第16話『あの日、舞白は笑っていた』【2】
それからしばらくの月日が流れた。
White Noiseを取り巻く空気は、以前とは比べものにならないほど悪くなっていた。テレビの仕事はなくなり、雑誌の出演依頼は目に見えて少なくなり、グループはイベントや小さなライブを中心に活動するようになった。
華やかな世界から、少しずつ遠ざけられていく。そのような状況でも、舞白だけは違った。ブロードバンドTV、Void Channel。広告を入れず、スポンサーに左右されない配信サービスで、舞白はレギュラー番組を持っていた。
美夏は、そのことを素直に喜んでいた。
自分たちの中に一人でも仕事のあるメンバーがいる。
それだけで、救われる気がした。
だから、その日も、美夏は何も疑わなかった。
「……次のMVなんだけど。今回もセンターは舞白で考えてる」
天導が資料を手にしながらそう言った。
当然だと美夏は思った。今のWhite Noiseで、一番名前が売れているのは舞白だ。
ところが舞白は天導に異議を唱えた。
「……私、今回は美夏ちゃんがいいと思います」
「え……?」
美夏は顔を上げ、舞白を見た。
天導も、意外そうに舞白を見る。
「美夏をセンターに?」
「はい」
舞白は笑っていた。
「最近、美夏ちゃん頑張ってるじゃないですか」
「でも、舞白のほうが話題になるだろ?」
「そうかもしれません。でも……」
舞白は資料を覗き込む。
「今回の曲、少し寂しい感じですよね」
「ああ」
「だったら、美夏ちゃんのほうが合うと思います」
美夏は言葉を失った。
センター? 自分が? White Noiseの転落の原因を作ったのに? 一番人気の舞白がセンターを譲ってくれる?
「……いいの?」
「うん」
舞白は笑った。
「美夏、やってみて」
その笑顔に美夏の胸が熱くなる。
落ち目になったグループの中で、それでも自分を認めてくれる人がいる。嬉しかった。美夏は舞白に感謝した。
舞白は、撮影についても天導に意見した。
「美夏ちゃんのソロカット、たくさん撮った方がいいと思います」
「ソロを?」
「はい。今回のMVなら、廃遊園地の雰囲気が合うと思うんです」
「美夏一人で撮るのか?」
「そのほうがいいと思います」
舞白は満面の笑みで、迷いなく答えた。
「せっかくセンターなんですから。美夏ちゃん一人のシーンがあったほうが、ちゃんと印象に残ると思うんです」
天導はしばらく考えてから、ゆっくりと頷いた。
「……まあ、いいだろう。その方向で組むか」
「ありがとうございます」
舞白が頭を下げる。美夏は舞白を見た。
「ありがとう、舞白」
「ううん」
舞白は笑った。
「頑張ってね、美夏」
その言葉を、美夏は信じた。
あのときは、本当に、何も疑わなかった。
舞白がセンターを譲ってくれたことも、廃遊園地での単独撮影を提案してくれたことも、全て自分のためにしてくれたのだと思っていた。
今、この瞬間まで、美夏は完全に騙されていた。




