、こちらへギギギと音を立てるかのように、がちがちと向き直る、そんな姿のリアナも可愛い。

 バラッドも何故か空を見上げ、額に手を当ててため息をついた。


 何かこの妙な空気を纏いながら、青い表情のまま、リアナが俺へ話しかける。


「えっと、ごめんねカイル……私、今からちょっとずっこけるね……」


 ばたーーーーん。


 甲板にきれいに倒れ込んだリアナ、潮騒が静かに届いていた。


「ぬ、いかん! リアナ、めくれて下着が……。

 おのれバラッドォォォ許さんぞぉぉぉお!」


「……そもそも私に見える訳がないだろう、バカイル」


「む、俺の偽名の設定間違えているぞ、バラッドもとい、バカンめ」


 ぬうううう、一体何が起こっているのだ。

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