第六章2『……教えてあげないっ』
※ルーシェ視点――マクガイア王城、廊下。
私室に近い会議室の外、一応城内だし私が先導する形で次の目的地へ歩く。
ラスティーナ王女……やっぱり凛としているわね。
これがシルバーの前だと途端に挙動不審の脳内子持ちって。
いや待って、そもそも脳内子持ちなんて言葉は無い。
だめね……あのバカ銀と付き合い長いと変な言葉ばかり考えちゃう。
ってそんな事を考えながら歩いていると、不意に後ろから、王女のほうから声を掛けられる。
「……大丈夫でしょうか」
「何がでしょうか? ラスティーナ王女」
「あのミルカ……とかいう女性の件ですわ」
ああ……確かに。
本来今日は、あのアスプレディア共和国との会合を兼ねての場。
今代のマーガの戦いに於いて、同盟若しくは協力体制を組むための協議、という場だった訳だしねえ。
「……シルバー様と、その……」
きっとシルバーが国際的な犯罪や何かに該当しないかの心配かしら。
でも確かに……あいつの意図は判らなくもないけど今回の事は、大きな話になりかね――。
「ね、ねんごろーになったりしませんでしょうか!?」
……何か聞いた事もない言葉が出て来たわ。
もはや王女の脳内は、かなりの量を銀色成分で締められて――
……って落ち着きなさい、ルーシェ。
何なのよまったくもう、そもそも銀色成分なんて言葉は無いわ。
シルバーと行動共にする様になってから、どうにも妙な言葉ばっかり浮かぶわね。
まあいいわとりあえず、聞き間違いじゃないかどうかだけ確認しないと。
「ね、ねんごろ―? あの、男と女が懇ろってこと、でしょうか?」
「ねんごろーです!」
聞き間違いじゃないかぁ……そっかぁ、大丈夫かしらこの国。
あたしは周囲をゆっくりと見渡す。
うん、誰も居ないわね。さて――。
とりあえず何時ものシルバーへの突っ込み30分の1。
それを意識しながらラスティーナ王女の頭部へ手刀をかます。
「ていっ――」
「――ぱうッ! な、何ですかルーシェさん! いきなり私の頭に手刀など!」
「はぁ、あのですね……あー口調がもう面倒。
まあ今は周囲に誰も居ないし……いいか。
シルバーはあの子とどうこうは、無いわよ」
「で、でも……」
何かもにょもにょ零しながら、王女は両手の人差し指と人差し指がちょんちょんしている。
何なの……この可愛い生き物。
下手すりゃ近いうちに脳内で孫が出来る勢いのくせに。
でも……教えてあげても良いけど説明が難しいのよね。
あの子は。あの『ミルカ』って子は……救えなかった過去の十歳のシルバー。
あの頃のシルバーが、そのまま大きくなったら多分あんな感じなんだろう。
このラスティーナ王女やナディアさん、そして普段は厳しいけど、アラン王。
そんな人たちが、そんな優しい人たちが今のシルバーを作った、作ってくれた。
そういう意味ではシルバーは幸運で彼女は……運が無かったのかもね。
まあ、そんなあの多感な十二歳からの四年間、私はシルバーに会えなかった訳だけど。
……そう考えると何か腹立ってきたわ。
「えっと、あの、ルーシェさん?」
「……ふんだ、教えてあげないっ」
「えーっ! ちょ、あのルーシェさん!」
とりあえず今の所、あたししか知らない過去のシルバー。
それはそれで、大事なあたしの宝物、だから頑張んなさいシルバー。
あの時たった一人、手探りで自分の居場所を何とか作ろうと必死だった貴方。
一人薄ら寒い笑顔を張り付けただけの……彼女を、そして自分を救ってあげて。
銀月の日刊二つ名さん。
「行きましょうか、ラスティーナ王女」
「もう! ちゃんと話してくだ、さいっ――!」
「――ぐえっ! って、か、髪引っ張らないでくださいよっ!」
「ちゃんと教えてくれるまで離しませんッ!」
「何でよッ! 嫌よ! 本人に聞きなさいよぉー!」
――あの子は誰の手も握り返さなかった、助けを求めなかったあの日のシルバー。
多分彼女に必要なのは温かい微笑みでも、優しく抱き締める事でも無い。
きっとそれは、たった一つの事。
それは世界中に『最低』と呼ばれた彼女が、それでも『居ても良い場所』
――でも、間違いなくあの桃色頭は性格は悪いわね、これは間違いないわ。
「ちょっともう! 引っ張らないでよ!」
「やです! 教えてくれるまで離しません!」
ふんだ、いいわ。私にしか知らないシルバーも沢山いるもの。
例えば……シルバーは昔、一時期あの長い髪を編み込みしていた時期があるとかね。
……って何か色々あたし、くっさい事考えてるけど……きっとまだシルバーは今も、過去の自分を重ねた、あの子の鼻の穴に指突っ込んでるんじゃないかしら。




