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ギグ・マーガの星に捧ぐ唄  作者: 改易庇護之介
第三部 三章 交差する銀と金
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第三部四章7 『理解させられぬ者』

 ※スノウリーフ王視点――王城にて


「……真か? その話」


 思わず口にした言葉と、胸に広がった感情が重なった。

 報告を聞いた瞬間、我が耳と意識を疑った。


 ――『ライラ・ドカユラ公国率いる三国連合、全滅』。


「詳しく状況を聞かせてくれ」


 声を震わせぬよう努めながら、伝令へ問い直す。


 彼の言葉は、更に信じ難い内容だった。

 三国まとめて百名ほどの兵を擁し、ライラ・ドカユラ公国を先頭に一列となり、国境を越えてこちらへ侵攻を開始した。

 その最中、雨が降り始めた。


 そして――。


 その雨脚が侵攻の列に重なった瞬間、先頭から末尾までが、その雨脚の流れに沿う様に、赤く染め上げられた。

 その赤と同時に叫び声を上げ、そして崩れ落ち、百の兵は一斉に絶えたという。


「……馬鹿な」


 我は思わず呻く。

 さらに続いた報告は、疑念を深めるばかりだった。


 事後を確かめるため、一時間を置いて配下を現地に送った。

 そこにあったのは、荒れた雪原。

 雨に打たれて一部は溶け、また冷気に晒されて凍りつき、汚れた雪がまだらに広がっていた。


 しかし、亡骸は確かに残されていた。

 全ての死体に共通していたのは――全身を幾本もの「何か」に貫かれた痕跡。

 槍か、矢か、あるいは未知の力か。


 ただ一つ確かなのは、三国連合が文字通り壊滅したという事実。


 さらに報告は続く。

 その中には、三名のマーガの星の民と思しき、若い青年三人の遺骸も含まれていた。


 私は沈黙し、額を押さえる。

 外の雪嵐の音が、やけに遠く聞こえた。


「……今すぐ、カーヤを呼べ」


 低く命じる。この国の怪物と呼ばれる少女。

 彼女に問わねばならぬ。


 これは偶然か、それとも必然か――。



 ◇ ◇ ◇


 目の前に立つ少女――カーヤ・キヴユ。

 相も変わらず、視線は窓の外や壁の隅へとさまよい、時おりだけ我を見据える。


「カーヤよ、此度の件……お前の仕業か?」


 問いかける声は自然と強張った。


「……此度? どの事?」


 とぼけるでもなく、本気でわからぬ風情。

 我は思わず机を叩いた。


「三国、百もの兵が一日にして全滅したと報告があった! 応えよ、何をした!」


 彼女はわずかに瞬きをし、「ああ、そのことか」とだけ。


 そして語り始めた言葉は――我にとって、まるで違う世界の理のように響いた。


 彼女はまず、この城の周囲の地面を「冷やす」と言った。

 毎日少しずつ、土に蓄えるように冷やす。

 それは目に見えぬまま積み重なり、やがて春の兆しを裏切る冷気の層を作るのだと。


 さらに彼女は、常に空いた時間、空を観測し続けていた。


 過去数十年の気候と風の記録を頭に並べ、山や谷が風をどう導くかを読み取りながら。

 そしてその流れに合わせ、冷気の柱を何本も立ち上げた。

 日を追うごとに高くし、ついには空の高みへと達せしめる。


 地表に溜まった冷気は土の中で水気を溜め込み、上空に漂う季節変動による暖気との差から、やがて強烈な上昇気流を生む。

 湿り気を帯びた空気は一気に凍り、氷の粒となって膨れ上がる。

 何度も風に持ち上げられ、層を重ねたそれは巨大な雹となり……さらに急激な冷却と風の削りが、氷塊を細長く、槍のように削り上げるという。


 そして彼女は、更に以前よりこの流れを見越し、様々な情報で敵を誘導した。

 虚実を織り交ぜた報を流し、狙った経路を選ばせる。



『この国の幼い何も出来ない少女に、最強の星ヴィエル・マーガの星が降りた』



 しかもこの貧しいスノウリーフという国で、何もまだ判らぬ幼い少女。

