カーテシー・クラブ 第1巻 あとがき 真城 悠
「カーテシー・クラブ」…なんという甘美な響きでしょうか…って自画自賛も過ぎますね。
「カーテシー」はロシア語圏では「レヴェランス」と呼ばれることの方が多いらしいのですが、要するに西洋を舞台にしたアニメやなんかでたまにみる
「スカートをちょんとつまんで持ち上げ、腰を低くするお辞儀」
のことです。正直、この「動作」に名前が付いていることも知りませんでした。
しかし、昔からその余りにも「女の子っぽい」仕草に、アニメを見ているだけのブラウン管(古いね)のこちら側にいるはずの一視聴者でありながら恥ずかしくて悶絶してしまうほどでした。
今では世界の偉人で尊敬する人ナンバーワンになりつつある(笑)、「エリザヴェータ様」ことエリザヴェータ・ペトロヴナ(1709~1762)が「男女逆転舞踏会を開いていた」…という記述を読んだのは所謂「コンビニ豆知識本」みたいなものでした。
要するに「暇つぶしで読む雑学」系の本です。
1744年位の話です。まだ写真機はありません。ビジュアルで記録に残そうとすれば「絵」でも描くしかありません。また本当に断続的にしか記録が残されておらず、開催期間や頻度なども推測するしかありません。
そして致命的なのが「絵画・肖像画・スケッチ」の類、要するにビジュアルイメージが一切残っていない事でした。文字による情報はそこそこあるんですが。
その時読んだ「コンビニ本」には「想像図」すらなく、ゴシップ的に内容を伝えているだけのものでした。非常に刺激的な内容だなあと思いはしたものの、流石にそれ以上の想像の余地もなく、記憶の隅に埋もれてしまいました。
しかし、かなり久しぶりに生成AIの手を借りて何かの調査をしていました。もう何かすら覚えていません(笑)。そこで突如としてよみがえってきたのです。
18世紀のロシアに、嫌がる部下たちに無理やり女装させ、男装した女性たちと踊る舞踏会を開催していた「女帝」がいた。
しかもかなりの頻度で長年に渡って開催していた!?
実は世界の王宮で「女装」が全く行われていなかったかというと全くそんなことは無くて、探せば幾らでも見つかります。公式の行事で派手に女装をやらかした後の王様なんて例もみつかるくらいです。
また、漫画「ベルサイユのばら」でも描かれた「バレンヌ逃亡事件」では当時6歳の王太子ルイ=シャルル(後のルイ17世)が女の子に変装して逃げた例もあります。
ただ!女帝という強権を発動し、懲罰でも身分の低い人々への嫌がらせでもなく、身分の高い男女に対し、
「嫌がってるのに無理やりドレス女装、ヘアメイクを強要し、仮面を禁止し(!!)、男装した女性たちと躍らせた」
なんて空前絶後のことをやらかしたのは、かなり調べましたが世界中でもほぼエリザヴェータ様しか出てきません。
エリザヴェータ様が直接指導したという証拠こそ出てこないものの、当時「宮廷婦人」へと仕立て上げられた男たちは、恐らくはドレスのスカートをさばく訓練や、女性的なふるまいの訓練を受けさせられたであろうと推測できるというのです。
先ほどの「カーテシー」の話を思い出していただけますか?
そうなんです!あの、余りにも少女的な、余りにも女性的なお辞儀のポーズ「カーテシー」。あれをいい年こいたおっさんや、青年貴族、そしてなんなら老練の軍人、政治家、役人までもが「無理やり訓練され、やらされていた」可能性がかなりの確率であるというんです!!!
AI作成した想像図。ドレスを着せられた男性が、「カーテシー」を練習させられているところ。
こんな光景が溢れていた!?
勿論、これがピンポイントで記録に残っているわけではありません。「〇〇の貴族の次男坊、✖✖にカーテシーを指導」とか「全員カーテシーを身に着けることを義務とする」というルールなどは残っている訳じゃないんです。
しかし、状況証拠を積み重ねると、決して荒唐無稽ではありません。かなりの確率で実際に起こったと思われる出来事なんです。
私にとっては「可能性はゼロではない」だけでも十分なのに「かなりの程度の確率でそれは起こっていた」となればもう十分なのです。
ある日突然、床を引きずる様な巨大なドレスに身を包んだ「宮廷婦人」に「本格的」に女装させられ、女性的な身のこなしを身に付けさせられる。
それこそ、男でありながら「カーテシー」に熟達しなくてはならない!
あまつさえその状態で「男装した女」たちと「女として」踊らなくてはならない!!そ、そんなバカな!!!
…残念ながら、後のエカテリーナ二世が「回顧録」に書いた1744年のメタモルフォーゼ舞踏会についての僅かな記録でしか後世に伝わっていません。当のロシアにすら余り詳細な記録が残されていないんです。
であれば、徹底的に調べて詳細を想像するよすがにしてやる…と思って調べまくっていたら「こういうことがあったのかもしれない」というIFが猛烈に積みあがっており、気が付いたら次々に登場人物が増えていき、あっという間に第1巻が完成していました。
何しろ調べながらやってますし、ロシア人の独特過ぎる名前とか、歴史のこととかあんまりピンときません。西欧の歴史の中でも正直、一番ごちゃごちゃしてて分かりにくい時代…に見えるので。
なんだけど、もしかしてこういうことがあったのかも!?と思いながら書きました。少なくとも私自身が楽しむことが第一の積りで書いております。
そして、「カーテシー・クラブ」というのもほんの思い付きでしかなく、男たちが集うには余りにも恥ずかしすぎるクラブ名です。
ただ、
「いい年こいたおっさん+美しい宮廷ドレス+カーテシー」
という、三題噺じゃないんですが組み合わせが余りにも強烈過ぎて、どうしても脳裏から離れません。
そんなこと許されるのかと。「男の尊厳を極限まで踏みにじる」暴挙なのではないかと。
何なら「女装強要」までは許したとしましょう(どの立場なんだよ)。しかし「カーテシー」はいかん。カーテシーは。
それはつまり、当時の王宮ではこんな光景が当たり前に見られたってことなんですぞ!?
いい年こいたおっさんがお姫様みたいなドレスに身を包んで「いかにも女っぽい」お辞儀を強要…って。
この舞踏会には「男装させられ」てるんですが、目の前にかしずく男たちを見て当時の女性参加者たちはどう思ってたんでしょうか。
当時の道徳的価値観を全て現在に割り当てて評価するのは危険ながら、女王陛下サイコーです!とは思わずに「さすがにこれはちょっとやりすぎなんじゃ…」とドン引きしてたんじゃないかと信じます。
まあ、「絶対王権」の時代だったから奇跡的になされた人類最大の実験だったんじゃないかと私なんぞ勝手に思っております。
そして、この刺激的過ぎる題材を与えてくれた偉大なるエリザヴェータ様及び、それを詳しく書き残してくれたエカテリーナ二世さまに限りない感謝を!
ということで、これをアップする時点で5巻まで完成し、6巻の構成を練っております。
もっともっとビジュアル補強したいのですが、もう少々お待ちくださいね。
さようなら!また次回作でお会いしましょう!
До свидания! Увидимся в следующей части!
(ダ・スヴィダーニヤ! ウヴィージムシャ・フ・スレードゥユシチェイ・チャースチ!)




