表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギグ・マーガの星に捧ぐ唄  作者: 改易庇護之介
第二部 一章 灯される命
80/129

第二部一章4『君よ、どうか笑ったままで』

 ※カイル視点――港、早朝。



 朝の空気は冷たく澄んでいて、港の石畳を踏みしめる足音がやけに響いていた。

 日雇いの仕事は、今日も変わらず早朝から始まる。

 依頼内容は資材運び。重い麻袋とさらに重い責任を背負って黙々と働く。


 声をかけられても、なるべく目を合わせないように気をつけるのが最近の癖。


 俺のマーガの星の力――『シ・ジョ・マーガの星』

 他者の視線を捕らえ、その後その他者の呼吸を捕らえる星。


 それが不用意に発動しないよう、俺はいつだって視線の制御に意識を割いている。


「なあ、聞いたか? 昨日の話……」


「変な話だよな。商店街で二人の男たちが、道端で急に苦しみ出して、その後に原因不明の高熱と神経の痙攣で死んだってさ」


「何かの持病が悪化したとか、そういうのじゃねぇのか?

 まあ、何にせよ気味が悪いな」


 周囲のざわめきが、何やら騒がしい。

 しかし、内容的に俺には関係の無さげな話だ。


「カイル、そっちのロープ運んでくれ!」


「了解だ」


 黙々と手を動かす。

 この時間は好きだ。余計なことを考えずにすむから。



 ◇ ◇ ◇


 昼になり、ひとまず作業が中断された。

 俺はいつも通り一時帰宅し、敷地の門扉を開けると――


 敷地の庭先で、シーツを広げ干しているリアナの姿が目に入る。


 日差しの下で布を広げる動作は、なんというか……妙に、可愛い。

 無防備に見えて、実際は計算しているわけじゃないんだろうけど可愛いの権化だ。

 俺の胸の奥がじんわりと温かくなる。


「あ、おかえりカイル。お昼できてるよ」


 その一言に思わず笑みがこぼれる。食卓に並んだ料理。

 どうやら指先を切った傷が、完全に癒える迄は惣菜屋のものらしいが、きれいに盛り付けられていて、リアナの几帳面さが感じられる。


 几帳面さも可愛い、そして可愛いの権化、つまりゴンゲーだ。


 静かな昼。柔らかい風。そこに居る彼女。

 この幸せが、ずっと続けばいいと思った。




 ◇ ◇ ◇


 食後、再び午後の仕事の為、港に向かう道すがら、俺はまた何時の間にか移動した港を探している。


「……またか」


 慣れたように、海の匂いを頼りに港を探し、歩き始める。


(まあ、遅れなければいい)


 そんなことを思った矢先、胸の奥に奇妙なざわめきが走った。

 胸じゃない……星だ。俺の中の星が、何かに脈打つように揺れている。


 理由もわからず、ただ“何処かへ急がなければ”という感覚だけが強くなる。

 その時だった。道の反対側を歩く一人の男と、すれ違う。


 黒いフードに黒い服。

 まるで影のようなその存在は、すれ違った瞬間に風も、何も巻き込まないまま、俺の視界の風景から消える。


 何者か――思考がそこに至る前に、ふと昼に見たリアナの姿が脳裏に浮かぶ。


(……俺は、守れるのか?)


 頭を振って、自分を落ち着かせる、気づけば港に到着していた。

 時間にも、どうやら間に合ったようだ。


 ◇ ◇ ◇

 ※カイル視点――港、夕刻。


 日が傾きかける頃、その日の作業が終わる。

 俺は支給された日当を受け取り、労働者たちに軽く会釈しながら港を後にした。


 石段を上り、見慣れた道を通って自宅へ向かう。

 無事、自宅にたどり着き、玄関前に立ちノブに手をかけようとした瞬間――


 あの時の、日中全身を駆け巡った、あの違和感がまた襲ってくる。

 鋭く、深く、脊髄を駆け上がるような寒気。


 急いでドアを開ける。


「あ、カイルおかえり。今日は迷わなかったんだね、良かった」


 台所から聞こえるリアナの声に、一瞬気が抜ける。


「……あ、ああ。当たり前だ。俺がリアナまでの道を間違える訳が無い」


「もう、馬鹿言ってないで。先に湯あみして、着替えも用意してるあるから」


 普段通りの声、普段通りの笑顔。

 だが、俺の背中にはまだ、あの冷たさが張りついていた。


 ◇ ◇ ◇

 ※黒服――港町、夕刻


 黒服の男が、田舎町の通りをひとり歩いている。


 日暮れどき。仕事を終えた労働者たちが三々五々、他者との笑い声や雑談、愚痴、ため息と共に家路につく中、彼だけがその流れに逆らうように歩を進める。


 店仕舞いを始めた商店の灯りが次第に消え始め、それと反し酒場の灯りがともされる。

 その灯りの煌めきが、黒服の足元にぼんやりと影を落とす。


 音も立てずに周囲とすれ違っていく黒い影。

 誰も気に留めることはない。けれど、その空気だけが、どこか異質。


 黒いフードの奥、わずかに唇が動く。


「……リアナ。君に、会いたかった」


 その呟きは、誰にも聞かれず、夜のざわめきの中に溶けていった。

 夜の気配が、そこに影を落とした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