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真心の狼  作者: 真壁 仁
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第二話「仲間と友達



 ――それは、庄野との因縁が本格的に動き出す、少し前のことだった。


 その日、雅也はたまたま学校に来ていた。

 教室の扉を開けた瞬間、異様な空気に足が止まる。


 教室の後ろで、男子生徒三人が、法子、田端千鶴、安藤亜希子を壁際に追い詰めていた。

 一人の手には、虫かご。中で、黒いものがうごめいている。


「ほら、開けちゃうぞ~」


「やめて……!」


 床には、大樹が倒れていた。顔は腫れ上がり、それでも男子生徒の足首をつかんで離さない。

 他の生徒たちは、誰も動かなかった。


 虫かごの蓋に、指がかかる。


 その手首を、横から雅也がつかんだ。


「……あ? 松嶋? お前、学校来ていいなんて誰が言ったよ」


「お前の許可がねぇと、来ちゃいけねぇのかよ」


 次の瞬間、雅也の正拳が男子生徒のみぞおちに沈んでいた。

 二人目が飛びかかってくる。背後に回り、首に腕を巻いて絞め落とす。三人目の襟をつかみ、黒板に叩きつけた。


 教室が、静まり返った。


 雅也は、倒れている大樹に手を貸して起こすと、鞄を肩にかけた。


「つまんねぇな。帰るわ」


「待って!」


 呼び止めたのは、法子だった。


「帰らないで。……学校に、いてください」


「そうだよ、せっかく来たんだから」


 千鶴が言い、亜希子も何度もうなずいた。


 雅也は、扉の前で足を止めた。

 胸の奥に、知らない温度が灯った気がした。


 昼休み。雅也の机の上に、三つの差し入れが並んだ。


 千鶴からは、購買の焼きそばパン。

 法子からは、手作りのクッキー。

 亜希子からは、なぜか赤マムシドリンク。


「……なんでマムシなんだよ」


「元気出るかなって」


 大樹が腹を抱えて笑い、千鶴が亜希子の頭を軽くはたいた。

 雅也は、ドリンクの瓶を手の中で転がした。


 こんなふうに誰かと昼を過ごすのは、初めてだった。


 翌朝。渋谷の街には、ひとつの噂が流れていた。


 ――三番隊の松嶋が、一番隊の長谷川を潰したらしい。


 高架下の廃倉庫。魔打羅三番隊のたまり場に、三人の男が詰めかけてきた。


「隊長! 一番隊とやり合ったって本当っすか!」


 松岡匡、十七歳。白鳥優、十六歳。國武達也、十五歳。

 年下の雅也を隊長と認め、ついてきた男たちだった。


「……お前らには関係ねぇ。これは俺の喧嘩だ」


「関係ないわけないでしょう!」


 松岡が声を荒げた。


「隊長が掟を破ったら、三番隊ごと潰されるんすよ!」


 雅也は、言葉に詰まった。


 自分の正義のために振るった拳が、この三人まで巻き込んでいる。

 仲間とは、何だ。

 同じ隊にいるから一緒に戦う。それが仲間なら、大樹は何だ。法子たちは何だ。


 隊も掟も関係なく、殴られながら立ち上がった大樹の顔が浮かんだ。


 ――あれは、仲間じゃねぇ。友達だ。


 その時、倉庫の外で排気音が止まった。


 錆びた扉が開き、大木和也が入ってきた。後ろに、二番隊の隊員たちと矢沢七瀬。


 松岡たちが身構える。大木は片手を上げてそれを制した。


「庄野からの命令だ。三番隊を潰せってな」


 雅也は、ゆっくりと立ち上がった。


「……で、潰しに来たのかよ」


「俺は庄野の犬じゃねぇ」


 大木は、雅也の目をまっすぐに見た。


「お前を見に来た」


 沈黙が落ちた。


「明日の夜零時。代々木公園で、俺とタイマンを張れ」


 大木は条件を告げた。


「お前が勝てば、二番隊は三番隊から手を引く。負ければ三番隊は解散だ。庄野には、俺が潰したと報告する」


「た、隊長!」


 二番隊の隊員が、慌てて声を上げた。


「それ、庄野さんの命令に背くことになるんじゃ……!」


「黙ってろ」


 大木の一喝で、倉庫の空気が凍った。


 雅也は、大木を見据えたまま答えた。


「上等だ」


 大木は小さくうなずき、背を向けた。

 去り際、七瀬が一度だけ振り返った。その鋭い目は、雅也だけを見つめていた。


(第三話へつづく)

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