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ギグ・マーガの星に捧ぐ唄  作者: 改易庇護之介
第二部 二章 毒の火
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第二部 二章6『誰にも届かない祈り』

 ※カイル視点――村の灯台麓


「……リアナは、優しい。いや――優しすぎるんだ」


 構えた剣が、火傷の痛みに震える。それでも俺は、決して膝をつかない。


「俺たちの星もお前の星も……この運命そのものさえ、結局は神の気まぐれ、ただの戯れ」


 エディオルはなおも、憎しみをたたえた目で俺を睨みつけてくる。

 その傍ら、リアナは静かに息を呑み、俺の言葉を待っている。


「けれどリアナは――誰も責めなかった。ただひたすら自分を責め続けたんだ。

 与えられた星のせいで戦うこともできず、故郷では疎まれ、たったそれだけで『外れ』と呼ばれて。

 果てには『貢ぎ物』として差し出されようとしても、リアナは……決して誰かを恨んだりしなかった!」


 俺は声を震わせ、叫ぶ。


「多くの人間は、他人や運命や――神を呪わずには生きていけない。

 誰かのせいにしなきゃ、立っていることすらできないんだ。

 けどリアナは、違った。

 傷つきながらも、ただ己を見つめて、それでもなお前を向いて進もうとした。

 その、途方もない強さに……優しさに……俺は――心を奪われたんだ!」


 喉が焼けるように熱い。魂ごと吐き出すように、俺は誓う。


「神を憎まず、誰も責めず、絶望の底から何度も立ち上がるその強さ。

 俺はそんな彼女の光に救われた! だから俺は、俺が目指すのは彼女を救い出す剣――星断ちの剣!」


 剣を掲げ、誓う。

 リアナは神を呪わなかった、だから俺は……神に救いを求めない。


「俺はリアナと共に、自分達の人生を生きるのに神に許しを求めない!

 それがリアナの持つ強さに並び立ち、共に生きるための俺の誓いだ――エディオル!」



 ――シ・ジョ・マーガの星、解除。



 視線を自由に動かせるようになったエディオルは、それを確かめる様に両の掌を見つめる。

 そして視線が自由になったのを理解した後、そのまま胸元へ手をやり、小瓶を取り出し声を荒げる。


「ゆるっ……許せるわけが、無い……ッ!

 彼女は、リアナはマーガの神の名の下に僕に捧げられた、僕にしか幸せに出来ない、たった一つの宝物なんだ!」


 その両手に握られた小瓶は、そのまま握りつぶされる。

 するとその両手に、炎が燃え盛る、そしてそのまま俺の元へ駆けて来る。


「この火毒の手で、お前の顔面をそのまま焼き尽くしてやる!

 地獄の苦しみに悶え苦しめ! カイル・ノルデインッ!」


 更にその火のついた両手のまま、腰の小袋にも手をやり、握りつぶし炎の勢いを高める

 腰の袋へと手を差し込み、火薬の詰まった小瓶を探る指が震えていた。

 けれどそれは迷いではない。


 リアナを奪う、そして俺をなんとしても殺す――そんな狂気にも似た決意だった。


「リアナ、下がれ!」


 叫ぶと同時に、俺は身を投げ出す。

 すべてを守るために。


 その一瞬、後だった。



「動くな!」


 灯台の上から、何者かの鋭い声が飛ぶ。

 刹那、暗闇を切り裂くように、周囲から矢音が放たれる。


 放たれた三本の矢が、ためらいなくエディオルの身体へ飛び込んでいく。


 肩、腹、脚――正確に、致命を刻む場所。


 エディオルの体が弾かれたように後ろへよろけ、膝をつく。

 そして崩れるように地面へ倒れた。


 その眼差しは――まだ、終わっていなかった。

 歯を食いしばりながら、怒りに染まりきったその顔の奥。

 残っていたのは、どうしようもなく醜くて――そして哀しい願いだった。


 その手の炎が更に勢いは増して行き、その腕に、その上半身に火が移り、更に燃え盛る。


「どうして……どうしてああああああああああ」


 血を滲ませながら、呪うように、闇夜に投げ込まれる、エディオルの嘆き。

 すがるように。その身を地面にこすりつけるように、のたうちまわる。


「熱いッ! ぎゃあああああ、助けて、があああああ!」


 言葉は途中でかき消えた。

 それでも、最後の力を振り絞るように。


「……いやだ、リアナ、いやだ……があああ」


 それは、恨みでも、命乞いでもない。

 ただ、誰にも届かない祈りのような声だった。


 やがて、その瞳から光が消えていく。

 それを見た俺も、また静かに目を閉じる。


 風が吹いた。焼けた潮の香りが、夜の闇に溶けていく。

 血と炎の熱が、地面に染みる。


 闘いは、終わった。だがその場には、祝福も勝利もなかった。


 すると灯台から、一人の男が出てくる。

 赤いドレッドの髪。赤黒い肌に杖を携え、無言のまま、静かに。

 その足取りは静かで、まっすぐに俺たちのもとへ向かってきた。


 俺もリアナも、ただその姿を見つめていた。

 風の音だけが、耳の奥で響いている。


 だが、この胸に蠢く『マーガの星』だけはまた、瞬きを止めず、騒めいている。

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