第二部 序章2『動き出す星々:シ・ジョ・マーガの星』
※カイル視点――崖下の川辺
焚き火の明かりがわずかに揺れている。
小さな炎を挟んで毛布にくるまり、少し離れた隣で眠る彼女の寝息を聞きながら、静かに漏れる声。
……炎のぱちりという音が、小さく耳に響く。
今の俺の手の中には、何もない。
ただ、夜気の中で微かに温もりを持つ焚き火。
その向こうに毛布にくるまったひとりの少女。
リアナ。
整った眉の弧も、眠っている時の口元も普段よりほんの少し無防備で、安心しきった呼吸が一定のリズムで聞こえる。
寝息ひとつ。なんでこんなに静かでやわらかいのか。
俺の中のマーガの星は、未だに胸の奥で脈を打ってる。
得体の知れないまま、俺の内側から『お前の役目はそうじゃない』って勝手に熱を持つ。
この命の中心に俺の意思はどこまで貫けるのか。
そんな問いをもう何度もしてる。
でも――。
この世界にたった一つだけ信じていいものがあるなら、その答えはたぶん目の前で寝息を立てている。
こんな風に何かを守りたくなるなんて。
この胸の星が、どんな運命を引き寄せようと――。
彼女だけは目を逸らさずにいてくれると、どこかで確信している。
それが信仰か、希望か、それともただの甘えなのかはまだわからないけれど。
何度も祖国で言われ続けた言葉。
『君のマーガの星は他のマーガの星と引かれ合い、そして殺し合う』
でも俺は、今この彼女の寝息に惹かれている。
無様な星だ。ざまあみろ……単純にそう思えた。
「……あれが、始まりだったんだよな」
そして過去の自分を思い出す。
◇ ◇ ◇
※カイル視点――エルストラン王国 故郷の村、過去回想。
星読みの詠唱と共に空が光る。
白い光の筋が空を裂いて、真上で止まる。
まるで静かに吸い込まれるように、その光は俺の胸へと流れ込んできた。
痛みも温かさも感じなかった。
ただ、何かが胸の奥に根を張った感覚だけ。
周囲がざわめく声が、俺の耳に入る。
「選ばれた」「特別な星だ」と誰かが言ったような声が聞こえる。
けれど、俺には何も響かない。
それは祝福とは違う、得体の知れない侵入だった。
視界が白で満たされ、俺の世界が音を失っていく。
静止した空間の中心に光を纏う、白いローブの少女。
表情がなさすぎて、逆に完成されているとすら感じるような。
しかしその目には何も映っておらず、息づかい、命の気配すら感じない。
その存在はただひと目で『神、若しくはそれに近しい何か』だと感じた。
『あなたに、星が降りました』
無機質な言葉が、脳に直接届く。
祝福でも感情でもない。命令のようにただ事実が伝えられた。
『この星は、あなたに恩恵を与えます。視ること、呼吸すること。
あなたが望めば、それらを縛ることができます』
彼女の言葉は、鋳型のように感情の余地を残さない。
『あなたの中の意志がそれを支配する』
最後の一言が落ちたあと、少女の姿は霧のように消えた。
残されたのは、胸にずしりと居座る『何か』だけ。
「……カイル・ノルデイン」
背後から重苦しい声で自分の名を呼ばれ、そのまま俺はゆっくりと振り向く。
その声の主は村の神父。聖書を小脇に抱えたまま、俺の方を真っ直ぐ見ている。
「カイル……君の星は、その……少し特殊なのだ。
後日、王都で正式な記録と判断を受けることになる」
その言葉に、意味も解らず、俺はただ頷いた。
何も言わなかった。いや、言えなかったのだ。
すでに胸の中に根を張った星が、呼吸と重なり始めている。
命の内側にある何かが、誰かの息づかいを探して蠢くかのように。
◇ ◇ ◇
※カイル視点――崖下の川辺
今、焚き火の前で寝息を立てるリアナを横目に、俺は再び空を仰ぐ。
あの日と同じ星がまだそこにある。
だがもう、あれは俺の進む道を照らすものじゃない。
俺の『シ・ジョ・マーガの星』
そしてマーガの戦いの運命に誘われ、世界中の他のマーガの星を消し去る宿命を背負う星。
その……運命の夜空の下、俺は傍らに眠るリアナの寝顔を眺める。
――世界中のマーガの星を消し去る宿命。
そんな宿命を背負った俺は自分の内側に降りた星に、語る様にこう呟く。
「この星に抗い続けてやる。生きるために」
ただ、それだけが今の俺にできる答えだった。
〇第二部登場人物一覧
第二部:主役コンビ
【エルストラン王国】
名前:カイル・ノルデイン
所属国:エルストラン王国
年齢:16歳
髪の色:金髪ロング(後ろで束ねている)
体型:細身で騎士体型
一人称:俺
性格:誇り高い堅物だが、リアナにだけ過剰に情緒的。ほんのりヤンデレ。
備考:方向音痴、むしろ方向狂気。
星の名:シ・ジョ・マーガ
恩恵の内容:対象と視線を合わせることで、その視線を固定・拘束することができる。
視界固定後、呼吸を同調させることで、相手の呼吸を『乗っ取り』操作することができる。
極端な使用例として、相手の呼吸を止めさせ、窒息によって意識を落とすことも可能
※ただしカイルも呼吸を止める必要あり
ただし、呼吸を捕まえる為には、先に視界を固定する事が先。




