幕間その4 ロシア人の愛称、どうしてそうなるの?
ここまで読んで、「ミハイルがどうしてミーシャになるの?」「アレクサンドルがサーシャって、もう原形がほとんど残ってないじゃない」と思った方もいるかもしれません。
ロシア人の名前には、正式名とは別に、家族や友人など親しい間柄で使う愛称がたくさんあります。
しかも、日本語の感覚で「名前をちょっと短くしただけ」と考えると、かなり予想外の形になることがあります。
たとえば本作の登場人物なら、
ミハイル → ミーシャ
アレクサンドル → サーシャ
ナターリヤ → ナターシャ
ニコライ → コーリャ
となります。
アレクサンドルがサーシャになるあたりで、初見の方はかなり困惑するのではないでしょうか。
しかも「サーシャ」は男性のアレクサンドルだけでなく、女性名アレクサンドラの愛称としても使われます。
ほかにも有名な例を挙げると、
マリア → マーシャ
ダーリヤ → ダーシャ
ピョートル → ペーチャ
エカテリーナ → カーチャ
オリガ → オーリャ
タチヤナ → ターニャ
アレクセイ → アリョーシャ、リョーシャ
ドミトリー → ディーマ、ミーチャ
セルゲイ → セリョージャ
ウラジーミル → ヴォーヴァ、ヴォロージャ
ゲオルギー → ゴーシャ、ジョーラ
アンナ → アーニャ
アナスタシヤ → ナースチャ
……といった具合です。
こうなると、知らない人には「別人の名前」にしか見えないものもあります。
さらにややこしいことに、愛称にはもう一段階、二段階と親しみを強くした形があります。
たとえばミーシャなら「ミーシェンカ」、サーシャなら「サーシェンカ」といった形です。
日本語でいえば、同じ人物に対して「○○さん」「○○ちゃん」「○○っち」などと距離感によって呼び方が変わるのに少し似ていますが、ロシア語ではその変化がかなり体系的です。
一方、公的な場や目上の相手には、名前だけでなく父称を組み合わせます。
たとえば主人公のミハイルなら、
ミハイル・アンドレエヴィチ
という呼び方が、丁寧で正式な呼び方です。
つまり、
公的・丁寧 → ミハイル・アンドレエヴィチ
普通の正式名 → ミハイル
親しい呼び方 → ミーシャ
さらに親しげ → ミーシェンカ
くらいの違いがあるわけです。
本作では読みやすさを優先して、一人の人物について使用する愛称をできるだけ固定しています。
ミハイルならミーシャ。
アレクサンドルならサーシャ。
ナターリヤならナターシャ。
ニコライならコーリャ。
登場人物が増えてくると、それだけでも十分ややこしいですからね。
もし今後、「正式名と呼び名が全然違うぞ?」という人物が出てきても、作者が間違えたとは限りません。
たぶん、ロシア人の愛称です。




