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ギグ・マーガの星に捧ぐ唄  作者: 改易庇護之介
第二部 二章 毒の火
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第二部 二章8『追憶のバラッド』

 ※バラッド視点――村の灯台施設内



 目が見えぬとて完全なる闇の中では無い。

 胡乱な光となる、この灯台の灯りの側、我が眼に静かに刺さる火の篝火。


 故に、私はこの場所が好きだ。


 こころ安らかなり、外の闇。

 その中にただ在る一つの光。

 だが今宵はどうにも、私の中の星が異様に騒めいている。


 ちり……。

 私は槍の柄を、こつんと静かに床にぶつけ小さく鈴を鳴らす。

 鈴の音と、この灯台の外壁を撫でる風の音の残響により生まれる、世界。


「……何者だ?」


 だが何時もなら無人の筈の灯台のふもとに、一人の男。


 その男は何本もの瓶を懐に忍ばせ……その手には何かしらの鉱物を仕込んでいるかのような違和感が一気にその鈴の残響にて構築される。


 何かのマーガの星の者か?


 だが……この者の視線は、この灯台にではなく、ここへ向かう道すがら見つめている。

 私は世界を肉付けするべく、再度鈴を小さく鳴らし世界を広げる。


 その道向こうに……一人、女性だな。

 こんな夜に何を? だがその女性の更に向こう、何かの……足音というよりは感情が残響を形作る程の、何か。


 まあ良い、私の命を狙う何かしらなら……いずれこの地の牙に、静かに食い破られるであろう。

 この時までの私は、ただそう思いまた静かに、夜の闇に身を委ねた。



 ◇ ◇ ◇


 それから暫く後、灯台の外で戦いが始まる。

 男が二人、女が一人。

 男と女がどこからか逃げ、それを追ってきた一人の男のようだが。


「……そうか、まさかここでマーガの戦いとはな」


 男性の叫び、そして見下す様な声、そして爆破音に大地を駆ける音。

 そして……女性の覚悟を伴う静かな叫び。

 そして視界を固定する星……そして毒の星に、毒の炎等を思わせる語りの声。


 しかも寄り添う男女は、ここへ日常品の配達をしてくれる者から聞いていた、流れ者の特徴と一致。

 まさかマーガの宿命から、共に手を取り合い逃げる者が居るとはな。


 そして毒の炎を使う、あの者がこの国まで追いかけ、そしてこの灯台の下呼び出した、という流れか。

 私はそっと灯台の窓辺に立ち、下部より聞こえる音に耳を傾ける。


「……あの火を使う男の殺意の粘度が上がっているな……いずれ私の罠に反応するかもしれぬ」


 鈴を鳴らすまでも無い。

 下より聞こえる声に音、それだけで十分に情報は手に入る。


「皮肉な物だな、慕い合う二人が共にマーガの星に選ばれるとはな

 偶然とは恐ろしい話だ」


 自然とその様な独り言が口からこぼれ出る。


「どうやら終わるようだな。

 しかしあの毒の炎使い……」


 どうやら本気であの女性と共に逝くことを選択したようだな。

 自然と私の胸に星のざわめきが走り出す。


 ――この殺意、我が星が動き出す。


 その慕い合う二人に妙な親近感を覚えた私は自然に叫び声を上げる。


「動くな!」


 闇から繰り出される私の仕掛けた弓。

 その弓が、思惑通りにこの毒の炎使いの身体に吸い込まれる。


 慕い合う二人に感じた親近感、そんな感情を私は頭を静かに振り払いのける。

 親近感などと戯言を。


 復讐相手の事、この手で討たねばならぬ相手の事を考え続け、待ち続ける私と同じな訳あるまいに。



 ◇ ◇ ◇

 ※バラッド視点――村の灯台施設外


 戦いの後、二人に会い、少しの会話の後、取り急ぎ亡骸の処理を行う。

 一時、三人の間に沈黙が流れたがカイルとかいう男が口を開く。


「すまない、恩に着るバラッド」


「良い、実際に彼の命を刈り取ったのは私の罠だ。

 だが……貴殿ら二人は急ぎ国を出る準備を行うべきだ」


 私の言葉が意外だったのか二人の喉が鳴る音が聞こえる。


「……テオブルグ帝国の動きを耳にしたことはあるか?」


 私は静かに問いかける。闇に潜む二人の息づかいが、鈴の余韻の中で揺れた。


「帝国は今や、この大陸のマーガの星の民を全て討ち払うべく、次なる獲物として、この国にも目を向けている。

 奴らは星の民を洗い出し、逃げおおせた者すら執念深く追うだろう。

 もしや貴殿らも、静かに追われているやもしれぬ」


 言葉の先で、あの青年――カイルが硬直する気配がする。

 私はわずかに杖を握り直し、続ける。


「奴らは、いずれ国境を越えてこちらへやってくるだろう。

 大陸の支配を果たし、次は海の向こうだ。

 この村もやがては彼らの靴音に踏みしだかれることになる」


 息を呑む音。私はそれを聞きながら、そっと自分の足元を槍の柄で叩く。

「とん」という小さな衝撃――その直後、鈴が静かに鳴った。


 瞬間、地中の気配が激しく揺らぎ、私が仕掛けてきた罠たちが次々と息を吹き返す。

 槍の先が跳ね、落とし穴の蓋が外れ、縄がうなりを上げて舞い上がる。

 灯台の下は、既に地獄の庭と化している。


「……これでこの辺りの罠の解除は完了だ」


 私は静かに言う。

 未だ驚愕に沈む二人の鼓膜を震わせているのがわかる。


「さて――どうだろうか二人とも。

 私と共に、この国を出ぬか?」


 マーガの星の引力に身を委ね、人を待つのも最早、限界かもしれぬ。


 ならばヴィエル・マーガの星を探し出し『あの者』との因果を強制的に作り出す事が、近道かもしれぬ。



 私の村を、家族を、そして最愛の妹を殺したあの者を。

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