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ギグ・マーガの星に捧ぐ唄  作者: 改易庇護之介
第二部 二章 毒の火
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第二部 二章7『動き出す星々:サヴァ・ル・マーガの星』

 ※カイル視点――村の灯台麓



 男は異様だった。

 その身体は細く、しかし一切の無駄がないしなやかさ。

 背中まで垂れる赤いドレッドの髪が、無風の空気の中でもどこか炎のように揺らめいて見える。

 こちらへ視線を向けずとも、まるで俺たちの動きのすべてを見通しているかのような気配が漂っていた。


 火傷の痛みはリアナの存在と……エディオルの死によって、いくらか和らいでいる。

 だがまだ癒えきってはいないし、火傷の痛みはしばらくは残るだろう。


 だが己の星の蠢きに、殉ずるかのように俺は目の前の男をじっと睨みつけ、心の奥底で能力の発動を決意する。だが――


 「……無駄だ」


 男が静かな声でそう言った。


 「私にはその星の恩恵は通じぬ。

 生まれついての盲目なのだ」


 その言葉と同時に男の手に握られていた鈴付きの槍が、微かに一度だけ音を立てる。

 俺はリアナの前に一歩踏み出し、怯えている彼女をかばうようにして問いかけた。


 「お前がエディオルを……矢で仕留めたのか」


 男は肩をわずかに揺らし、表情を見せないまま応える。


 「……正確には違う。

 あれは私が仕掛けた罠にあの男自身がかかっただけだ」


 男の言葉の向こうで、地面に横たわり既にこと切れているエディオル。

 彼が最期に残した毒の炎が、名残を伴う煙となり空へ消えていく。


 「罠……?」


 「私は『サヴァ・ル・マーガ』の星の民だ。

 ……名乗るならそうだな、バラッドとしておこう」


 男――バラッドは、俺へ真っ直ぐに語りかけてくる。

 こちらの内側を測るような声音だ。


 「……ここで始めるつもりか?」


 落ちている剣に視線を投げる。

 その瞬間、男の気配が一変した。


 だが、彼はただ手を軽く掲げ、言った。


 「やめておけ。

 ここで私に殺意を向けるな」


 「……何だと?」


 「この地には、殺意に応じて発動する罠が数多く仕掛けてある」


 バラッドの声には、淡い哀しみが滲んでいた。


 「……だから私は、ここに留まり続けていた。

 もしお前たちが本気で殺意を放てば……この地は、お前たちへ牙を向ける事になる」


 俺は言葉を失った。



 「私の星『サヴァ・ル・マーガの星』は、罠を介しても『自身の手による』として神に認めさせることができる」



 かつて祖国でも聞いたサ・ヴァル・マーガの星の強烈な能力――


 だが彼は力を誇示することもなく、ただ警告するように語るバラッドの声音に、俺もリアナも返す言葉を見つけられなかった。


 「……お前は俺たちを待っていたのか?」


 軽く笑みを浮かべるバラッド。


 「……貴殿らが勝手にここへ集まり、いつの間にか殺し合いを始めたまで。

 最初は何事かと思ったが、まさかここでマーガの戦いが行われるとはな。

 ……いやそもそも、そこの彼も私という星に引かれたのかもしれぬがな」


 再度、杖を振るい鈴を鳴らすバラッド。

 そしてこちらへ向かい、真っすぐな声で俺に問いかける。


 「私はある星を探している。

 貴殿らは『ヴィエル・マーガの星』の持ち主を知らないか?」


 「……!」


 無意識に反応してしまった。その名は祖国で幾度も耳にした名前。


 ――ヴィエル・マーガの星。

 祖国の星局曰く『マーガの星の中で、最強の星』とされる星。

 だが今代のマーガの戦いの於いては……今も行方が知れない星、の筈。


 「……いや知らない。だが何のために」


 バラッドはわずかに顔を上げた。

 盲目のはずのその目がどこか空の星の光を受けていた。


 「……会いたい者がいる。そいつは別のマーガの星の民だ。

 だが、こんな身では、なかなか人探しも容易ではない」


 その言葉には確かな孤独が滲んでいた。

 殺し合いの渦中にあっても、誰かを想い続けているのか。


 「ヴィエル・マーガの星の持ち主は、いわば調停者。

 二人の名を知り、祈りを捧げるだけでマーガの星同士の因果を操り、巡り合わせる力がある。

 だから私は――たとえそれが戦いになるとしても」


 バラッドは言葉を切り、しばしの沈黙が流れる。


 「――それでも会わねばならない者が居る」


 彼は呟いた。


 「私は、ヴィエル・マーガの星の民に我が名前を呼ばれたい。

 そして祈られたいと願っている。それがたとえ呪いだったとしても……」



 ◇ ◇ ◇

 ※カイル視点――村の灯台麓


 取り急ぎ三人で亡骸の処理を行う。

 今回の件は、彼の提案で『バラッドの仕掛けた罠により、亡くなった』という事になった。


 でなくば自分とリアナが取り調べの浮名に巻き込まれる可能性もあったから、正直助かる。

 だがこの男、何故ここまで私達に協力的なのだろう。


 そんな事を考えている俺に、このバラッドとかいう男が話しかける。


「……テオブルグ帝国の動きを耳にしたことはあるか?」


 テオブルグ帝国。

 前回のマーガの戦いに於いて自国のマーガの星以外を全て討ち取り、勝利国となった国。

 そして今代に於いては……今の所大きな動きは聞こえてはこないが、確実に何かを起こし動くであろう国。


 そう考えているとバラッドは槍の鈴を一度だけ鳴らし、そして静かに語り始める。


「テオブルグ帝国の事だ、先ずこの大陸のマーガの星の民をすべて撃つべく、そして自分達の覇権主義の拡大を目論み、この国の海洋利権に手を伸ばすべく、ここへも侵攻してくるだろう。」


 あの帝国が考えそうな事だ。

 前回のマーガの戦いの果てに覇権を拡大し、それを基に国を発展させ、更にこの大陸での力を増している。


 まだ更に自分たちの力を拡大しようと考えるだろう、あの国ならば。


 「奴らは星の民を洗い出し、名をリストに刻み、逃げおおせた者すら執念深く追うだろう。もしや貴殿らも、その名簿に既に名を連ねているやもしれぬ」

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