↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白騎士様のパンツが黒だったので婚約破棄します。~これはもはや国家反逆罪にあたりませんか?~  作者: ブヒ太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/9

第四幕:白騎士と黒の信条

 国王陛下から白騎士様との話し合いを命じられた私は、国境付近にある小さな村を訪れていた。

 聞くところによると、国外追放となった白騎士様は、この付近に現れた魔獣の群れを討伐し、村人たちを救ったらしい。


 まったく……。

 あの方は昔からそうなのです。

 困っている人を放っておけない。

 それが、たとえ自分を追放した国の民であっても。


 ……まぁ、おパンツは黒ですけれど。


 そんなことを考えながら村の広場へ足を運ぶと、見覚えのある姿が目に入った。

 白騎士様だ。


 以前と何ら変わらぬ凛々しい顔立ちで、村の中央に佇んでいる。

 あの純白の鎧こそ身につけていないものの、堂々とした立ち姿は昔のままだった。


 しかし、その周囲には……。


「騎士様! 今日のお夕食はぜひ我が家で!」

「いえいえ! 昨日はそちらでしたでしょう? 今日は私の家です!」

「騎士様ったら、本当にお強いんですもの!」


 ……何ですの、これは。


 白騎士様を取り囲むように、村の若い女性たちが集まっているではありませんか。

 しかも、当の本人は満更でもなさそうな顔をしている。


 私という婚約者がいながら、なんということでしょう!

 ……いえ。

 もう婚約は破棄したのでしたわね。


 ですが、それとこれとは別問題です!

 私は静かに歩み寄った。


「……良い御身分ですわね、白騎士」

「……む?」


 白騎士様が振り返った。


「おや、エレオノーラではないか。こんなところまでどうした?」

「どうした、ではありません!」


 私は周囲の女性たちを一瞥した。


「私というものがありながら、村の娘っ子とちちくりあうなんて!」

「……仕方あるまい」


 白騎士様は涼しい顔で答えた。


「なんせ俺の下着は黒なんだからな」

「…………」


 …………。


「何が仕方ないんですの!?」

「黒だからな」

「説明になっておりませんわ!!」


 白騎士様は不思議そうに首を傾げた。


「しかし、お前は俺との婚約を破棄したのではなかったか?」

「……っ!」

「おまけに国家反逆罪で国外追放までしてくれた」

「そ、それは……!」

「ならば、俺が誰と親しくしようと自由であろう?」

「…………」


 ぐっ……!

 た、確かに……。

 ですが!


「……節操というものがございますでしょう!?」

「俺は独身だぞ?」

「元婚約者への配慮というものがあるでしょう!?」

「お前は俺を国外追放したぞ?」

「……ぐぬぬぬ……!」


 こ、この男……!

 いちいち正論で返してくるなんて!


 すると、隣にいた村娘が、おずおずと口を開いた。


「あの……騎士様。この方は?」

「元婚約者だ」

「えっ!? あの、パンツの色で騎士様を追放したという!?」

「…………」


 私は固まった。


「……有名なのですか?」

「はい! 騎士様から伺いました!」

「……何を?」

「黒いパンツを履いていたら、国家反逆罪になったって!」

「…………」

「みんなで大笑いしました!」

「笑い事ではありませんわ!!」


 私の叫びが村中に響き渡った。

 だというのに、白騎士様は平然としている。


「まぁ、そう怒るな。せっかく来たのだ。茶でも飲んでいけ」

「……っ!」


 その言葉に、思わず胸が高鳴った。


 ああ……。

 やはり、この方はお優しい。

 私がどれほど酷い仕打ちをしたというのに、こうして気遣ってくださるなんて……。


「……仕方ありませんわね」


 私はそっと髪を整えた。


「そこまでおっしゃるなら、お付き合いして差し上げても……」

「おーい! 皆の者! 元婚約者が来たから茶を用意してくれ!」

「元を強調しなくてもよろしいでしょう!?」


 まったく!