 三つの隣国が、喉から手が出る程欲しがる宝という囮に変え、雹が落ちるべき場所と時を、敵自らに踏ませたのだ。


 これらの虚構に満ちた情報。本当の彼女、カーヤは……ホラ・マーガの星。

 冷気を作り、命を凍らせる恩恵を持つ、ただの星なのにである。



 我はただ呆然と聞き入るほかなかった。

 嘘の情報を流し、気候を操り、雹を槍と化し、軍を丸ごと葬る。

 それはもはや人の業を超え、神の所業に等しかった。


「……候補は六つ。他の経路にも落ちているはず。

 多分もう溶けているけど」


 無機質に告げられた言葉のすぐ後、別の報が駆け込んできた。


「報告! ち、近隣の村が……総勢二十八人ほどの小村ですが、三国連合と同じように……全滅とのこと!」


 我は絶句した。


「か、カーヤ……お前まさか……そこに村があると知らなかったのであろう!?

 そうであろう!? こ、答えろカーヤ!」


 我の叫びに、こちらに一瞥をくれる事も無く、ただカーヤは天井を仰ぎ見たまま、何でもない調子で淡々と。


「ただの候補。略奪するなら、そこを通る可能性もあった」


 略奪――つまりカーヤは『そこに村がある事を知っていた』という事を示している。


「国王……貴方は自分に星が降りる前に、三人の子に手をかけた」


 ぴしりと王座の間に緊張感が走る。

 周囲に控える者達の手に、力が籠められる。


「この国の総人口、30,239人のうち、3人。

 約0.01にて命を比率化した。私は30,239のうち、28人。約0.09。

 つまりこの国の命一つの価値は――」


 既に我の耳に、カーヤの言葉は届いて居なかった。

 いや、届いてはいたが『理解』が出来なかった。

 そんな我の表情を目にし、カーヤはふと口をあけ、言葉を止める。


 だがその後に出て来た言葉は、我の思考を更に混乱させた。



「……あ、こういう時は悲しい表情でため息を零すべきだった。

 こういう時の、さじ加減は少し苦手」



 我は、かつて己が吐いた言葉を思い出した。


 ――『己の振る舞いを説明できず、理解させられぬ者こそが悪だ』


 彼女は説明している。理路整然と、隠し立てもなく。

 だが我を、そして周囲を説き伏せようと、理解をさせようとはしていない。

 ただ「事実」と「手順」を並べるだけ。


 それらの行いに、一辺の欲が無い。

 苦悩が無い、後悔も反省も、罪悪感も……そして勝利への喜びさえ無い。


「怪物」


 いや、怪物や悪魔にだって勝利への喜びや、事がうまく運んだ際の喜びはあるであろう。

 これは、この目の前にいる、者は……一体何なのだ。




 我は何か、恐ろしい者と対峙しているのではないか。


 ◇ ◇ ◇


 ◆【スノウリーフ王国】

 ◆カーヤ・キヴユ

 年齢:13歳

 身長:143cm

 髪の色:白色(腰くらいまでのロングヘア)

 瞳の色:薄灰色

 体型:細身で小柄

 ファッション:白い長そでのローブ、白のロングスカート

 一人称:自分

 星:ホラ・マーガの星


 星の恩恵:周囲の温度を下げる事が可能、それがスノウリーフという場所で有れば人を殺す事が出来るほどの温度に至らすことも可能。

 ※普通の夏や気温が普通の場合は、少し凍える程度で季節に依っては戦いに向いていない。

 性格:無表情、そして口数は少ない。産まれてからの記憶が全てある。


 スノウリーフ星局や周囲の人の評価は『天才』であり『怪物』



 ◆アルゴ・スノウリーフ

 年齢:68歳

 身長:163cm

 髪の色:白色、オールバックの首にかかる程度の長さ

 瞳の色:黒色

 体型:細身で小柄

 ファッション:簡素な王宮服(国家として貧しい部類の為)

 一人称:我

 性格:無表情、寡黙だが眼力は強い。弱小国の為、自国の為なら他国に頭を下げる事もやぶさかではない。

 我欲に乏しく、常に自分の国を思っている。



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