第三幕:王国最強の騎士
それから、さらに数日が過ぎた。
ある日、王宮へ驚くべき知らせが届いた。
国境付近の村に、魔獣の群れが迫ったというのだ。
しかし、村に被害はなかった。
なんと、国外追放となった白騎士様が、国境の外側から魔獣の群れを撃退したというのである。
「……まさに流石は白騎士よ。追放されてなお、我が国のために働くとは!」
国王陛下は、嬉しそうに頷いた。
「まぁ、実際は謹慎処分みたいなものですし」
宰相も、どこか呑気な口調で答えた。
「……そんな……」
私は、思わず声を漏らした。
白騎士様が……。
追放されてもなお、この国を守ってくださっているなんて……。
ああ、やはりあの方は、素晴らしい騎士です。
それなのに……。
「……でも、彼のおパンツは黒……」
「……まだ言うか……」
国王陛下は呆れ果てた。
「……さすが公爵令嬢。めっちゃ強情ですね」
「なっ!? 宰相! あなたまで何をおっしゃるのですか!」
「いや、しかしですな。彼は追放されてなお、王国の民を守っているのですよ?」
「……それは……」
「騎士として、立派な行いではありませんか」
「……ですが、黒なのです……」
「…………」
「おパンツが……黒なのです……!」
国王陛下は天井を仰いだ。
「……なぁ、宰相」
「……はい、陛下」
「……白騎士の功績を称えて、追放処分を取り消してはどうじゃ?」
「よろしいかと。法的にも、恩赦を与える理由としては十分でしょう」
「なりません!!」
私は勢いよく立ち上がった。
「彼はまだ、黒いおパンツを履いているのです!」
「……いや、それは知らんが」
「……我々もそこまでは確認しておりませんね」
「では、確認なさい!!」
「なぜ国王が騎士のパンツの色を確認せねばならんのじゃ!?」
陛下の叫びが、王宮中に響き渡った。
しかし、私は引き下がらなかった。
国家の威信がかかっているのです。
ここで妥協するわけにはまいりません。
すると、国王陛下が何やら考え込んだ。
「……ところで、エレオノーラよ」
「はい?」
「これ、セクハラに当たるからあまり言わんほうがよいのだが……」
「……なんでしょう?」
「……そもそも、お前の下着も白なんか?」
「…………」
「その回答次第で、話は変わってくるぞ」
「…………」
私は固まった。
言えない。
絶対に言えない。
私のおパンツが、ピンクだなんて……!
だ、だって!
ピンクって可愛いじゃありませんか!
女の子なら誰だって、可愛いおパンツを履きたいものです!
それに、白だと少し地味ですし……。
いえ!
純白は素晴らしい色です!
ですが、ピンクもまた、素晴らしい色なのです!
ええ!
これは決して、私が自分に甘いというわけではありません!
「……エレオノーラ?」
「も、もももも、もちろん純白の白ですわ!! な、ななな、何を仰るのですか!? 陛下!」
思わず声が裏返った。
すると、宰相が呆れたように笑った。
「……『黒』ですね」
「……『黒』じゃな」
国王陛下までもが頷いた。
「お二人揃って何を仰っているのですか!? 女性の下着色当てゲームなど、セクハラを通り越して国家の大問題ですよ!」
「……国家の大問題ねぇ」
「……そもそも、白騎士の下着の色を国家の大問題にしたのは誰でしたかな」
「そ、それとこれとは話が違います!」
「……どう違うんじゃ?」
「心の問題です!!」
「……もう聞き飽きたわ、その台詞」
陛下は深いため息をついた。
そして、呆れたように玉座から立ち上がった。
「……もうよい。国王命令じゃ。一度白騎士と会って話してこい」
「……はい?」
「お前も、いい加減に自分の気持ちと向き合うべきじゃ。あやつは今も国境付近におるそうじゃからな」
「し、しかし陛下! あの方は国家反逆罪で追放された身です!」
「……誰のせいじゃと思っとるんじゃ」
「…………」
「大体、あやつは追放されてなお、我が国の民を守っておる。そんな男が本当に国を裏切ったと思うか?」
「……それは……」
「ならば直接会って、話してこい」
「……わかりましたわ」
私は渋々頭を下げた。
確かに、白騎士様は立派な方です。
勇敢で、誠実で、誰よりも優しい。
それは、私が一番よく知っています。
だからこそ……。
どうして、あの方は黒いおパンツにこだわるのでしょうか。
私には、どうしても理解できません。
しかし、陛下の命令とあらば従うしかないでしょう。
もう一度、お会いしてみることにいたします。
そして、今度こそ聞いてみるのです。
なぜ、そこまで黒にこだわるのか。
その理由を。
「……なぁ、宰相」
「……はい、陛下」
「……あやつ、絶対にまだ納得しておらんよな?」
「……私もそう思います」
そんな二人の会話を背中に聞きながら、私は王宮を後にした。
待っていてくださいませ、白騎士様。
今度こそ、あなたの真意を確かめてみせます。
たとえ、それがどれほど困難な道であろうとも。
私は決して諦めません。
だって、私はアルビオン王国の公爵令嬢。
純白を尊ぶ、誇り高き貴族なのですから。
……まぁ。
今日のおパンツは、ピンクですけれど。




