第14話『野望の道』【3】
昼間の光景が、舞白の頭から離れなかった。
事務所で美夏が天導と話していた。何を話しているのかまでは聞こえなかった。ただ、二人だけで話していることが気になった。
美夏がこちらを振り向いた瞬間、舞白は慌てて目を逸らした。美夏を見ていたことを本人に知られたくなかった。そのまま立ち去ったものの、夜になっても胸の奥に引っかかりが残っている。
──どうして、美夏ばっかり……。
天導が美夏と話しているところを、最近よく見るような気がする。
舞白は釈然としないものを抱えていた。自分だってWhite Noiseのセンターだ。なのに、律も天導も美夏とばかり話している。どうして──舞白はベッドの中で寝返りを打つ。
考えすぎだ。そう思い込もうとした。
答えの出ない疑問を反芻しているうちに、いつしか舞白は眠りに落ちていた。
……気がつくと、夕暮れの廃遊園地に立っていた。錆びた観覧車が、風もないのに軋んでいる。遊具は朽ち、割れた窓から赤黒い光が差し込んでいた。
「……ここ、どこ?」
振り返ると、天導がいた。
彼の表情は、いつもの穏やかな笑顔ではなかった。これまでに見たことのない、冷たい目をしていた。
「朝霧舞白」
名前を呼ばれただけで、背筋が凍る。
「君には死んでもらうことになった」
「……え?」
何を言っているのだろう。意味が分からない。舞白は後ずさる。言葉にならない恐怖を感じる。
「どうして……?」
答えは返ってこない。代わりに、背後から足音が聞こえた。一つ。二つ。やがて複数の影が、舞白の周囲に現れる。
「いや……」
舞白は逃げようとした。だけど、足が動かない。ガラの悪い男たちが一斉に距離を詰めてくる。
「来ないで!」
舞白は必死で走った。錆びた柵を抜け、壊れたアトラクションの間を駆ける。なのに、どこまで逃げても出口が見つからない。背後から、誰かの手が伸びてくる。
「いやっ!」
舞白は逃れようとした。腕を乱暴に掴まれて、思わず悲鳴を上げていた。いくら振りほどこうとしても、男の手はびくともしない。
「離して!」
舞白の叫び声が、誰もいない遊園地に吸い込まれていく。その向こうで、天導が静かにこちらを見ていた。
舞白は必死に手を伸ばす。
「天導さん……!」
助けて。そう叫ぼうとした。けれど、声が出なかった。天導はただ、こちらを見つめている。冷ややかなその表情が、舞白には、すでに知っているもののように思えた。
舞白は悲鳴を上げた。
「──っ!」
ベッドの上で飛び起きる。真っ暗な部屋。荒い呼吸。胸に手を当てると、心臓が壊れそうなほど鳴っていた。
「……夢……?」
そう呟いた。けれど、夢と呼ぶにはあまりにも鮮明だった。そして、なぜか怖かった。初めて見たはずの場所なのに、舞白はあの廃遊園地を知っているような気がした。




