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ギグ・マーガの星に捧ぐ唄  作者: 改易庇護之介
第三部 三章 交差する銀と金
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第三部五章1 『眩い月の下で』

 ※カイル視点――ハルメリオス騎士国、山間の広場


 ――あれから一か月。

 俺たちは未だこの国、ハルメリオスに身を置いている。


 団長・ミルカ 対 この俺、カイル・バラッドによる二対二の戦い当日。


 結局のところ、今回の一件はあくまで私闘にすぎない。

 だが不思議なことにこの国、ハルメリオスはこういう類の手合わせを好むらしい。


「娯楽が少ないからな。それに……ディオンが命を賭して守った男、それを証明してみろ」


 この戦いに至る前、俺にそう告げたのはハルメリオス騎士国、王女セリア。

 その瞳は鋼のように揺るぎなく、俺の胸に更なる重みを背負わせる。




 夜、街から少し離れた山間の広場。


 街を離れた山間の広場に篝火が焚かれ、赤い炎が地面を染めていた。

 炎に揺れる俺たちの影。その輪の外に、騎士たちがずらりと並んでいる。


 さすがに一般市民を呼ぶことはなかったか。確かに星を賭けた戦いを見世物にするわけにはいかないし、更に俺達四人の手の内を他国に露わにすることは無い。


「カイル、調子はどうだ?」


 背後から声が飛ぶ。振り返らずともわかる。

 赤髪のドレッドをなびかせる戦友――バラッド。


「悪くない。だが……お前も無理はしないようにな」


 そう返すと、バラッドは口の端に小さな笑みを浮かべた。

 そのまま肩を揺らしながら呟く。


「……ちなみに、ミルカ嬢。団長は、どこにいる?」


 振り向けば、篝火の揺れる影の中で、二本の短刀を弄びながら座っている者がいる。


 エセイ・マーガの星の民――ミルカ。


 篝火の影に小柄な人影。

 二本の短刀を弄びながら腰を下ろすエセイ・マーガの星の民――ミルカ。


 その立ち居振る舞いはどう見ても少年。

 疑問を含んだ視線をバラッドへ送ると、槍の柄で太ももを軽く突かれた。


「……黙っていろ」


 言葉の代わりに放たれた合図。

 ミルカは短刀をくるりと回し、篝火に照らされた顔をこちらに向ける。


「さあね。あのバカ銀のことだから、どうせ派手に登場しようと企んでるんじゃない?」


 その声音に、俺は思わず深く息を吐いた。

 今宵はあの銀の団長に俺達の価値を、そして意志を見せる場所なのだから。


 油断など出来るはずもない。



 ◇ ◇ ◇


「……来たようだ」


 それから暫く後、バラッドの低い呟きが俺の耳をかすめた。

 彼の槍の柄が静かに持ち上がり、鈴の音と共に丘の頂を指し示す。

 

 そこには眩い程の光を放つ、満月。


 その下に立つのは一頭の黒馬。

 たてがみを夜風に揺らし、月光と篝火を背に影を落とす。


 馬上には一人。

 黒い海賊帽を深く被り、闇色のマントを翻し、赤い手袋をつけた男。

 背を向けた姿勢のまま、肩越しにこちらを覗く銀の長髪。



 シルバー――銀月旅団の団長。

 星と星を繋ぐ、星の港構想を掲げる男。


 夜を背景にしたその立ち姿は、思わず息を呑むほどに美しい絵のようだった。


「フッ……どこから落ちてくるわけでもなく、ただ丘に突っ立つだけか。なら、一つ試そう」


 バラッドは槍の石突で地面を軽く突いた。

 その合図に応じるかのように、森の影から一斉に矢が放たれる。


「っ……!」


 矢羽の唸りが夜気を切り裂き、赤い流星の群れを描きながら丘へ走り出す。

 無数の光の筋が丘の頂を射抜こうと迫る。


 シルバーが片手を掲げる。


 その瞬間、その赤い手から闇を裂くような紅色の糸がほとばしり、月明かりを纏い、無数の糸が宙を奔る。

 その紅は蜘蛛の巣のように張り巡らされ、夜空を覆っていった。


「……あの糸で矢を弾くつもりか!」


 俺は思わず声をあげた。

 幾多の流れ星を囲う様に、紅の糸は夜空に走り出す。


 矢は糸に触れた瞬間に吸い込まれるように逸れ、そのまま――団長の元へ。




「ギャアアアア! ササッタァァァ! イタァイ!」




 ――矢は、紅の糸の間をすり抜けるように、団長の身体に真っ直ぐ飛び込んでいった。


 丘の上で団長が絶叫し、馬から落下し、そのまま地面を転がっている。

 それと同時に白い蒸気がもうもうと立ち昇り始めた。





「……団長は、その、何がしたいのだ?」


 バラッドが眉をひそめ、思わず俺に問いかける。


 俺も返す言葉が見つからなかった。

 ふと横を見ると、ミルカが額に手を当てて深い――思考の海に潜っている。


 なるほど……これはもしや。


「……何と言う恐ろしい男だ」


 思わず、そんな言葉を俺は口にしていた。


「バラッド、やはりシルバー団長は油断ならない!

 あの男は己の身に矢を受けてまで、茶番を演じシリアスモードに至らぬよう徹底しているぞ。油断するな!」


 真剣に告げると、バラッドは一瞬沈黙し、そして静かに頷いた。


「……ああ、君はそれで良い」


 淡いため息を零す彼に、逆に不安が募る。


「……何か、このボケ金とあのバカ銀、絡ませちゃダメな二人の気がする」


 ミルカのぼやきが、篝火の揺れる夜に溶けていった。


 どういう意味だ?

 そんな風に首を傾げる俺、しかし丘のほうへ一人の農夫らしき青年が走っていく。



「ああっ! 牛舎からワシらのウシ達が脱走して暴走しとる!」


 ずどどどどどどど。


 どこからか急に現れた数十頭もの暴れ牛らしき集団が丘の上へ走っていく。




「ウォォォ! ナンデ コンナ トコロニ ウシガァァァァ!

 ギャアアアアア! ツノガァ! ツノガァァァァ! タスケテ! ママー!」




 ……何という恐ろしい星、ギグ・マーガ。

 これ程の覚悟を持ってしか、扱えぬ星なのか。

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