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津の長野様がらみで九鬼水軍に話を持っていく。長野様との話と内宮の話を聞かされて笑うwww

長野家からの文を読み終えたあと、博之はしばらく考え込み、それからぽつりと言った。

「……これは、九鬼様にも話を通しといた方がええな」

 ヨイチが顔を上げる。

「津の飯会の件ですか」

「そうや。長野様の方で、殿様が飯を食いたい言うてる。しかも城まで持ってこいって話や。

 これは下手したら揉める」

「揉めますね」

「だから、九鬼様にも同席してもらう」

「用心棒ですか」

「言い方」

 博之は少し笑った。

「まあ、そうやな。用心棒や」

 お花が静かに尋ねる。

「九鬼様には、どのようにお話しされますか」

「いつもの運賃の話から入る。津の飯会で、長野様とやる時に、船を使うやろ。

 月に一万文ほどかかる。その分は今まで通り払う。今回は、それに加えて一万文積む」

「追加で一万文」

「そうや。津の港と寺で飯会をする。長野様の漁師衆や港の者、それに寺の者も絡む。

 そこに九鬼水軍の方にも来てほしい。炊き出しやから、食いに来てくれと」

 ヨイチが帳面に書きながら言う。

「つまり、運賃とは別に、参加と立ち会いの礼として一万文」

「そうや。建前は飯会へのご招待と、船の筋への礼。実際は、もし長野様が変なことを言うた時に、

 九鬼様が横にいてくれたら、一発でわしが斬られることはないやろって話や」

「旦那様、さらっと怖いことを言いますね」

「怖いもんは怖いやろ」

 博之は真顔で言った。

「領主様に“城まで飯を持ってこい”と言われて、“それは筋が違います”って言い返すんやぞ。

 普通に切られても文句言えへん」

「文句は言えます。死んだ後ですが」

「やめろ」

 お花が少し困ったように笑った。

「飯会の内容はどうされますか」

「今回は大きめにやる。無料分は百人前」

「前回は五十人でしたね」

「今回は倍や。百人分は無料で出す。その後、二百人分を五十文で売る」

「かなり出しますね」

「今回限りの五十文や。そこは伝える」

「今回限り?」

「そう。なぜなら、内宮で常設が決まりそうやからや」

 ヨイチの筆が止まった。

「九鬼様にも、その話をしますか」

「する。隠してもどうせ伝わる」

「それはそうですね」

「内宮さんから文が来た。前回の売れ行きがよかったから、十万文寄進したら、

 鮪とすり身の店を一角で常設してもいいと書いてきた」

「店二つ、という扱いですね」

「鮪とすり身やな。実質二つや」

「九鬼様、驚かれるでしょうね」

「驚くやろな」

 博之は少し口を曲げた。

「でも、もっと驚くのは、うちが十万文を即出したってところや」

「内宮さんの見込み違いですね」

「そう。向こうは多分、半月に一回の出店を何回か続けさせて、利益が出たら、その分を

 寄進しろって流れにしたかったんやろうと思う」

「段階を踏ませるつもりだった」

「やけど、文面に十万文って書いてきた。ちょっと上からやった。正直むかついた」

「旦那様は雑に扱われるのが嫌いですからね」

「そうや。だから、十万文持って行かせた。条件として書かれたものを飲んだだけや。

 これで話は通ると思う」

 ヨイチは呆れたように息を吐いた。

「本当に、金の出し方がむちゃくちゃです」

「向こうが言うてきたんやから仕方ない」

「仕方ない、で十万文が飛ぶ飯屋」

「飯屋や」

「怖い飯屋です」

 その後、博之は九鬼水軍の屋形へ向かった。

 いつものように文と包みを持ち、今回は少し重めの挨拶である。

 九鬼方の者は、博之を見るなり笑った。

「また何か持ってきた顔しとるな」

「はい。今回は、少しややこしい話でして」

「お前の話はだいたいややこしい」

「否定できません」

 博之はまず、運賃の礼としていつもの筋を話した。津で飯会を続けるには、船の力が要る。

 長野家と折半するにせよ、伊勢松坂屋として月一万文ほどの運賃は見ている。そのうえで、

 今回は別に一万文を添えたいと申し出た。

「何の一万文や」

