第14話『野望の道』【1】
美夏を乗せた車が、ゆっくりと発進した。
地下駐車場の出口に向かって、ヘッドライトが闇を切り裂く。
Dream Gateを出てからしばらくの間、美夏は窓の外を見るともなしに眺めていた。
夜の街が、流れていく。信号で止まるたびに、赤や青の光がフロントガラスに滲み、濡れてもいない路面まで色を帯びて見えた。
運転席には柊木がいる。レッスン中はほとんど無駄口を叩かなかった男が、今は片手でハンドルを操作しながら、静かに前だけを見ていた。
美夏は後部座席に座っている。
さっきまで木刀を握っていた手が、まだ少し熱かった。
不意に、運転席から短い着信音が響いた。
ダッシュボードの脇にある、柊木のスマートフォンだった。
画面が一瞬だけ明るくなる。柊木は運転中だったため、手を伸ばそうとはしなかった。数秒も経たないうちに、画面はまた、暗くなる。その様子は、後部座席に座る美夏の目にはっきりと映った。ほんの一瞬の出来事だったが、美夏はそこに表示された名前を見逃さなかった。
──やっぱり、そうだった。
その姓には、覚えがあった。
美夏の心臓が、嫌な音を立てた。
珍しい苗字だったから、よく覚えている。回帰前、廃遊園地のバックヤードに自分を監禁した半グレの一人が、仲間たちからそう呼ばれていた。
偶然かもしれない。同姓の別人という可能性だってある。
それでも美夏の胸の奥で、ばらばらのピースが繋がっていく。
柊木を一目見たときの、カタギではないという直感。彼には、廃遊園地で自分を殺した男たちによく似た気配があった。
美夏はミラー越しに柊木の顔を見た。彼は何事もなかったかのように、前方の道路を見つめている。だが、美夏にはもう分かっていた。柊木は、天導の部下たちと繋がっている。しかも、その『部下』がどんな人間なのかも知っている。
美夏の胸の奥に、冷たいものが広がっていく。
──見つけた。
天導の破滅に繋がる、一本の細い糸を。
「……一つ聞いていいか」
唐突に、柊木が言った。
「はい」
「なんで本物の殺陣を習いたいと思った?」
不意打ちのような質問だった。美夏はすぐには答えなかった。
視線を窓の外へと向ける。何と答えるべきなのだろう。
回帰前の自分なら、きっと別の答えを返していただろう──映画に出るから。役作りのため。アクションができれば仕事の幅が広がるから。どれも嘘ではない。けれど、今の自分にとっての一番の理由は、それらではない。今の自分を支えているのは、そんな綺麗なものではなかった。
そしてこの男を味方に引き入れたいと考えている以上、本心から離れたことを言うべきではないと思った。
美夏は、ゆっくりと口を開く。




