第四話「狩られる三番隊」
二番隊が手を引いたことで、渋谷にはつかの間の平穏が戻ったように見えた。
「ねえ、雅也くん。ゲーセン行こうよ」
放課後、亜希子と法子に誘われて、雅也はセンター街のゲームセンターにいた。
「雅也くん、あのぬいぐるみ取って!」
法子にせがまれ、UFOキャッチャーに百円玉を入れる。三回目で、アームがぬいぐるみをつかんだ。
法子が、子どものように飛び跳ねて喜んだ。
亜希子とはエアホッケーで本気の勝負になり、亜希子が勝って大声で笑った。
最後に亜希子と法子がツーショットのプリクラを撮り、シールを見せびらかしてくる。
こんな放課後が、自分にもあるのだと、雅也は思った。
帰り道。二人を送る途中の裏路地で、足音が増えた。
前に三人。後ろに二人。背中に「魔打羅」の文字。一番隊だった。
「松嶋だな。庄野さんからの挨拶だ」
雅也は、法子と亜希子を背中にかばった。
「……下がってろ」
一人目の拳をかわし、顎へ掌底。二人目の腹へ前蹴り。背後から迫る三人目を、肘で沈める。
残った二人は、顔を見合わせて逃げていった。
振り返ると、法子と亜希子が身を寄せ合って震えていた。
「法子、亜希子! 帰ったら、もう家から出るな!」
「……うん、わかった」
二人は、素直にうなずいた。
雅也の胸に、嫌な予感が広がっていた。
その予感は、翌日に現実となった。
「雅也! 匡さんたちが……!」
息を切らして駆け込んできた大樹の知らせで、雅也は路地裏へ走った。
そこに、松岡匡、白鳥優、國武達也の三人が倒れていた。
一人ずつ、別々の場所で襲われ、ここに捨てられたのだ。
「匡! 優! 達也!」
血だらけの松岡が、うっすらと目を開けた。
「隊長……すいません……足、引っ張っちまって……」
雅也は、言葉を失った。
一番隊は、正面から雅也には来なかった。
雅也が大切にしているものを、一つずつ狙ってきた。
雅也は立ち上がり、路地の壁を殴りつけた。
「狙うなら……俺だけを狙え!!」
拳から血が流れても、止まらなかった。
だが、一番隊はさらに卑劣だった。
翌朝、法子の下駄箱に一枚の紙が入っていた。
『次はお前だ』
同じ日、大樹も帰り道で一番隊の男に呼び止められた。
「松嶋が大事にしてる奴を潰せばいいんだよ。お前とかな」
自分のせいで、大切な人間が傷つく。
その恐怖に、雅也は初めて正面から向き合わされていた。
放課後の教室。雅也は、大樹たちに背を向けたまま言った。
「……もう、俺から離れろ」
「は?」
「俺に関わるな。俺のそばにいたら、お前らまで狙われる」
大樹が、雅也の前に回り込んだ。
「お前さ、守る守るって言ってるけど」
大樹の目は、怒っていた。
「俺らが何考えてるか、一回でも聞いたことあんの?」
雅也は、答えられなかった。
「俺は、お前の仲間じゃねぇ。隊にも入ってねぇし、掟も知らねぇ。……友達だ。友達だから、離れねぇんだよ」
法子も、千鶴も、亜希子も、誰も教室を出ていかなかった。
同じ頃。一番隊のアジト。
大木和也は、庄野の前に立っていた。
「松嶋とタイマン張りました。負けました。二番隊は、三番隊から手を引きます」
子分たちがざわめく。だが庄野は、怒らなかった。
薄く笑い、つまらなそうに肩をすくめた。
「使えねぇな」
大木の眉が、わずかに動いた。
「代わりはいくらでもいる。使えなくなった駒は、捨てりゃいい」
子分たち全員に聞かせるような声だった。
大木は、拳を握りしめた。
友達のために、損得なしで拳を振るう男がいる。
仲間を、駒としか思わない男がいる。
「……見損なったぜ」
大木は静かにそう言い残し、アジトを出ていった。
庄野は、その背中を見送りもせずに立ち上がった。
「松嶋雅也か。……今度は、俺自身が可愛がってやる」
(第五話へつづく)