「津の飯会に、九鬼様の方にも来ていただきたいのです」

「食いに来い、いうことか」

「はい。炊き出しでございます。今回は百人前を無料で出します。その後、二百人前を

 五十文で売ります」

「また大きく出るな」

「今回限りの五十文です。今後は値を整えるかもしれません」

「なんでや」

 博之はそこで、内宮の話をした。

 先日の内宮出しが即完売したこと。

 内宮から文が来たこと。

 十万文寄進すれば、鮪とすり身を常設してよいと言われたこと。

 そして、その十万文をもう用意したこと。

 九鬼方は、しばらく黙った。

 それから、大きく笑った。

「お前、ほんまに何しとんねん」

「向こうが十万文と書いてきたので」

「普通は、そこで悩むんや」

「悩みました」

「悩んだ結果、即出しか」

「はい」

「内宮も読み違えたな」

「私もそう思います」

 九鬼方は腹を抱えた。

「吹っかけたつもりが、払われたわけやな」

「たぶん、そうです」

「怖い飯屋や」

「それで、もう一つお願いがございます」

「まだあるんか」

 博之は長野家からの文を差し出した。

 津の飯会が評判になり、長野の殿が飯を食いたいと言っている。

 しかも城まで持ってこいという話である。

 九鬼方の顔が、少し面白がるように変わった。

「ほう。城まで飯を持ってこい、か」

「はい。ですが、それは無理でございます」

「なんでや。持って行ったらええやないか」

「熱々で食べた方がうまいからです」

「そこか」

「そこもあります」

 博之は真面目に続けた。

「それに、城まで持っていけば、長野様お抱えの料理人のように見えます。うちはまだ津に

 横丁も持っていません。寺を借りて飯会をしているだけです。ここで城へ持って行けば、

 周りの飯屋や商人から反発を買います」

「筋が崩れるわけやな」

「はい。さらに言えば、うちは北畠様の領地で始まった店です。九鬼様にも筋を通し、

 伊勢でも筋を通して、ようやく津に飯会として入っています。そこで長野様に呼ばれて城へ行けば、

 いろいろ角が立ちます」

「なるほどな」

「ですので、こちらの案としては、寺で飯会をする。その場に長野様が来られるなら、

 同じ飯を熱々でお出しする。津の者にも見える形で、殿様も召し上がる。それなら筋が通ります」

「それを長野様が飲むかどうかやな」

「たぶん怒られます」

「やろうな」

「なので、九鬼様にも立ち会っていただきたいのです」

 九鬼方はにやりとした。

「用心棒か」

「言い方は悪いですが、そうです」

「正直やな」

「私が一発でばっさりいかれたら困りますので」

 その言葉に、九鬼方はまた笑った。

「お前、自分が斬られる想定で飯会するんか」

「領主様に筋を説くわけですから、それぐらいの覚悟は必要かと」

「飯屋の覚悟やないな」

「飯屋です」

「飯屋が一番怖いわ」

 九鬼方は、しばらく考えてから頷いた。

「ええやろ。面白いし、飯も食える。うちの者も何人か出す。長野様の顔も見ておくにはちょうどええ」

「ありがとうございます」

「ただし、斬られそうになったら、自分で逃げろ」

「そこは助けてくださいよ」

「飯次第やな」

「では、全力で作ります」

 博之が頭を下げると、九鬼方は笑いながら一万文の包みを受け取った。

「ほんま、お前の飯は、港よりも城よりも話を動かすな」

「動かしたくて動かしてるわけではないんです」

「嘘つけ」

「半分本当です」

「半分は動かす気やろ」

 博之は答えず、ただ苦笑した。

 内宮では十万文で常設の口が開き、津では長野の殿を寺へ呼ぶ話になり、

 九鬼水軍には用心棒として飯会へ来てもらう。

 飯を作るだけのはずだった。

 だが、飯を熱く出す場所ひとつで、領主も水軍も寺も商人も動く。

 博之は帰り道、ぽつりと呟いた。

「ほんま、飯って面倒くさいな」

 付き添いの者が言った。

「旦那様の飯だからでは」

「それが一番困るねん」

 津の飯会は、ただの炊き出しでは済まなくなっていた。

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