 本当に、昔から変わらない方ですわ!


  ◇

 それからしばらくして、私たちは村の一角にある小さな食堂で向かい合っていた。


「どうぞ、お茶です」

「……ありがとう」


 村娘から差し出された茶器を受け取り、そっと口をつける。


 ……少し苦い。

 けれども、香りは悪くありませんわね。


 白騎士様も茶を一口飲むと、静かに私へ視線を向けた。


「それで、俺を追ってきたのはどういう了見だ?」

「どうもこうもありませんわ。陛下が一度あなたと話し合ってこいと言うものですから、渋々来たまでです」

「……なるほど」


 白騎士様は手元の茶器を見つめた。


「この渋茶にかけて渋々か。面白いことを言うじゃないか」

「……どこがだ……」

「ん?」

「……いえ、何でもありませんわ」


 危ない。

 あまりにくだらないことを言うものですから、思わず素が出てしまいました。


「しかし、わざわざ国境まで来るとはな。俺に会いたかったのか?」

「なっ!? そ、そんなわけありませんでしょう!」

「そうか」

「そうですわ!」

「ならば、茶を飲んだら帰るといい」

「…………」


 …………。

 なんですの、その態度は。


 もう少しこう、引き止めるとか、久しぶりに会えて嬉しいとか、何かありませんの?


「……白騎士様」

「なんだ?」

「あなた、本当に私が帰ってもよろしいのですか?」

「ああ。日が暮れる前に出たほうがいい。山道は危険だからな」

「…………」


 そ、そういう意味ではありませんわ!!

 私は苛立ちを抑えながら、茶器をテーブルへ戻した。


「……一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか」

「なんだ?」

「……なぜ、そこまで黒にこだわるのですか?」


 白騎士様は、しばらく黙って私を見つめていた。

 そして、改まった様子で口を開いた。


「……黒は良い」

「……はい?」

「何者にも染まらない色だ。俺の信念と通じるものを感じる……だから、俺は下着は黒がいいんだ」

「……信条……ですか?」

「ああ」


 白騎士様は静かに頷いた。


「俺は、この国の人々の盾となりたい。その信条を、誰にも汚すことはできない。それは、たとえお前でもだ」

「…………」


 思わず、言葉を失った。


 この方は……。

 国家反逆罪という汚名を着せられてなお、民を守ろうとしている。

 称号を失い、故郷を追われても、その信念だけは決して曲げない。


 ああ……。

 やはり、この方は……。


「……ご立派な考えですわね……」


 私は、素直にそう口にしていた。

 白騎士様は少し照れくさそうに笑った。


「まぁ、変な黄ばみとか付かないから良いってのもあるが」

「はいっ!?」

「冗談だ。白騎士ジョークってやつだ」

「…………」


 私は、しばらく白騎士様の顔を見つめた。


「……あの」

「なんだ?」

「……せっかく感動していたんですけれど」

「そうか。それは悪いことをしたな」

「本当ですわよ!」

「まぁ、俺も元白騎士だからな」

「……それが何か?」

「少しくらい黒い冗談も言わせてくれ」

「…………」


 私は静かに茶器を持ち上げた。

 そして、渋茶を一口飲んだ。


「……帰ってよろしいですか?」

「まだ来たばかりじゃないか」

「あなたが帰りたくさせたんでしょうが!!」


 まったく!

 この方は昔から、人が真面目に話しているときに限って、ふざけたことを言うのです。


 それでも……。

 先ほどの言葉だけは、どうしても頭から離れませんでした。


『俺は、この国の人々の盾となりたい』


 その信念は、追放された今も変わっていない。

 あの方は、今もなお白騎士なのです。


 ……おパンツは黒ですけれど。


 私は、目の前で呑気にお茶を飲む白騎士様を見つめた。

 そして、胸の奥に芽生えた小さな疑問を、どうしても拭い去ることができませんでした。


 ……本当に。

 あの方を追放してしまって、よかったのでしょうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。